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想い出はゴミ箱へ   作者: 比我 鏡太朗
3/13

アダプテーション


 ケースケがこの事態を呑み込んでしたことは、人間観察である。

もちろん、この体験したことの無い状況は、ケースケにとってとてつなく不安なものだった。俺だけがこの世に取り残されている。俺だけが置いて行かれた。何で、俺が。そんな思いが渦を巻いては返した。


 しかし、結局のところ死ぬか生きるかで言えば生きるを選んだ。


自殺する度胸が有るほどケースケは豪胆では無かった。それに、食べ物には困らなかった。コンビニエンスストアやスーパーマーケットに行けば、幾らでも食べ物は有り、何故か食料品は、野菜も肉も腐らなかった。その事に若干ケースケは恐怖を感じたが、自分が幽霊のような存在なのかも知れないという考えは、とりあえず考えない事にした。元々、孤独であり、家族との付き合いもほとんど無く、友人や恋人もいない、なので、其処まで今までと変わらないなと開き直り、楽しい物を見付けようとした。


 ケースケの救いと為ったのは、空が動いていることだった。そして、時計の針も。恐らく時間が流れているのだろう。そこに、とてつもない安心感を感じた。雨が降ることもあれば、風が音を立てて吹くこともある。


 太陽が沈み、又出てくる。そんな当たり前のことが心底頼もしく思った。あぁ、海辺に行って夕日や朝日をみたいなぁなど、旅行の計画を立てようかと思ったこともあり、只、現実的に考えるとそこまで行くのにかなり労力がいる。


 どうやら、生物が接触していない物は、ケースケの触れられるようで、車も運転出来るのだが、道路が動かぬ車で道が塞がれている。


 勿論、電車も動かないのでケースケは、自転車と徒歩圏内での移動を余儀なくされたが、それは苦では無く、本気で何処か遠くに行こうとも考えなかった。人目を病的に気にするケースケからしたら今の状態の方が快適なのかもしれないと思うことさえあった。



 最初の数日は悪い夢なのだと、等々俺は可笑しくなってしまったのだと思い、食事も喉を通らず、部屋で布団にくるまり、どうしようかと嘆き苦しんだ。外に出て、また動かぬ人達を見るのが怖くなり、玄関まで行っては戻ってはを繰り返し、結局部屋を出たのは、あの光景を目の当たりにしてから、三日後だった。


 其れまでの間は、休日家でのんびりしている時のように、映画を観たり、ゲームをしたり、本を読んだり、ユーチューブを見たりしようとするのだが、流石にそんな気になれず、身を丸くして只体が震えるのに任せ、腹が減っては食べ、用を足したくなれば足し、こんな状態がずって続くのかと絶望的な気分に為るのを紛らわすように自慰行為に耽けり、風呂のお湯にすっかり冷たく為っているとさえ感じなく成る程浸かり、体を何十回と洗ったりして過ごした。スマートフォンを


出来るだけ側に置いて、最初の内は、頻繁に情報が上がってないか確認をしていたが、次第に時折確認する程度に為った。




 三日後、外に出たのは、単純に食料が尽きたからである。


食料は、二日目の夜で底を付き、外に出るのが億劫ではあったが、同時にそろそろ息苦しさも感じており、昼過ぎにケースケは久しぶりに玄関の戸を開けた。もしかしたら、外に出たから他の人達は時間が停まってしまったのではと思いもしたが、其れなら住居の中に居た人が情報を発信するばすだが、SNSにはそんな情報は上がっておらず、二世帯で住んでいる実家に電話しても誰も出ない。


 4月に入り丁度暖かくなってきて晴天だったのもあり、外の空気は嘘みたいにほのぼのしていて、ケースケは一瞬家を出る前の不安を全て忘れていた。




 近場のスーパーマーケットを目指して歩き出したが、その手前のコンビニエンスストアに入り食料品を購入した。正確には、品物をカゴに詰め、店員のいるレジに入り、お金を払おうとしたが、レジ操作が出来ないので、適当にお釣りが出るくらいの金額を支払い、品物を袋に詰めて店を後にした。




 コンビニエンスストアに着くまでの間に数人の人にすれ違った。


皆微動だにせず、自動車も間隔を空けて停止している。


 気になり、車内を覗くとギアはドライブに入ったままだがエンジン音などはしない。音さえも停止しているようだ。



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