11章 対話
一向にして縮まらないマコとの距離にも慣れてきたケースケは、マコに話し相手に為ってもらった。
『マコ、自意識って何だろうな』
『哲学的な事を聞くね、ケースケ』
『いやさ、うーん自己防衛的なところがあるよね、自意識って。』
『どういうことだい。』
『うーん、人からどう思われているかとか、結局分かんないのに凄い考えちゃうんだよね。』
『なるほど。』
『其れが無ければもっと楽に生きられるし、自分らしく生きられると思わないかい?マコ』
『ケースケ、僕は君の事が好きだよ、こう言ったら君は信じられるかい?』
『そりゃ嬉しいし、疑わないけど』
『けど、何だい?』
『それは、今この瞬間だし、未来永劫では無いだろう』
『そうかもしれないし、そうじゃ無いかもしれない』
『止めてくれよ、マコ』
『本題に入ろう、ケースケ』居直してマコが言った。
寝転がって喋っていたケースケも布団の上で胡座をかいてマコと向かい合った。
『君が色んな事を考えているのは知ってる。でも、それは要領を得ないし、堂々巡りだよ。君は答えを求めているようで求めてない。
君の好きな先伸ばしという奴さ。モラトリアム。君にぴったりの言葉だよ。』
『どうしたんだよ、急にマコ…』ケースケはたじろいで言った。
『君は、客観的に物事を認識してないし、その考えは広くも深くも無いよ。ずっと浅いところを小さいスコップでいじくり回しているだけさ。』
『そうか』
『今、君がすべき事は何だい?他の誰かが何と言ったか何て関係無い。君が本当にしたいと思っている事だよ。』
『俺が本当にしたいと思っている事。』
『そうさ、ケースケ。君が疑問に思うように確かに自意識何て物は要らないのかもしれない。けど、それが無ければ君は君ではないし、社会というものを認知出来ないんだよ、分かるかい、ケースケ』
『何となく』
『言ってる事が矛盾しているように聞こえるかもしれないけど、確かに他人が言う事なんて聞かなくて良い。そう思うよ。でもね、他人が何と言ってるか。何と言われるか意識してるのとしてないのでは、とてつもない大きな差がそこにあるんだよ、ケースケ』
『分かるよ、何となくだけど』
『君は、それをしっかりと意識出来る人間だよ、ケースケ。
そしてそれに惑わされず、その言葉にただ従うんではなくて、自分で考えてそれらすべて飲み込んで自分の意思で行動出来る、そういう素晴らしい人間なんだ。僕は知ってるんだ。君をずっと見てきたから。』
『マコ、お前は…』
『僕は、ケースケをこの世界に連れてきた張本人だよ。そして、それは君の願いでもあったんだよ、ケースケ』
『俺の願い…』
『今、一度さっきの言葉を言うね。ケースケ。今、君が一番望んでいることは何だい?君が心からしたいと思っていることは』
『俺は、この世界を元に戻したい。でも、彼女に会いたい。俺に変わろうとする動機を、きっかけを、原動力をくれた彼女に会って確かめたいんだ。』
『そうか、やっと言えたね。ずっとあったその思いを君は表現出来なかったんだ。でもね、確かに僕なら彼女の元に君を案内出来る。だけど、それには条件があるし、君が乗り越えなければいけない壁があるんだよ。ケースケ』
『条件…乗り越えなければ行けない壁…』
『君にその勇気はあるかい?』
『…勇気はある。勇気は彼女から沢山貰ったから。俺は彼女のためにも勇気を出さなければ行けないんだ。もう嫌なんだよ。部屋でじっと膝を抱えてうずくまる俺も。弱いからと言い訳するのも。』
『分かったよ、ケースケ』マコは優しくそう言った。そして、
『一番大切な想い出を頂戴』弾んだ声でマコが言った。