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第2章 親の再婚で

 ユリのメールはなんとなく解読しづらい。

 達也は絵文字で埋め尽くされた長いメールを読みながら、1人苦戦していた。まるでジジイのようだが、今までのどの女の子よりもわからなかった。

 そして、メールの返事が返ってくるのも早かった。


「ハゲ!」

 頭上からそんな声が降りかかってきたのは、自分の家のすぐ目の前だった。

「親父・・・とうとうリストラされたのか」

「この不景気にそんな物騒なこと言うなよ」

 ベランダで洗濯物を取り込んでいる大の男は、普段は会社に行っているはずなのになぜ家にいるのだろうか。


「いいから早く入ってこい。話すことがある」

 はぁ?と聞き返しそうになったとき、すでに親父は家の中に入っていってしまった。

 なんだかわからないまま、達也はケータイをぱたんと閉じた。


          ▽


 そして、リビングで1人の女の人に出会った。

「はじめまして。あなたが達也君?」

「は、はい・・・えっと・・・」

 40代半ばくらいのその女の人は、人の良さそうな笑顔を浮かべて達也に挨拶をしてくる。

 っていうか、誰だ?


 と、そのとき、2階から親父が下りてきて、にっかりと白い歯を見せて笑う。

「よう!父ちゃん、この人と結婚することにした!」

「はっ?聞いてねーよ」

「今話したじゃないか」


 突然の話に達也はついていけずにいた。

 目の前には、大工でもやっていそうなサラリーマンと優しく微笑む女の人。

 達也の本当の母親はとうの昔に死んでしまったが、再婚という話が出たのは初めてのことだった。


「まだ籍は入れないけどな、とりあえず一緒に住んでみようかって話になった」

「はぁ」

「なんだ。反対か?」

「いや、別に。いいんじゃねーの」


 そのとき、たぶん将来の母親になるであろう女の人が嬉しそうにしたのがわかった。後で聞いたところ、名前は菜穂子というらしい。

「菜穂ちゃん、安心しなよ。このハゲ、こんなナリしてるけど、俺に似て性格は温厚なほうだから」

「ほんとよかったー。達也君とだったら、きっと亜衣(あい)も仲良くなれるわね」


 ん?誰だそれ。

 また新しい名前が出て、達也は困惑してしまった。

 しかし、それはすぐに解決することになる。達也にとって最も驚くべき形で。


「ただいまー」

 何の前触れもなくその人物は帰ってきた。

「あっ、亜衣が帰ってきたかな」

 奈穂子の声の少し後、リビングにとある女の人が現れた。


 それはお決まりのパターンで。達也はその人物を見て、しばらく何も言えなくなってしまった。

 まさか、こんな所で出会うなんて思わなかった。

 いつも駅のバス乗り場でしか見たことがなかったから。


「達也君、紹介するね。娘の亜衣です。よろしくね」


          ▽


 はぁぁぁぁぁぁ!?なんでいきなりこんなことになったんだ!

 いきなり親父の再婚話。それから、相手の連れ子が毎日駅で見かけるちょっと気になる女の子。亜衣っていうらしい。

 自分の頭の中で整理したいことが山ほどあるのに、こんなときに限ってユリから電話がかかってくるし。


「――はい」

『もしもし?今話しても大丈夫?』

「ああ、うん。まぁ・・・」

 それから20分くらい無意味な会話を繰り返した。


 と、そのとき、たまたま自分の部屋に行こうとしていた亜衣とはちあわせてしまった。

 会話の途中だったのに、思わず電話を切った。

 そして、お互いにしばらく見つめ合った。


「・・・電話、切っちゃってよかったんですか?」

 それが最初の亜衣の言葉だった。達也はすぐにその事実に気づいてはっとなる。

「あ・・ああ。たぶん大丈夫・・・・」

 なんだってこんなに緊張するんだ。今まで誰に対してもこんなに緊張した覚えはない。


 会話がない。そのまま達也を通り過ぎようとする亜衣を、達也は思わず呼び止めてしまった。

「なんですか?」

「いや・・・・俺のこと見たことない?俺見覚えあるからさ」

 駅で毎日見ているなんて言えずに、少し曖昧(あいまい)に達也は言ってのける。


 期待せずに訊いたのに対し、意外にも亜衣はこくんと頷いた。

「やっぱり?」

「・・・・昨日、コンビニの帰りに見ました」

「コンビニ?」

 思わぬ単語が出て、達也はきょとんとなる。


 そのとき、亜衣が困ったように笑うので、なぜか達也は嬉しくなってしまった。

 しかし、次の瞬間、達也は凍りついた。

「昨日彼女さんと一緒にいましたよね・・・偶然見ちゃったんです・・・・」


 すぐにわかった。彼女がキスシーンを見てしまったということに。

 なんだか最も見られたくない相手に見られてしまったような気分になった。

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