第1章 ハゲの日常
お久しぶりです。そして、はじめまして。
久しぶりの連載です。
気長に読んでいただけると嬉しいです。
光り輝くスキンヘッド。
ただでさえ印象が悪いのにさらにどん底に突き落とすサングラス。
180センチを超える長身。
その名も五十嵐達也。外見とは裏腹に、自分は純粋だと思い込んでいる高校3年生だった。
そんな彼、達也には1つだけ気になるものがあった。
それはいつも同じ時間、決まったバスに乗ろうとしている女の子だ。
「あ・・・・・・」
そのとき、達也は別の高校のギャルっぽい女のユリと歩いていたので、無意識にユリから離れてしまった。
「なーにー?達也ー、どうしたのー?」
こないだ知り合ったばかりなのに、妙になれなれしいこの女はすでに呼び捨てにしてくる。
「いや、ごめん。ちょっと電話が」
嘘を言って、連絡のないケータイと取り出して耳元に当てる。その間、達也はバス停に並んでいる女の子を盗み見する。
いつも私服だから、私服OKの高校に通っているのだろうか。それとも大学生だろうか。
どっちにしろすごくかわいいわけでもない、結構地味な女だ。
別に好きとか、そういうのではないと思う。
ただ、いつも見るから目に入るだけというか・・・たまにいないと今日はどうしたんだろうって思う程度だ。
と、そのときはそう思っていた。
達也が自分の恋心に気づくのはそんなに先の話ではなかった。
▽
「おいハゲー。お前こないだ紹介したユリちゃんとはどうなってんだよ?」
同じ高校のクラスメートの1人、春樹がにやにやとしながらそう訊いてくる。ハゲというのは達也のニックネームだ。
「どうもなってねーよ。そんなんじゃねーし」
「はぁ?あの子、めっちゃ綺麗じゃね?お前、どういうのがタイプなんだよ」
そのとき、達也の頭に浮かんだのは、いつも駅で見るあの女の子だった。
いや、違う。あんな地味な奴俺のタイプじゃねぇ。
そう思ったとき、ポケットのケータイが振動していることに気づいた。画面を見ると、今話題に出ているユリの名前がある。
「ユリちゃん!?」
いち早くそれに気づいた春樹が興奮ぎみに声を出す。
授業の合間の休み時間だったが、達也は電話に出ることにした。
『あ・・・達也・・?今電話してもよかった?』
「大丈夫だけど・・・どうかした?」
『ううん。今日暇かなーって思って』
暇だ・・・とはすぐには言えず適当にどもっていると、それを肯定と取ったらしいユリは声を弾ませて遊びに行こうと言い出した。
『行きたい所があるんだー。一緒に行ってくれると嬉しいな』
「うん・・・いいよ」
駅であの子に会えなくなるなと片隅で思いながら、達也はケータイを切った。
▽
ユリの行きたい所というのは映画館だった。2人で普段は絶対に見ないケータイ小説が映画化された恋愛モノを見た。
達也は途中で眠気と格闘していたが、隣のユリは感動して涙を流していた。
そして、不覚にも達也自身、真剣に見出してすぐに感動してしまった。
「すっごくよかったねー!」
「超よかった。まさかこの年で泣けるとは思わなかった」
春樹がいたら絶対からかわれるなと達也は思った。悪人ハゲが泣いた!とか。
いつのまにか人通りの少ない住宅地まで来てしまっていた。そういえば、ユリの家がこの近くだとか言っていたような気がする。
「五十嵐達也、感動の男泣き!だもんね」
「それ言わないでよ。かっこ悪いじゃん」
そう言いながら、達也の注意は別のほうへ向けられていた。自分の名前が出た瞬間、どこからかそれに反応する気配を感じたからだ。
「――――?」
隣でユリが何かを訊いてきたような気がするが、達也は生返事だけ返してやり過ごしたそのとき――・・・
キスをされていた。
「―――っ!?」
気がつくと自分の首に両手を回され、ユリが背伸びをするような形で唇を奪われていた。
それは角度を変えて何度も繰り返され、最初は驚いていたが、さすがに理性が抑えられなくなってしまった。達也も自分から相手を求めた。
いつのまにかさっき感じていた気配は消えてしまっていた。
▽
だけど、そのときの達也は何も知らなかった。
翌日、帰りの駅でいつものようにバスを待っているあの女の子が、なぜ達也をじっと見てすぐに目をそらしたのかを。
そして、この日知ることになる真実を――・・・・・・