4話 綺麗なお姉さんは好きですか?
「へぁ?茶房?」
「はいー。当店は魔法店であり茶房であり錬金術の店と成っておりますお客様ー」
清潔感のあるお仕着せを身にまとった眼の前の人物はなんか言い出した。魔法店であり茶房?
「えぇっと・・・まずは。はじめましてジードと申し上げます」
「ジード様ですねー。申し遅れました私は当施設の責任者をしておりますフリーシア・エルド・ルミニアナ・イリジドルと申します。魔道の一門イリジドルの当代などをしております。以後よろしくお願いいたしますー。長くて面倒かと思いますのでフェイで結構ですよ?」
錬金術・・・じゃあここは魔法店で間違いないのかな?やけにファンシーだけど。というか居たたまれない。何だろうこの自分の場違い感。男がー女がーとか云うつもりはないけど流石に居づらい。こういうときは話を進めるに限る。
「アッハイ。フェイ・・・さん?」
「お姉ちゃんでもいいですよ?」
「・・・とりあえずフェイさんで」
「意地悪ですねぇ・・・」
ああやばいペースが掴めない。というかあの通りからここに至るまでのギャップが激しすぎる!なんとかペースをつかもうにもフェイさんの雰囲気のせいで掻き乱されると云うか、やっぱり綺麗なお姉さんは眼福と云うか。ああそうじゃない、話を進めよう!とりあえずワイツさんの紹介状を渡そう。
「実はですね、冒険者さんのワイツさんからこれ預かっていまして渡せばいいと」
「んー?ワイツ君からかあ。何でしょね?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「なるほど、なるほど、な、る、ほ、どぉー?魔道の徒になりたいわけね?でも自分で魔法が使えないと?」
「そうなんですよね、デバイスは扱えるんですがどうしても発現時にオドが霧散しちゃいまして」
「初めて見る症状ねえ、興味深いわあ」
紹介状を渡したあと奥まった二人席でお茶とお菓子を挟んで差し向かい。ポケットから小さな丸メガネを取り出してフェイさんはそう切り出した。
きれいな顔の作りに対してメガネとか不純物と日々考えていたのだけど、やばい。新しいなにかに目覚めそうだ。ああいやいや、相談に乗ってくれているのだ失礼に値する。もっと気を引き締めて
「んーーー?」
机で両手を組んで下から笑顔で覗き込んできた。キレイだけど可愛らしいなぁ。気を引き締めるとかなんの冗談ですかね。美人は見るために有るものだし見られて誇る義務と権利があるのだと声高らかに宣言したい。
「あの・・・」
「あーゴメンねー?・・・うん、ワイツ君の見立ても正しいかなこれは・・・。じゃ、まず一つ」
「なんでしょうか?」
「うん。君は・・・っと言うと他人行儀かな?ジードくんって呼ぶね。ジードくんはさ、多分この先魔道の行使はずっとできないと思うよ?」
ショックか、と言われればショックは勿論ある。5年前にそれは経験済み。それでも先程のだらけた空気から一気に背筋に寒気が走るほどでも有ったその一言は、ああだめだやっぱり息苦しく感じてしまう。今なら焼き菓子買って袋を開けたら全部粉々になってたくらいのショックだ。地味に辛い。
「やっぱりですか」
「うん。ただそれにしては魔道士としてみれば欠陥は其処だけなんだよねえ。なにか意図的にそういう体質に成っていると感じるほどの不自然さっていうのかなあ?なにか覚え有る?」
「特にはないんですよね。生まれたところじゃ冒険者も用事がなければ来ることがない田舎だし、魔道士が付近に住んでいるってこともありませんし」
「生まれながらの体質にしては・・・うーん。それで其処を踏まえてなんだけどね。結果から言うとイリジドル魔道一派には入派出来ません」
「やっぱり駄目でしたか・・・お時間ありがとうございました」
ちくせう。ミルディンさん虐めただけの土地に成ってしまった。他に当てあるかな。この際図書館にでも言って職員募集が有るか見ようか。その前にミルディンさんに挨拶して憂さ晴らしでもしようかな。
そんな事を考えながら席を立とうとしたところ、不意に手を掴まれた。柔らかい。
「まってまって話はまだ続くよ?」
「はい?」
「一派に入派させてあげられないけど、私個人の手解きはしてあげられるよ?雇いって形でここにいてもらって。お給金もだすよー」
「本当ですか!?」
綺麗なお姉さんに手解きしてもらえる!職について不審者じゃなくなる!やったねミルディンさん。手に職つけるよ!予定変更だ。後でミルディンさんにドヤ顔で自慢してこよう。
「ホントホント。ただ本当は魔道の手解きってお金とってもかかるのよねえ。教えるにしても器材やら素材やら。素材については消耗品だし。そ、こ、で、お姉さん頼みがあるんだけどなー?」
おや?これはうれし恥ずかし展開かな?
お読みいただきましてありがとうございます。
新単語Tip
イリジドル魔道一派(門とも)
主に錬金術を主眼においた一派。
物質の本質を求道し真なる価値を見出そうとする思想を持つ。
フェイの劇中の言動も「珍しい症例」として手元においておきたい一心での提案。
魔道士フェイ
イリジドル一派の現首魁の自己申告を示す魔女。
来店したジードの症状に対し執心を見せ、雇用を持ちかける。
その理由は4割で残り6割は挑発すると可愛いからが理由。筆者もそんなお姉さんに可愛がられたい。
雰囲気はほんわかしており話の舳先を五里霧中へと誘う話術を用いて交渉する。そのため周囲の魔法店は常に警戒している。「気づいたら空手形は勿論割の合わない契約をさせられている」のは日常茶飯事である。
☆魔道体系
火道系 アグリアンテ拝火教
神代古典、「始原の一火柱」を敬っており、其処に記述される神秘全般を魔術の祖とする。
水道系 アクシオーン水神教
土着宗教、主神アクシオーンを祖とし、魔術の研鑽に務める団体。流水自体を神格と見なしているため清水や海辺に散見される。
地道系 アーズィルード法術
飢餓の魔王以前より連綿と続く法術の系譜。大地母神に連なる。
子を生み、愛し、育むを第一とするため、同地域に発生した飢餓の魔王に対し最も痛撃を与え最も損害を被った。魔王亡きあとは国力回復のため、こぞって各国はその教義を取り入れた。
風道系 「特に名前無し」
主に平原に住む人々に信仰される、いわゆる精霊信仰。
万物に魂が宿っており、一所に留まらない風を偉大なものの象徴とされている。
風は掴むことが出来ず、あらゆる気象や事象を発生させるためこれと言った教義を持たない。
一般的に「精霊信仰」とすれば風道魔術を指す。
魔女術 (ウィッチクラフト)
魔女とあるが女性しか使えないわけではない。
その内容は多岐にわたり、湿潤術、精神法術を得意とする。
イリジドル一派はこれに迎合している。
理法術 (ワイズワークス)
ウィッチクラフトと対になる魔術一派。
理法の名の通り一定の法則をなぞることにより魔術効果得たり、新たな理を究明し技術を保つ。
どちらかと云うと学問に近く、性質的にウィッチクラフトに最も近く、そして最も遠い。