1話 魔道不能者
始まります。
どんどこおちゃらかになっていくかもしれません。
シリアスは好きですがシリアスを書けない病。
よろしければお付き合いください。
王国歴1423年の春3節に生まれた僕は今日12回目の四季を数え、街に出ることになった。
12の齢において、そこの世界のすべての人間に宿る体内魔力の保有量・質・特性を測り、将来設計の一助とするのが一般的だ。この事実に基づいていろいろな職に効率よくつくことができるのだ。
属性は地水火風の4元素が基本に成り立っている。
その他の属性もあるが目につくことは少ない。
ある程度の魔術学問は開拓され、開拓され続けていて、この分野は今も裾野を広げている。
ただ僕にはその手の診断に全く意味はないのだけれど。
それでも僕は将来はなんとなくではあるけれど、開拓や開発、研究職に就ければと漠然に思っていた。
僕は昔からなにかを観察するのが好きだ。理由はよくわからない。
空に疑問を持った。なぜ星は其処にあって落ちてこないのだろう?
父母を見て思った。父と母の系譜を辿れはどこの誰に行き着くのだろう?
そんなとりとめもない有り触れた疑問。普通の人は考えるだけ無駄だと切って捨てる。
実際系譜をたどってみたことは有るけれど、資料も残らない6世代前で行き詰まった。悔しい。
こんな性格の僕だから、実は随分と前から読み書きと算術は理解していた。村の中でも役に立っている子供だと、密かな自慢である。
そんな僕にもいよいよ街に出ることになった。選定の儀にでて自分の道を歩きだすためだ。
「ジード気をつけてな。道中は護衛も有るし、道行きは1日程度だが・・・街には誘惑も多い。くれぐれも自分を律することを忘れないように」
「あなたは昔から変わったことをよく考える子だけど決して愚かではないと知っています。ただ一つだけ願うのは、無事に家に帰ってきて頂戴」
父さんも母さんも辺境の村の農民だ。決して裕福な家ではないけれど。
でも今生の別れでもないのに大げさだなあ。
「12まで育てていただいてありがとうございます。きっと手に職を付けて自立を果たしたときには、ご恩に報いるように邁進いたします」
人生の節目だということで、できる限り丁寧に返事を返すと父さんに「家族なんだからそういうのはいい。たまに便りを出せ」と半ば乱暴に頭を撫でられた。嬉しいやら気恥ずかしいやら、なんとも言えない。
そんな生暖かい空気の中出発し、1日目の野宿の中継地に到着。街道に沿うように点在する野営地は冒険者たちが水場に近い場所を切り開いていったらしい。見渡せばあちらこちらとパーティのキャンプがはられて盛り上がっていた。
「まあ一人だしテントなんて貼れないけどね」
誰ともなしに一人つぶやいてイソイソと寝支度。僅かでは有るけれど路銀を下着や靴の中に押し込んで隠蔽し、干し肉を齧って寝る態勢へ。あとは警戒用の量産遺物をセットして魔力を流す。
その瞬間周囲のキャンプが一斉に静まった。何事?
急激にピリピリしだした周囲にこっちも緊張してくる。しばらくすると一人のローブ姿の冒険者がこちらにやってきた。
「少年少しいいかね?君は今量産遺物を使った。それは間違いないか?」
「え、あの、はい・・・。えと、なにかまずかったでしょうか?」
「まずくはない、野宿では当然の警戒だしな。ただ・・・一つ聞きたいんだが、君は何処かの魔道士の子弟か何かなのか?」
「いえ、12に成ったので明日街に仕事を探しに出るところで、特に何も・・・」
「ふむ・・・。ああ、失礼した私の名はワイツという。名前を聞いてもいいかね?」
「ジードです。それでそのぅ、一体何でしょうか」
「一つ・・・いや二つ頼みが有るんだ。いや警戒しないでほしい。簡易な魔力測定とお話だけなんだ」
「測定ですか?すみません見ず知らずの量産遺物を可動させるのはちょっと」
「当然だな。そうではなく魔法、理法のどちらでも構わない。最大オドで光源を作って欲しいだけなんだが」
「無理です。」
「は?」
そう無理なのだ。ちょっとした生活に実用的な初等魔道ですら僕には発現はできない。オドの循環はできるし、マナの吸収もできる。ただ一つ僕の体質は出力に問題が有る。らしい。
村で一般的な技能として教わるちょっとした魔道は生活の場で生かされるため、ある程度の分別が付くと教わる。ご多分に漏れず僕もそうだったんだけど・・・出来なかった。どうしても出来なかった。
オドが体を循環するのはわかるのだけど、その結果として出力する瞬間纏まりきれずに手のひらで霧散する。このせいで非常に歯がゆい思いをしているのだ。
ことのあらましをワイツさんに言うと非常に哀れそうな目でこちらを見てきた。やめろその視線は僕に効く。
「それは難儀な、もったいない話だ。いや種明かしをするとね君が今デバイスを可動させたときにオドを吹き込んだじゃないか、その時大魔道等級3位あたりのマナ減衰が確認できた。」
「冗談でしょう?」
「そうでもない。だから異常事態に敏感な冒険者は周囲警戒をしているのさ。ガストフ!大丈夫だこっちへ来てくれ!」
気づけば屈強な冒険者に囲まれるという人生最大級のインパクト。村に帰りたい。ムラノソトコワイ。
「おう、どうだったよ?」
「それなんだがね、少年、発動できなくてもいい。光源をオドで出してみてくれないか」
「わかりました」
なにゆえトラウマを立証せねばならんのか・・・罰ゲームでもここまで酷い目に合わない。それでも文句は言えない。所詮12の子供ですし。
気を取り直して手のひらに集中する。全身の魔素経路を起点に呼吸器が、それらを体内のオドを通す管のようなイメージから手のひらへ。ここまではいい。あとは頭の中で光を思い浮かべて脱力するだけ。するだけなんだけど・・・
「やっぱり駄目ですね」
「ガストフこの通りだ。この子はマナとオドとの相性は抜群なんだが魔道として発現する才能が皆無のようだ」
「そいつは・・・ご愁傷さまとしか言えねえな。おう坊主ジードっつったか、俺はガストフだ」
「はい、ええとジードといいますガストフさん」
「無駄に脅すようなことして悪かったな。俺達ゃ油断するとすぐ死んじまうからよすまねえな」
意外や意外非を認めて頭を下げてくるとは。悪い人でもなさそう。
「いえこちらこそ、村の外に出るのは初めてで作法もわからず、ご迷惑を」
「作法と来たもんだ!」
呵々と笑うと頭をグシグシと撫ぜ回される。首が!首が痛い!折れるもげる!
「ガストフ、手加減手加減」
「おうすまねぇすまねぇ」
ガストフさんは丸太のような腕を引っ込めると再び謝罪。本気で悪びれつつ向き直ってきた。野にして粗ではあるが卑にあらず。といった感じだろうか。
ワイツさんについてはなんだろう、理知的では有るのだけどそれだけにガストフさんとパーティを組んでいるというのは少し違和感。
「ではジード少年。街までと言うがこの街道は首都へは続かない、第二衛星都市リーゲィアへ至る道だ。別名魔道都市。君が行くには少々・・・その、なんだ」
「はい解っています。ですが魔道士になれなくても良いんです。僕は研究職に付きたい、というのが昔からの夢でして。1つ目の行動としてリーゲィアに向かってるところです」
「なるほど。確かに試す前にあるはずの可能性を潰すのもまた愚かなことか」
「良いな坊主。男として見どころがあるぞ。俺ャア見た通りの無学だがよ、それでもこうやって金を得てる。小さくまとまるよりはよっぽど良い」
「ガストフ・・・君はまたそうやって・・・、まぁ君のその出たとこ勝負や根拠のない自信で切り抜けた修羅場は両手じゃ足りないから何も言えないが、少年の人生がかかってるんだぞ?もう少しためになる助言とかはないのかね?」
「小難しいことは知らん!そういうのはお前の仕事だ!」
すごい、一言で拒否ったよ・・・すごい自信家だな。でも不思議と嫌悪感がわかない。ワイツさんもよくこの人と組んでると思ったけど相性は良いのかもしれない。
「あー・・・少年。相方の無茶振りでというわけではないんだがね、リーゲィアに行くなら第5魔法通りの最奥の店<フェイの魔法店>に行って見ると良い。たしかあそこは丁稚だか弟子だか小間使いだかを募集していたはずだ」
「おいおいワイツ、あそこのねーちゃんは俺以上に坊主の教育に悪いんじゃねえのかぁ?」
「否定はしないが、おそらくリーゲィアの数ある店であの店ほど魔道や解析において真摯な店もないだろう」
「そりゃそうだが」
ガストフさんは腕を組んで唸る、唸る、唸る・・・が「まあ考えてもわかんねえな!言葉にし辛いし!」とばかりに思考停止した。
「<フェイの魔法店>っていう店はどのような店でしょう?知っての通り僕には魔道の類は本当に無力なんですよ」
「だからこそ、さ。あそこの店主は一流だ、それ故君のその特異な性質に於いても何か助言をくれるかもしれない。ガストフの言葉じゃないが一つの取っ掛かりとして訪ねてみるのも良いんじゃないだろうか」
お読みいただきありがとうございます。
以下新単語の補足です。何となくそんなものと把握いただけてもいいですし読み飛ばしていただいても大丈夫です。
デバイス
オドを通すことで一定の効果を発動する道具。
魔王が開発したものは物騒なものが多かった。自殺と引き換えに発現したり、土地を不毛にしたり。
研究者が文字通り命をかけて究明し取り回しをよくしたた結果、今では便利な日常道具と化した。解せん。
発動時にはオドを利用するためデバイスの規模により、幾ばくか周囲のマナを減衰させる。
マナ
世界の全ての空間に漂う魔道行使に必要な元素の一つ。
どのように生成されているのかは諸説あるもののこれと言った論拠はまだないご都合元素。
人や魔物はこれを取り込んで体内でオドを生成し、それを使用して魔道を発現させる。
デバイスや魔道行使時に発動体となるものに対して瞬間的に収束する。
オド
前述の素敵元素を体内に取り込んだ結果、その個人が扱いやすいように変質した元素。
これを励起させてイメージに乗せて体外に出力させることで魔道結果を得る。
デバイスにこのオドを通すことで擬似的に魔道を行使することも可能で、オドさえあればジードのような悲しみを背負った人でもお情け程度に生きていける。
魔道
魔法、法術などマナ、オドを利用し発現させる現象を総括して魔道と呼ぶ。
「道」と言う通り、幾通りもそれに至る方法がある。宗教や思想などがその最たるもの。
手順はほぼ「意思」「励起」「循環」「想像定着」「出力」の順で間違いなく発動する、がジードに於いては例外のようで出力の時点で霧散する。ノーコンとも云う。
ジード
村人A。この春めでたく12歳となり村を追い出された元魔王。
元魔王といえども記憶やノウハウなんかは有るはずもなく、生まれた瞬間から人生ハードモードを余儀なくされた。有るのは頭の回転と、マナとオドの気配に対し天才的な感度を持つ。
生まれのせいで結構打算的。
ワイツ&ガストフ
30になるかならない程度の容姿を持つ冒険者。
冒険者デビューはジードの年齢あたりから始めるものが多い中、その年まで不具合なく冒険してることから結構な実力者と推察される。
ワイツはジードほどでもないにしても魔道的な察知能力に優れており、森林なんかでの探索で生き物の気配を探ることに向いている。
ガストフは劇中の通り基本脳筋。悪かったなら謝る。悪くないなら謝らない。思考が単純であるが故に表裏がないので人望はそれなりになる。ワイツには騙される場面に対ししょっちゅう助けられている。