序章 そうして魔王は討ち滅ぼされた。
ゆるゆると更新していきます。
筆の乗り具合で速かったり遅かったりします。
ダラダラと綴られる世界をご消毒いただければ幸いです。
➖さる狂人の独白
飢えていた
食に、知に、力に、何より飢餓感にすら。
生まれながらに膨大な魔力を有していたらしい我は、只管にすべてを貪った。
殺し、潰し、奪う。
本能の赴くまま、なんの感慨もなく、ただ只管に取り上げる毎日。
それでもなお足りない。それでもなお届かない。それだけしてもまだ満たされない。
魔王と呼ばれる我には自我と呼べるものが希薄だった。
生まれついての圧倒的な魔力量。尽きることない無尽蔵。
我は「人族」。
魔王と呼ばれる人族。
今のこの独白も本能と自我の合間に訪れる隙間を縫っての考察。
知らずのうちに蓄えた知識は暦の読み方も習得したらしい。
恐らく、では有るが生まれて今まで不確定な期間を含めて恐らく67年。
その一世代の間に繰り返される、様々な研究実験施行。
膨大な魔力に物を言わせたそれらの実験成果は成功するも、ただ虚しい。
「だからといって何なのだ?」そう自問する日々が続く。
一つ終われば、なるほど、人は満足というものを覚えるらしい。
何だそれは。そうはいて捨てる。
終わりなどない。何かを始めれば、追求は尽きることはない。更に次の問題が、更に次の改良が、それらの先にある終のない、さらなる発展が。そして、追い求めた先に他の研究との関わり合いが。
狂気と正気を繰り返し魔道を邁進する。
既に判っていたことだった。この生に付随する飢餓感には終わりがない。世界と時間の果が今ここに訪れない限り。
幾度も、我のこの研究に対し妨害があった。
綺羅びやかなにしてただの鉄屑をまとった剣士。
足りぬ知識をひけらかし外道との罵る無知の賢者。
有象無象が我の命に群がる。そしてそれを取り上げる。それでも足りない。届かない。
ああ愛しき我の破滅たちよ。貴公らには期待している。是非とも我をこの思考から開放してくれ給え!
愛しき怨敵らよ!我はそのために貴公らを滅ぼす術を練り上げよう!
これより13年の後、大陸すべての国家がすべての兵の命と引き換えに、ついに魔王は討ち滅ぼされた。
ああ、ああ、愛しき怨敵らよ。我を滅ぼす尖兵共よ。
我は今ここで潰えるであろう。貴公らが望むままに。
されど我は飢餓の魔王。悪食にして世界を喰むもの。
足りぬ!足りぬのだ!我一人が滅ぶには我の命一つでは!
それ故見せてやろう。貴公ら愛しき怨敵を迎えるために練り上げた、飢餓の魔王の命を使う魔道の真髄を!
針山のように矢が刺さり、切り傷に至っては言うまでもなく。炭化に腐敗。凡そ生きていることすら不可思議である。
そんな出で立ちの飢餓の魔王が狂人の歌を朗々と唄う。
その瞬間。通称「魔王の森」に展開する全ての生有るものは生のそのものを食い殺された。
あとの残るのは生の残骸。そして魔王の遺物と研究結果。
此れを以て魔王討伐は完遂し、世界は滅びの手前で歯止めがかかり、緩やかに再生していった。