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6 石化のスキル

 感情があるかのような魔獣。眼に蛇が入るという衝撃的な展開。六種しかない筈の加護の変化。

 不思議な体験はゲーム特有だけども、それでも妙な事が起こり過ぎていた。


 一体何が起きてるのかさっぱりだった。衝撃から立ち直れなかった俺は、森に帰ってもまだぼんやりしていた。


「……ヒラノン?」


「お~? 起きた?」


 ふと友達の名前を呼ぶと、意外にも応えるその声。寝落ちせずに近い所に居たらしい。

 声のした方を見ると、マントにくるまってしゃがんでいるヒラノンが居た。


 此方を見上げて、子供みたいに口を膨らませている。


「ずっと固まってどーしたんだよー。トイレ行ったかと思ったじゃんかー」


「……どのくらい固まってた?」


「……三十秒?」


 あの空間に居た時と大体同じだ。やっぱりイベントだったのかな。


「それよりも、本当に倒したのかー。凄いなー。馬鹿だけど」


「馬鹿ってなんだよ」


「二週間ずっとパターン解析やってー、一週間ずっとヤドカリの剣を集めてー。馬鹿でしょー?」


 その眠気眼と奇妙な口調で言われたら、意外と腹立つな。

 だけど、そのお陰で少し気が落ち着けた。気が動転してたって分かるくらいには冷静になれた。


 多分、あの蛇の眼にやられたんだ。

 まるで生の感情がある様な眼差し。それが入って来る気持ち悪さ。

 もう二度と思い出したくない。後で運営に文句を言ってやる。


 このイベントは蛇嫌いにはトラウマ物だから改善しろ、みたいな文面にしたなら、このイベントはもう起きないに違いない。


「……どしたー? また固まってるぞー」


「あ、悪い……じゃなくて馬鹿ってなんだよ! 俺はただ楽しんでただけだぞ!」


「でも私は早く倒す所が見たかったんだよ。ま、勝てたからこれ以上文句を言わないけどー。それに中々興味深いアイテムも見れたしー」


「アイテム?」


「んー。集めといたよー。ほら」


 といってバッと見せられたそこには、きっかり分類されたアイテムが並べられていた。

 深い緑色の鱗。それに紫の混じったもの。二本の牙に二つの眼。そして多分背骨だろう大きな骨の塊がとぐろを巻いている。


 どれもこれも見覚えがある。バジリスクのドロップアイテムだ。

 その鱗を一枚とって指で弾いてみれば、キンという澄んだ音が鳴った。


「随分と取れたな。特に鱗が」


「鱗はものを使う時に量が居るから、あまり期待しない方がいいよー」


「じゃあ他は?」


「その時々かなー。でも眼と背骨は凄いよー。んへ」


 急に口調が変わり出した。

 来たな。こいつの本性。


 マントをズルズル引きずって、アイテムの周りをグルグル回りながら呟き始めた。


「いいなー。眼ってあまりドロップしないんだよー。背骨ってそもそもドロップ無かったし、これ凄いんだよー」


「……欲しいのか?」


「うん。でも自分で取るから要らないよー」


 なんて言ってるが、だらけ切った笑顔でアイテムを見ていて、全然言葉に説得力がない。

 このアイテムコレクターめ。こんな状態じゃ人のこと言えないだろ。


「んへ。バジリスクの眼。んへへ。良いなあ。これ」


「……オーケー。分かった。半分やるよ」


「今の私に冗談は通じないけど?」


「やるやる。きっかり半分やる。俺はアイテムじゃなくてスリルと海を渡る力が欲しかっただけだからな」


 それに、コレクターのヒラノンが珍しいアイテムを前に耐えられるとも思えない。

 現に俺の言葉をきっかけに、ガソリンが引火したみたいにヒラノンが動き出している。


 マントをバッと弾いて、アイテムを両腕に掻き込み、あの妙な笑いを漏らして、眼は異様な速さで泳いでいる。

 まるで舞い落ちる札束をかき集める金の亡者みたいだ。ああ、金じゃなくてアイテムの亡者だったか。


「……何か引くな」


 思わず呟いたけど、彼女は全く気付いて居ない。どんどんアイテムを収納していっている。

 ヒラノンが落ち着いたのは、アイテムをきっかり半分アイテムボックスに収納してからだった。


「んへへ。ありがとー」

 

 またマントにくるまってこちらに向く。涎の後が拭い切れてない。完全に女を、いや人を捨てている。


「そりゃ取る前に言えよ。というかそんなに珍しかったのか?」


「んー。そもそもこの島自体が見つかってないからー。後はここの草とか砂も全部集めたいなー」


 草はともかくとして、砂だと。


「……コレクトガチ勢め」


「褒めるなよー。照れるぞー」


 手の平で蛇の目を転がしながら照れるなよ。何かシリアルキラーを見てる気分になって来るだろ。


「……目か」


「んー? やっぱり両方欲しいか? なら今度は私が取りに行くけどー?」


「違うよ。何か倒した後にイベントがあってさ」


「あー。だから固まってたのかー」


「うん。それでバジリスクが右目に入るみたいな描写があって」


「おー。何かカッコいい。見せて見せてー」 


 急に手が伸びて前髪を髪を引っ張られる。

 と言って唐突に手を伸ばして右目をぐいと広げた。


 この女、無遠慮にも程がある。

 反対側に持っている目玉を転がす時の丁寧さを、半分でも分けてくれ。


「……全然変わってない」


「そりゃそうだ」


 勝手にキャラ改変されたらそれこそ苦情ものだろう。


「あー。でもこいつ仮にも神様だったんだろー。ならスキル欄見といたら?」


「スキル欄? 何でそんな所を?」


「特殊なモンスターを倒すと、スキルを得る事があるんだよー」


「へえ。……おっ確かに変わってる」


 話を聴きながら操作していると、確かにスキル欄に新しいものが追加されていた。


 そのスキルはパッシブスキル、つまり常時発動型の物だ。

 その名も石化の魔眼、何だか強そうな名前だ。


「良いな。凄い強そうだ」


「いいのか? 強いとギリギリの戦い楽しめないけど?」


「強い武器とかスキルとかは、それだけでワクワクするだろ。ロマンだし」


 それにギリギリの戦いを楽しみたくなったらもっと強い所に行くとか、縛りプレイをすればいいだけだ。


「えーと何々、この、スキル……は……」


 その説明を見た途端、俺は固まった。


 俺の予想では、敵を石化させる能力だと思って居た。あのバジリスクの能力が俺に備わったんだ、と喜んでいた。

 これで戦闘能力が底上げされて、大陸にも行けるに違いないと手放しに考えていた。


 だけど、石化の魔眼はそんな期待を裏切って、俺を固まらせた。

 二重の意味で、固めた。


「……サガラが石像になってる。すげー」


 ヒラノンの言う通り、俺は石の塊になって居た。


 石化の魔眼。それは説明通りなら十分に一度、十秒間自身を石化するという最悪のスキルだった。

 それはスキルというより呪いと言うべきもので、神殺しを果たした人間には当然の報いとも言えた。


 だが、だがしかしここはゲームだぞ。そんな律儀に神の役目を果たすなよ。

 十秒間とは言え操作不能って、しかもそれが十分おきって……。


 ……待てよ。良いかも知れない。


 この程度のハンデ。ギリギリの戦いを楽しむ俺には良いスパイスだ。

 それに動けなくなるのは十分に一度、しかも十秒だけだ。


 さっきのバジリスク戦のような長丁場が封じられただけ、と考えると全く嫌な気にならない。


「中々面白いスキルじゃないか」


「あ、戻った」


「石化の魔眼か。まあ良い。いいや、凄く良い」


「あ、変なスイッチ入ってる」


「どんな苦難が来ようと俺はこのゲームを攻略しつくしてやるぞー!!」


 なんて言って両手をあげる中、ヒラノンが冷たい眼差しを向けていることに俺は気付かなかった。


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