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3 サディスティック・アイテムズ。そして友人襲来

 三十分間の食べ放題ならぬ狩り放題の結果を述べるなら、微妙だった。


 勿論、難易度は高かった。剃刀の上を走り抜ける様な緊張感が常に付きまとっていた。

 どの場面も気を抜けば一瞬で瀕死まで持っていかれ、気を抜かなくても死にかける。


 だけど、やっぱり超接近戦に持ち込めれば途端に弱くなるのは確定らしく、そうなってしまえば一気に難易度は下がってしまう。


「剣が耳を掠めた時は心臓が縮んだどなあ」


 それでもそろそろ次の刺激が欲しい所だ。もうさっさと強敵が居る海にでも行ってみようか。

 強いと言われたけど実際に見た事ないし、やりようによっては何とかなるかも知れない。


 うん。そうだな。海にも敵が居てゲーム内じゃ溺れないんだ。潜水してでも挑んでやろう。

 ヤドカリ狩りの次はタコか、魚か、蟹か。本格的に食べ放題見たくなってきたな。


「いやその前に、狩った結果を確かめるか」


 もしかすると強敵と言われた海の敵に対抗できる状態になってるかも知れない。


 先ずはレベルだけど、三十分ほど遊んだ結果レベルは七となった。

 最近のゲームとしては随分とのんびりした上がり具合だ。


 が、ステータスの方は意外と景気良く増えている。

 筋力は十一上がって二十九。ヤドカリに対してごくごく普通に攻撃が通るようになった。

 耐久という欄もそれなりに上がっていて、防御力も頼りになって居る筈だ。

 そっちの方は攻撃を受けないようにしているせいで沸いてこないが、多分一撃は耐えられるだろう。


「つまり、もうギリギリの戦いは楽しめないって事か。完全攻略の為には仕方ないんだろうけどなあ」


 まあ、元々動きは最適化しちゃってたからスリルも何もない。そこは諦めるか。


 次にアイテム欄を確かめてみる。

 最初のアイテム欄はスッカラカンだったけど、今はどうだろう。大量のアイテムがギッチギチに詰め込まれている。

 ヤドカリが背負っていた大きな貝殻、そいつらが使っていた大きな剣、変な匂いのする肉。全部ドロップアイテムだ。


 まだ説明を見てないけど、どれもこれも楽しそうな物ばかり。

 これの化け具合によっては、直ぐにでも海に出られるだろう。


「さてさてやってみようか。アイテム作成」


 一体何に化けるか、本当に楽しみだ。






 と、意気込んだわけだけども、その結果は俺の予想を裏切って居た。

 俺の予想を裏切って、とてもワクワクする内容だった。


 つまり、とてもシビアでサディスティックな内容って事だ。


「酷いなこれ。一体どうしろって言うんだよ」


 貝殻に背中を預けて顔を戻そうとするけど、にやけが止まらない。

 近く刺した剣に手を付いて堪えるけど、腹筋が引き攣っている。


 だって散々な結果すぎだろ。これ。


 先ずあいつ等が背負っていた貝殻だけど、これを加工するには他の鉱石が必要だった。

 もう一度言おう、鉱石なんて上等なものがない無人島に居る巨大ヤドカリの貝殻を使うには、鉱石が居るのだ。

 つまりこれを使いたいなら、わざわざ鉱石を取りに行ってからここに来るか、貝殻を確保する為だけに無人島に行く必要がある。


 次にあいつ等の手に生えていた剣は、何と俺のレベルが足りなくて加工は不可と来た。

 だがそれではまだ易しい。サディスティックなのはこれの説明文の中にある、そのままでも使えるという一文だ。

 間違いなく使えると書いてあるんだけど、実はこの長剣、大きい上に重くて全く振り回すことが出来ない。使えると書いてあるのに、使えない。


 最後に残った肉に至っては、火の傍でないと加工が出来ないらしい。


「無人島で火を手に入れろ、か。益々サバイバルらしくなってきたな」


 無駄で、理不尽で、最悪な環境だ。

 これで笑わない方が可笑しいだろう。


 三十分の成果がどれもこれも難ありアイテムという逆境、楽しくて仕方がない。

 ここからどうひっくり返してやろうか、と妄想するだけで一日を過ごせる自信がある。


「まあ、とりあえず火を探すか。肉を試してみたいし」


 蔓と流木があれば火種は作れるのはもう周知の事実だし、これだけ現実に即してるんだ。弓ぎり式くらいには対応してるだろう。


 ……いや流石にそこまで求めるのは間違ってるかも知れないけども。

 原始的な火おこしが出来るゲームってもうジャンルが違うし。


 とにもかくにも、博物館で得た知識と、体験コーナーに夢中になった小学生の頃を思い出して、いざ。

 





「……いや出来ちゃったよ」


 俺の目の前には、乾いた木で作った焚き火がメラメラ燃えている

 勿論これは摩擦熱を利用して作った、サバイバル術の代物だ。


 つまり、ここの開発者はこんな変な事をする人間が居ると予想して実装したって事だ。

 全く凄いな開発者は。もしかして本当にサバイバルも楽しめるようにしてるんじゃないだろうか。


「いやいや、それはないか。とにかく肉を加工してみよう」


 火の傍で作成を選択すると、肉の表記が変わって新しい欄に移る。

 焼かれた甲殻類の肉、なんてあまり美味しそうじゃない表記だ。


 効果は……僅かな体力回復と敵のおびき寄せか。


「序盤の回復薬って事か? それとも本当に餌代わりか?」


 試しにアイテムボックスから出してみる。


「ぐっ!?」


 途端、手に乗ったヌチャっとした感触、空気を重く汚染しだした異臭。

 これが、肉だって言うのか。汚泥を糊か何かで固めただけじゃないか。


 異常に臭くて、触り心地は生ゴミを入れて腐らせたスライムみたいで、寒気で動けなくなっていなければ直ぐにでも海に投げただろう。


「いや海じゃ駄目だ。海洋汚染になる」


 しかも深刻な、が付くほどの汚染だ。


 当然、どれだけ体力を削られても、この生臭さを我慢して使うかと言われれば否だ。

 というか、こんな不味いものを食べてまで勝ちに拘る人間なんて居るのか。

 もし居たら即刻射殺すべきだろう。それは間違いなく人の皮を被ったエイリアンだ。


 因みにその他に使い方である餌代わりだけど、そう使うのも間違いなくない。

 ヤドカリ一匹でも結構大変なのに、それがわんさと来たなら捌き切れるわけがない。


 つまり、この肉は折角火を使って作ったのに、使えない。


「ひ、一先ず、海水で手を洗おう」


 アイテムボックスに汚染物質を仕舞って手を洗って、人心地付く。


「さてと……一頻り喜んだは良い物の、癖のあるアイテム過ぎてどれも使えないなあ」


 もしかするとアイテム込みでもっと強い敵と戦える・……じゃなくて島からの脱出が図れると思って居たのに、これじゃ脱出どころの話じゃないな。

 このままだとまたヤドカリ狩り放題をやらないといけないかも知れない。即ち、全然スリルを感じなくなった戦いをやらされる羽目になる。


 こうなったらやっぱり海へ飛び込もう。

 石のナイフ一本でどこまで行けるか分からないけど、死んでもデメリットはないんだ。挑戦して損はない


「こいつも、まさか海に行くとは思って無いだろうな」


 既に相棒となったナイフを見ていたら、何か黒いシミが見える。

 と思ったら、それは見る間にどんどん大きくなってきた。


 大きくなるシミ……なんてあるんだろうか。ああ、天井の雨漏りはそうか。

 家にある天井を思い出しつつ見ていると、そのシミはナイフをはみ出して、地面に飛び出す。


「ああ、影か。ってやばっ!!」


 恐怖のまま逃げると、足を掬うような地響きが地面を揺らした。

 尻餅をついた俺の目の前に砂埃の柱が立って、目の前が真っ白になる。


 ……死ぬかと思った。心臓が飛び出るかと思った。そのまま魂も抜けるかと思った。確かに俺はスリルが好きだけど、こんな不意打ちは好きじゃない。寧ろ嫌いな方だ。


 全く心臓に悪い。


「で、落ちたのは何だ? 雨か? 槍か? 隕石か?」


 気を落ちつけて冗談を言ってみたら、意外にも砂埃の中から答えが返ってきた。


「いんや、人だけども?」


 そう言って煙を振り払ったのは、大きなマントを着た、女だ。

 その眠そうな目とすっぽりとマントに包まれた姿に見覚えがある。


 そいつは俺をここに誘ってくれた友人で、俺よりもずっとこのゲームにドップリと嵌っている人間。


「ヒラノン! お前来れたのか!?」


「来れちゃったんだな~。これが」


 友人のヒラノンはそんな間延びした声で答えた。






 ヒラノンの特徴を一言で言えば、眠たそうな女だ。

 すっぽりと全身を包むマントは、毛布にくるまっているように見える。

 その半目はいつ眼を閉じるかも分からない感じだ。 


 だが彼女はこう見えて延々とこのゲームをやり込む高レベルなプレイヤー。その気になればどんなモンスターも一瞬で伸して見せる腕前を持つ。


「しーかし、こんな所でスタートするなんてねー」


「まあ。その気になればの話だけど」


「なーんか言った―?」


「独り言」


 リアルとゲームで雰囲気が変わらないっていう人も珍しいよなあ。

 授業中でも寝てるし、ゲームで遊んでる最中も寝るし。


 朝、昼、晩と寝続けて、身体が痛くならないんだろうか。

 だとしたらこれもある意味進化と言えるな。


 すっげえ無駄な進化だけど。


 ヒラノンは降りて早々、落下地点の穴に砂を蹴り入れている。

 マントの下から覗いた足は、随分とごついブーツを履いて、何だか似合っていない。


「趣味悪いなその靴。もしかしてこれで落下ダメージを防いだのか?」


「違うよ。落下ダメージを無効にする薬を飲んでたんだよ。私はそれと浮遊薬を飲んで漂うのが好きでねー」


 と言いながら、今度は程よく埋めた穴の中にうずくまって寝始める。

 ああ、こいつ砂蹴って寝床作ってたのか。筋金入りだな。というかネコかこいつ。


「ん~。良い寝心地」


「お前からすればどこだって極上ベッドだろ? てか何しに来たんだよ?」


「いんや、どうせまた無謀な事を始めるだろうから、ちょっと助言とか、観戦しに来たんだよ」


「助言と観戦?」


 一体何を助言しに来たのか、と思えば穴の中、マントから腕だけが伸びてビシッと指を差される。


「ここのスタートは本当にきついよー。大したアイテムも作れないし、モンスターも強さの割に良いドロップアイテム落さない。だから六巨神のスキルを使って早めに強敵を倒すのがい……あ、久々に話したら舌吊りそう」


 長文って訳じゃねえだろ。ちょっと見ない内に益々体力落ちてないか。こいつ。

 そもそもここゲームの中だぞ。疲れる訳ないだろ。


「六巨神? ってアレか。愚者とか皇帝とかっていう」


「そー。加護でもらえるスキルは便利だからねえ。私は原質変成。アイテムのスキルを一回だけランダムに変えることが出来る、魔術師のスキルだよー」


「へえ、便利そうだな。俺は愚かな歩行って奴だ」


「あー?」


 何か、凄い長い疑問符を投げかけられたぞ。


「あー」


 今度は何かを考えるように空を仰いだぞ。


「あー」


 最後に何か悩むように下を向いて、改めて向き直る。


「孤島、山無し、ゴミスキル?」


「ゴミって言うなよ。一応神様からもらったスキルなんだから」


 随分と酷い言われようだけど、言われて改めてその酷さを自覚できた。

 何というか、無理ゲー一歩手前なんじゃないか。これ。


 と思ったらヒラノンが穴の中から這い出て、俺の肩を叩く。


「流石に無理。やりなおそ?」


 その言葉は、意外だった。


 ヒラノンは何時も怠そうにしているし、休みの日は光を浴びたくないっていう程の出不精だし、話すことすら億劫になるほど気力体力がない女だ。

 でも、友人の付き合いとかは普通にこなすし、イベントごとも参加する。現に俺の無茶無謀な遊び方にだって、大抵は付き合ってくれた。


 なのに今回は止める側についている。

 これが何を示しているか、容易に想像ついた。


「そんなに大変なのか」


「うーん。やるのは良いけど、全然楽しくないよー。特に愚者のスキルは使えないか、ハイリスクなのしかない玄人向けの属性だしー。海は四十レベルから行ける感じだしー」


「そうか」


 それだけ厳しかったのか。いやはやこれは困った。

 凄く……困ったぞ。


「うわー。何か凄く楽しそー。やる気だよー。めんどくさーい」


「面倒言うな」


 俺のプレイスタイルを良く知っているからこそ、言っちゃうのは分かるけども。

 違うゲームで付き合わせた事があるから、言うのは仕方ないかも知れないけども。


 だからと言って人がこんなに楽しそうにしてるところに水を差さなくてもいいだろう。


 そもそも、ヒラノンが止めるほどの困難があって、俺が引き下がるとどうして引くと思ったんだろうか。


「というか、ヒラノンには関係ないだろ」


「あるよー。暫く余裕がある時は観戦するからねー。はっきり言って無理難題だよ」


 無理難題か。良い言葉だ。


「この海を越えるのも不可能だと思うよ」


 不可能、たまらない響きだ。


「諦めた方がいいと思うなあ」


 諦めた方がいい。諦めたくなくなって来るな。


 全くヒラノンは俺を焚きつけるのが上手いなあ。

 そんなに燃料を投入されて、燃えない訳がないだろ。


 口元が笑ってしまうのが自覚できた。投入された燃料で蒸気が吹き上がって、活力が湧き上がって来る。


「無理難題? 大いに結構! 俺はそれが大好きだっ!!」


 もう決めた。このキャラで、絶対にこの島を脱出してやる。





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