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1 熱帯の孤島に放置された件

 素晴らしいゲームがある、なんて言われて誘われたそのゲームが楽しいかなんて、俺にはさっぱり分からなかった。


 まあ、景色は良いかな、とは思う。真夏のバカンスって感じだ。


 踏み心地の良い白い砂浜、何処までも続く水平線、エメラルドグリーンの海。

 穏やかな白波の音は眠くなるし、風になびく葉の音も凄く穏やかな気持ちになって来る。


 現に足を脱いで波に浸け、寝っ転がってみると本当に旅行に来た気分になってきた。

 夏休みに来れたならきっと最高の思い出が出来るに違いない。


 だけど、やっぱり、それだけだった。


「良い景色以外、何もないんだけど?」


 俺が居る場所は、何もない孤島だった。








 俺が初めて遊ぶこのゲーム、ミスティ・アーツのストーリーは俺の心に刺さる、好みの物語だった。

 そのモノローグは、剣戟と魔法が飛び交う心躍るイメージ映像とともに流れていたからよく思い出せる。



 恐ろしい魔獣が跳梁跋扈する世界で、人々はそれでものびのびと生きていた。

 彼等にはどんな化物すら退ける三つの力を有していたからだ。


 彼等の体に特殊な力を与える古き血統。

 世界を築いた偉大なる六神による加護。

 そしてモンスターの力を封じ込めた自身で創り上げる武器


 どんな魔獣だろうと立ち向かい、多くの血を流しながら確実に発展し続ける人類。

 歩みは遅々としていたが、彼等が大繁栄を遂げるのは間近だった、はずだった。


 しかしある時、それを阻むように突如として奇妙なモンスターが出没する。

 その体は岩のように硬く、その内に炎を宿し、体中のひび割れからそれを噴き出す、異形の化物。


 奴等は人やモンスターを問わず殺し、食い荒らし、徐々に生息圏を広げていく。

 近付いていた筈の繁栄の未来、押し寄せる滅亡の危機。


 加護と血統、そして武器の力を手に入れた君は、その世界で何を得るだろうか。




「少しダークチックなあらすじだけど、端的に言えば、モンスターを狩りながら強くなって異変を解決しろってことだな」


 もっと雑に言う人は、己の身と自慢の武器だけで生き残るゲームだ、という事になる。

 いやいや、だからと言って無人島でサバイバルをするのが目的じゃないはずなんだけども。


「一人だけやってるゲームが違うような……いやマジで間違えたか?」


 ゲームすら疑わなきゃいけないなんて凄い状況だ。そもそもこんな誰もいない島でただ一人遊ぶオンラインゲームなんてオンラインの意味がないだろ。


「まあ、楽しそうだからいいけどさ」


 素足で波を感じつつ、空を見上げつつ、しばし考えてみる。


 友人から聞いた話じゃもっと人里に近い場所に呼び出される筈だった。

 なのに、俺が居る場所は人の気配もない島。話と違うというか、真逆だ。

 つまりこれは異常事態なのか、それともこれが普通なのか。


 分からない。さっぱりだ。

 だが……それがいい。


「うん。やっぱり楽しそうだ」


 逆境、高難易度、無理難題。そう言ったのを手軽に楽しめるからゲームは止められない。


 ただただストーリーをなぞれば勝てる戦いは好きじゃない。

 悩まずにできるゲームなんて心も動かされない。

 パズルもアクションも歯応えが無ければ楽しめない。


 そんな質の俺にとって、この状況は燃える以外の何物でもない。

 何かいい匂いがプンプンして来るのに、上がらない訳がない。


「ここから完全攻略してみるのも、悪くない」


 一先ず手は打ってある。バグか何かは知らないがそれが実るまで、このゲームが難しいかどうか、確かめてみよう。




「そう言えばそもそもキャラメイクすらしてないんだけど? 一体どうなってるんだ?」


 勿論、見た目は決めた。スポーツの出来そうな快活な顔を目指した、かなりの自信作だ。

 年齢は自分と同じく十代前半、多少甘い顔立ちになったのが難だが、まあまあ妥協できる。


 だけど、俺が作ったのはそこだけだった。

 あらすじがその通りなら、キャラメイク時に加護や血統と言った欄がある筈だ。

 それに、友人もキャラは見た目以外にその二つが、それが差を生むと言っていた。


 なのに俺はその二つを選択していない。


 見た目を決めた瞬間即放り出されて、気付けば海の孤島だ。

 もしかすると俺は日頃の行いが悪いのかも知れないな。

 いやむしろご褒美って可能性もあるかも知れないけど。


「一先ずステータスでも見るか、ここで弄れるかも知れないし」


 なんて言って、砂に五体投地したまま適当に操作して、ステータス画面を出す。


「…………これなんだ?」


 自分の名前はサガラと決めていて、ステータスにもその名前が載っている。

 それは当然だ、納得できる。そもそもそれすら選択できないなら困ってしまう。


 だけど、その後ろに妙なマークがあるのも、何か困惑してしまう。


 荷物を吊り下げた棒切れと、三日月が組み合わさったようなマーク。

 どこかで見たような、だけど全く見覚えのないそれに、首が自然と傾く。


「何だ。これ? どっかに説明が……あった」


 説明を読めば、どうやらこれが加護の一つらしい。


 曰く、血統と加護はランダムで決められ、加護は計六種用意されている。

 それぞれ愚者、隠者、騎士、魔術師、教皇、皇帝。

 どれも特殊なスキルを与えるものであり、時に進化することもある、との事。


「血統に加護。こんな大事そうな二つをランダムで選ばせるか。益々ワクワクして来るな」


 きっとこのゲームを作った奴は、サディストに違いない。

 随所に鬼畜な設定や敵が出て来るだろう。


「で……俺の加護は愚者か。トリッキーな物が多いって事かな」


 何となくそんな目星をつけて、自分が得たスキルを見てみる。


「愚かな、歩行?」 


 内容は、どんな所も十秒間だけ歩ける、というものらしい。


「何それ、全然愚かじゃないだろ。寧ろすごいだろ」


 どんなところもってことは水面は勿論歩けるんだろう。

 きっと溶岩だって平気に違いない。

 ひょっとすると壁歩きも可能なんじゃないか。


「夢が広がるな。絶対当たりスキルだ」


 まあ、海の上を歩いて観光、くらいの使い道しかないのは目に見えている。

 こういうゲームで攻撃手段でないのは、ある意味愚かと言えるかもな。 


 でもやっぱり楽しそうだ。早速試してみよう。


「えーと何々」


 スキル発動の方法は言葉と動作の二段認証らしい。


 つまり、例えば『歩け』と言いながら『つま先を地面で叩く』という風に設定したとしよう。

 そして言いながらつま先を叩き、海に駆け出せば……。


「走れてるっ!?」


 海の上を歩けた。凄い凄い……って不味い。


「波立ってるから、走りにくっ!?」


 地面が波立ってるようなもんだから、当然の帰結だった。


 バランスが取れず、頭からつんのめって、海にヘッドバッドを叩き込む。

 なのに足はまだ愚かな歩行の効果が残っていて、プカプカ浮いている。


 形としては、足を持ち上げられて海に沈められている形になったていた。


 何か、情けない。恥ずかしい。顏から火が出る。

 誰も居ないんだけど、顔が海の中で良かった。


「溺れないとはいえ、確かに愚かだな」


 どうやら効果が切れる約七秒間、この無様な体勢を続ける事を強いられる様だ。

 このままじゃ何もできないし、時間を無駄にしたくない。その間に血統の欄も見るとするか。


「いや別に、意識逸らしたい訳じゃないしって誰に言い訳してるんだか」


 血統、正しくは古き血統というらしい。

 ストーリーから推察するに、要はご先祖様って事だろう。


 で、ステータス欄を調べた所、俺の血統は有角人と書いてある。

 説明をきゅっと縮めると、要は草を主食にした人だったらしい。


 俺の先祖は草食動物か。何だか弱そうだな


「ステータス的には、魔力が一番高くて耐久が低い。で、魔力はスキルを使う時に消費するから……スキルを多用するキャラって事かな。お、独自のスキルもあるんだ」


 その名も草食。その名の通り、草のアイテムを食えば体力が回復するらしい。

 だけど、毒草を食べれば当然毒になるから、緊急回避として使うべきだろう。


 このスキル、使いやすいのか、使いにくいのか。まだまだ分からないなあ。


「だけどこの血統も色々発展するみたいだし、決めつけるのはまだ早いか」


 さてさて、俺は愚者加護持ちの有角人だって分かった訳だ。

 そして未だ友人からの連絡はなし。と来たらやることは一つ。


「早速戦ってみるか」


 何せここには人は居なくとも敵は居るんだから、戦わない訳には行かない。

 ギリギリの戦いか、ヌルゲーか。いよいよ判明する時が来たって訳だ。




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