報われた努力
「寒っ」
いつの間にか眠っていたらしい悠が目を覚ますと、なぜか窓が開いていて、そこから小柄な赤い服を着た少女が入ってくるところだった。
「だ、誰ですか!?」
声をかけるも返事がない。悠は恐怖と寒さに布団を手繰り寄せ、隅に寄る。一方サンタはというと、特に何をするでもなくこちらを見て、一言「メリークリスマス、葛城君」と言って立ち去った。
「今の──藤沢さん、だよな……」
声を聴いてようやく判別がついたらしい悠は、弾かれたように窓から下を見下ろす。しかし、すでにサンタの姿はなく、冷たい風が流れ込んでくるばかりだった。
と、そこで大きめの白い袋があることに気づいた。窓を閉め、袋を開けてみると、そこには大量の折鶴と「葛城君を想った日数分」と書かれたメモが入っていた。
「これ、千羽鶴……?」
一つ一つ手に取り、個数を数えていく。
「264羽しかない? 12月25日引く、264日はっと──4月6日。てことは、今年の始業式!? てことはずっと──」
悠はそこで彼女の意図に気づいた。
「最高のクリスマスプレゼントだ……」
彼女への想いで胸がいっぱいになる。彼女も昨日の朝の出来事は知っていただろうに、そこまでして告白に踏み切らせるきっかけを与えてくれたことに感謝した。
○
25日。朝。今日は雪が降るほどの寒い日らしく、悠はいつもより厚着をして家を出た。気温は寒くても、心は熱かった。今日は彼女に想いをきちんと伝える日。緊張はしていたけれど、気分は高揚して、自然と歩く足取りも軽かった。その甲斐あって、坂の下には6時50分に着いた。
いつの間にか7時にここで待ち合わせて、一緒に登るのが習慣になりつつあった。しかし、今日は違う。ただ待ち合わせるだけではないのだ。
そうこうしているうちに、正面の曲がり角から真希が現れた。
「おはよう、藤沢さん。今日は伝えたいことがあるんだ」
「おはよう! 伝えたいこと?」
「藤沢さん。僕はあなたのことが──」
そこで一度区切り、そしてはっきりと告げる。
「あなたのことが好きです! 僕と付き合ってください!」
悠が伝えると、真希は一瞬驚いた表情をしたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべて、「はい! 私でよければ、よろしくお願いします!」と頷いた。
「早速なんだけど、手、繋いでもいい、かな?」
「もちろん!」
どちらからともなく手を繋ぐ。悠は、その手のぬくもりを一生忘れることはないだろうと確信した。
二人揃って坂への一歩を踏み出す。そして坂を登って行った。
もう誰にも何も言わせない。彼女を守れる強い人間になるんだ──そう決意して、堂々と歩く悠の姿は、ほんの少しだけ頼もしく見えた。