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最悪のクリスマスイブ

 祝日を挟み、12月24日。クリスマスイブ。

 通学路を歩いていると、どこもかしこもクリスマス。

「ふふふ……藤沢さんとLINEした~」

 そして、ここにも頭がクリスマス仕様の悠がいた。

「悠、上機嫌だね~。なんかいいことでもあった?」

「お、朱里か。実はLINE交換して、昨日相談の続きをしてたんだよ」

「ほほう……なかなかいい感じじゃん! その調子でいけばかなり可能性あると思うよ?」

「そうかな……でも、まあここまで頑張ってきたんだし、少しくらいは期待してもいいのかなって思う」

「それじゃ、そろそろあたしは朝練行くから頑張ってね!」

「おう!」

 悠は、あっという間に見えなくなっていく朱里を見送り、いつもの待ち合わせ場所に向かう。

 坂の下につき、時計を見るといつも登校してくる7時ちょうど。今日はまだ真希も来ていないらしいので、待つことにする。

「来ないな……」

 時刻は7時30分。朝練の部活生以外にもちらほらと生徒が登校し始めても、真希が姿を現すことはなかった。

 

「なんだ……?」

 真希に「先に行くね」と連絡し、教室に入ると黒板の前にクラスメイト達が群がっている。悠も鞄を机に置き、黒板に張られた何かを見た。

「なんだよ、これ……」

「おう、葛城。元気してたか?」

「小瀬戸……!」

「2年の教室だけに張ったが、それだけで効果的だろう?」

「この、野郎……! 関わりがなければばらさないって──」

「じゃあ今朝坂の下で何を待ってたんですかねぇ?」

「なっ……」

「用意しておいて正解だったぜ。古風だけど十分にダメージを与えられることができるって知れて、楽しかったぜ~」

 その時悠は、心が折れる音を初めて聞いた。


 悠はその日、早退した。カーテンも閉め切って、電気も消して、昼間から布団の中で蹲って泣いていた。

「なんで……なんでだよっ」

 なぜ自分がこうならなきゃならないのか、意味が分からなかった。

 自分が無力だからだろうか。そうかもしれない。運動も勉強も人並みにもできなくて、他に誇れることもない。真希が話しやすいと言ってくれたのも、きっとお世辞だったのだろう。彼女は誰に対しても優しいから。

 見合わぬ関係性だろうか。そうかもしれない。彼女は難関大を目指す、いわばエリート。悠はというと、将来すら見通せないダメ人間。

 でしゃばったからだろうか。そうかもしれない。すべては朱里にこの気持ちを知られた時に、始まったのではなく終わっていたのだ。そうとしか考えられない。

「……悠、大丈夫?」

「今までありがとう。もういいよ、十分だ」

「そう……。あんたの恋心はその程度だったのね……」

 扉越しに聞こえる朱里の声は少しくぐもって聞こえた。

「なんだよ。文句あんのかよ! あれだけのことをされて、まだ続けられるほど僕は強くない! もういいんだよ……。これ以上藤沢さんに迷惑かけないためにもこうなってよかったんだ」

「何言ってんのよ! あんたねぇ、彼女がどんな気持ちで───」

「とにかく、もうこの件で僕に構わないでくれ。それじゃ」

「っ……!! 悠のバカ! もう知らない!」

 ドスドスと階段を降りていく音が響いてくる。

 これでいいのだ。これが適切な距離感だったんだ。

「最悪のクリスマスイブだった……」

 悠は静寂を取り戻した部屋の中で、ポツリと呟いた。



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