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第8話 模擬戦2


「最終の対戦! 一期生結城カズヤ! ここにこい!」


闘技場の中央で声をはる上げるカズミに城内がざわめいた。一期生が模擬戦に出るとは異例中の異例である。しかも候補生の間では最弱と呼ばれる者であった。

 呼ばれたカズヤも呆気に取られた顔で、鍛錬場を見ているだけで動こうとはしなかった。


「結城カズヤ!」


 再び呼ばれた時、カズヤは鍛錬場へ歩き出していた。模擬戦に出るとは頭にはなかったのである。カズミの真意が見えなかった。


「教官?……」

「きたな。勝てよ」


 カズミがにやりと、笑みを浮かべて言う。


「ここは、おまえの戦場だ。おまえの覚悟を見せろ」

「白川教官?」

「ここで折れるか、それともその先を見るのか。お前次第だ」


 きっかけは与えたぞ。そう言っているのだと、カズヤは気が付いた。無言で頭を下げると、ロードとセージに向き直る。


「一期生、結城カズヤ」


 名乗ってからカズヤは少し離れて立ち止まる。それを受けたロードとセージもカズヤと対するように動いた。


「はじめ」


 カズミの合図と共にカズヤは駆ける。が、すぐに横にステップを踏んでいた。一瞬後、そこに雷撃が落ちていた。

 さらに距離を詰めてくるカズヤにシンが動く。一歩、その一歩で彼我のの距離が無くなった。瞬間的にカズヤは抜刀し下から上に剣を振り上げていた。

 シンの剣が上から落ちていた。その衝撃に剣を取り落としそうになるカズヤの動きが一瞬止まる。それを見逃すようなロードではない。振り落としから、横薙ぎに剣を振り払っていた。

 避けるのは間に合わないと判断したカズヤは、剣を立ててロードの県を受け止めると自ら跳んで衝撃を和らげようとした。


 吹っ飛ばされて転がって行くカズヤを追ってロードが追撃をかけるべく追っていく。セージの術技が膝を着いて立ち上がるカズヤを襲った。爆炎である。

 爆炎をものともせずに、ロードが剣を振り落とした。手応えを感じなかったロードはすかさず横にステップを踏み、振り向きざまに剣を薙ぎ払っていた。


「チッ」


 再び手応えを感じなかったローから舌打ちが洩れる。同時に剣を引き寄せ身体を回してカズヤの剣を受け止めていた。


「踏み込みが甘い! だから受け止められる」


 と、ロードが一歩後退する。同じタイミングでカズヤも後退していた。二人の間にセージの雷撃が落ちる。


 ――最弱?


 ぎりっと、セージは奥歯を噛み締めていた。

ざわめくような悪寒が背中をかける。

 術技を避けていると、分かってしまった。全力では足りないと、本来のペアでの戦闘にしなければならないと思った。


 詠唱と同時に長杖を廻して接近戦へと向かう。

 これに戸惑ったのはロードである。術士が前に出てくる戦いが主ではない事はセージが一番理解しているはずだった。なのに前に出て来る事は、相手が油断なら無いと言う事である。一期生相手に、有り得ない事だった。それがロードの動きに迷いを生じさせた。


 二人がかりの猛攻にカズヤは良く耐えた、と言うべきであるが、耐え切らなくなって吹っ飛ばされる。剣を突き立てて立ち上がるが、足元がふらついていた。

 さらなる追撃をおこなうべく、ロードが駆ける。

 狭窄した視界にロード達はいなかった。


「どこだ」


《十一時、二十歩。カウント三で止める。用意、アイン、ツバイ、ドライ》


 聞こえてくる声に、カズヤは反射的に駆けていた。

 駆けるカズヤとジンの間で閃光が膨れ上がる。瞬間的に目が眩んだジンが一瞬、わずかにためらうが、それに構わず長剣を振り下ろしていた。タイミング的に直前までカズヤが接近していると理解していたからだった。

 交差は一瞬。

 甲高い音共にジンの長剣は跳ね飛んでいた。が、次の一撃はなかった。

 目晦ましから回復すると、ジンは地面に横たわるカズヤと己の手を見て小さく静かに首を振っていた。隣に歩み寄って来たセージは厳しい顔のまま長杖を握りしめて呟きにも似た声を漏らしている。


「これが…最弱…?」

「同感だな…身体強化すら使ってなかったぞ…」


 その二人にカズミは近づくと、横たわるカズヤを担ぎあげた。


「カズミ。その一期生は何者?」

「結城カズヤ」


 振り返って続けた。


「覚えておくといい。もしかすると、こいつがアカツキの剣士かもしれない」


 その言葉に二人が衝撃を受ける。


「ばかな……」

「まだ未熟だが、こいつは私が聞いていたようなやつだ。ものになるのか、ならないのかは分からないが……可能性はある」


 言い残してカズミはカズヤを担いだまま闘技場から出て行った。


「あり得るのか……あれから六年もたっているのに……」

「六年…今頃……なぜ、今頃……」


 歯がゆい思いが二人に湧き上がる。アカツキの剣士は二人にとって、いや、上級騎士や上級魔術師たちにとって特別な意味を持っていた。

 生きていれば誰よりも早くセージの名を上kていたはずの術士。そのペアである剣士が、そう呼ばれるはずだった。騎士達を束ねるはずだった術士であり、誰一人として、その術士の剣士にはなれなかったのである。

 その術士が自分の剣士の為に錬成した剣。その銘が『アカツキ』である。術士亡き後、多くの剣士が『アカツキ』を手にしたが、誰一人として抜く事が出来なかった剣だった。




 気が付いたカズヤが目にしたのは、いつもの救護室の天井である。そして、いつものように溜息がでていた。体を起こすのも一苦労しなければならなかった。息をするたびに、鈍い痛みが胸に走る。


「肋骨のひび、その他は打撲。折れていないだけまし、だな」


 顔を上げるとカズミがいるのもいつもの事だ。


「経験の差……か」

「違うな」

「違う?」

「経験さなど微々たるものだ。理由は単純、おまえにはパートナーなる術士がいない」

「……」

「最後の一撃は術士のサポートがあったからこそ入れられたはずだ。だからこそ、剣士と術士、二人で一組が騎士の行動単位になりうる。剣士だけでも術士だけでも、騎士は最強の力を発揮できない」

「私達に対するあてつけにしか聞こえない」


 もう一人、この場にはいた。白銀の髪のヘルガである。


「そう思うのなら、さっさとパートナーを見つけることだ」


 そういうとカズミはカズヤとヘルガを見て続けた。


「案外、お前たちが組むのはいいかもな」


 互いに顔を見合わせた二人は、どちらともなく首を振って溜息をついている。カズヤはヘルガをまだ信じられなく、ヘルガもまたカズヤを信じきれなかった。不信感を抱いたままでは上手くいくはずもない事は知ってるのである。

 模擬選の最後に一撃を入れる前に聞こえてきた声がヘルガだと、それはカズヤにもわかっていた。自分に必要な声は、どんなに激しい戦闘のさなかであっても届く事は知っていた。術士がいない状況で術技をくらったジン達が一瞬、驚いたように止まらなければ最後の一撃さえ入れられなかったと、カズヤは認識している。

 だが、とカズヤ思っていた。もう一撃が入れられなかったことが己の力不足でしかない。このまま誰とペアを組むにせよ力不足では意味がない。

 自分の思考に埋まっていたカズヤは呼ばれていることに気が付かなかった。いきなり頭に衝撃を受けて頭を抱え込んでしまう。


「私とペアを組むのがそんなにいや?」


 表情を変えずにヘルガがカズヤを見ていた。


「今の俺では誰とペアを組んでも術士の足を引っ張るだけだ。おまえに限った事じゃない」


 きょとんとした顔が返ってくる。何を言われたのか理解していない顔だった。溜息をついたカズヤが言う。


「模擬戦の最後、もう一撃できなかった。ロードの剣を弾き返したまではいいが、そこで意識が途切れた……それでは意味がない」

「おまえ、ジンに一撃を入れただけでは物足りないのか」

「教官。最低でも相討ちまで持って行かないと」

「勝つつもりだったのか、ジン相手に?」

「戦場と言ったのは教官です。戦場なら、俺は死んでいた……」


 息を一つ吐くとカズヤは、ヘルガとカズミを見る。


「相手がいくら強大であろうと、雑魚だろうと関係がない。あるのは一つ、相手を倒し自分が生き残る事。だが、あれでは意味がない」

「なるほど、あの一撃はキミの矜持が起こしたことか」


 いつの間にかジンがセージを連れて救護室にいた。


「ああ」

「最弱と呼ばれていると、聞いていたがキミは最弱ではないな」

「誰も弱いとは言っていなが?」

「は?」


 ぽかんとするジンにヘルガが溜息をつくように言う。


「最弱とよばれる理由は、模擬戦で一度も勝った事がないから。カズヤ自身は弱いとは言っていない」

「あきれたな。キミはいったい何者なんだい?」

「そう聞かれても困るんだが……」


 苦笑がカズヤの顔に浮かんでいた。


「騎士。そう言いたいが、まだ力不足なのは痛感しているからな……」

「あら? 私のは騎士と名乗ったけど?」

「ぎりぎり勝てたからな」

「なるほど、騎士か……それなら私に一撃入れた事も納得できる。それに……」


 ジンがカズヤを見て頭を下げた。


「キミを一期生と侮っていた事をお詫びする」

「は?」

「次、また模擬戦をする機会があったら、全力で相手をしよう。二人ががりで約束する」


 その意味するところは、瞬殺すると言っているようなものである。


「カズヤ、つぎは勝てよ」


 笑いながらカズミが言うと、ヘルガは口元にわずかな笑みを浮かべていた。


「明日にでも模擬戦があるのならともかく、日が空けばカズヤを圧倒できるとは思わない方がいい」

「それは楽しみだ」


 笑顔のジンにカズヤは頭を抱えたくなった。


「あまり長居はよくはないな。私達はこれで失礼するよ。結城カズヤ、ヘルガ・オルディス、また会える日を楽しみにしている」


 カズミ達が救護室から出ていくと、ヘルガはカズヤを振り返って言う。


「カズヤ、横になってなさい。今は身体を休める事が大事なはず」

「お前、なんで……」

「カズヤが最弱と言うのは周りが言っているだけ、私はカズヤが弱いとは思っていない」

「俺は強いのか?」

「強くはない。だけど、最弱と侮るほど弱くもない。カズヤを最弱と言うのは間違い。ただ、それに気がつく者は多くないという事」

「そうか……ありがとう……」

 

 呟くような声が目を閉じたカズヤの口から洩れる。そのまま寝入ってしまったカズヤに、ヘルガの口元が少し綻んでいた。ただ、その事にヘルガは気がついていない。






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