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第7話 模擬戦

今話と次話がなかなか仕上がりませんでした。

すみません。

お詫びではないのですが完結まで毎日投稿予定です。

 騎士の最少行動単位であるペアの鍛錬が始まって暫くした時、極東で唯一の君主と賢者の二人が学院に訪れた。これは学院の教育の一環でもあり、候補生達の士気を揚げる為でもあった。

 現在、騎士の中でも最上位たるロードとセージを間近で接することで、自分達の目標がどこにあるのかを知るためでもある。

 毎年の恒例になりつつあるロードとセージの訪問に三期生と二期生は目を輝かせ、一期生はぽかんと見るのであった。


 三週間の日程でロードとセージの講義はおこなわれ、最終週には模擬戦が五日間でおこなわれる。模擬戦に出るのは主に三期生が当たるが、二期生でも上位五ペアに入れば参加できた。

 ロードとセージの講義は三期生を中心に組まれており、より実践的で戦術的な講義となる。実戦経験に基づく講義はどためになる事はないのである。

 反対に一期生の講義は、騎士としての心構えや何をすべきなのかという基本的なものだった。

 講義の途中でカズヤは興味がなくなり席を立つと、同時にヘルガも席を立っていた。


「どうかしたかい?」


 ロードのジンが席を立った二人に問いかけると、ヘルガは無言で教練室を出て行き、カズヤは溜め息をついて答えていた。


「無駄」


 一言のみ言い捨てると、カズヤも教練質の出口へと向かう。一瞬の静寂の後、罵倒する声が教練室のあっちこっちから上がった。


「あの、バカ……」


 頭を押さえて呻いたのはタケシであり、隣で溜め息をついたのはサツキである。

 ただでさえ最弱と呼ばれているカズヤが、ロードであるジンの講義を無駄と言ったのだ。罵倒さることは分かりきった事である。


「何が無駄なのか、教えてくれるかい?」


 穏やかにジンが問いかけていた。

 戸口に手を掛けていたカズヤは、振り返りジンだけを見る。


「あんたの言う事を理解していない者は騎士院にはいない。理解していない者は騎士院に入る事はない。ならば、あんたの講義は無駄以外のなんでもない」

「きみにとっては、かい?」


 カズヤは自分の手を見て拳を握る。


「全て,くそっくらえだ」


 言い捨てて出て行った。

 閉じられた扉の向こうで、罵詈騒言が湧き上がる。その音を背にカズヤは鍛錬場へ向かっていた。


 先に鍛錬場に来ていたヘルガが、入ってきたカズヤを振り返るという。


「ちょうどいいわ。長杖の鍛錬をしたいから相手をして」

「は?」


 首を傾げそうなカズヤを無視して、ヘルガはさっさと鍛錬場の中へ入っていく。中央辺りで振り返り、長杖を打ち立てるといった。


「何をしているの。さっさと相手をして」


 カズヤが鍛錬の相手をするものと、疑ってない言葉である。

 ここで断わるぐらいなら、初めからジンの講義を抜け出す事はなかった。また、鍛錬は相手がいた方が一人でやるより良いと知っている。


 剣士と術士、どちらが強いかと言うと実ほそんなには変わらない。

 接近戦の剣士と一定距離をたもつ術士では戦闘スタイルが違うためだが、術士も接近戦が出来ないわけではなかった。身を護るため一定以上の剣技を習得している。それでも接近戦が主である剣士よりは劣るのは確かだった。

 しかしながら、それは二期生や三期生になってくると出てくるもので、一期生ではまだそれはどの差はでてこない。

 ヘルガの長杖に対してカズヤは、剣ではなく同じ長杖で相対した。


「わたしに合わせて長杖?」

「いいや、剣士はあらゆる武器種に通じなければならない。その中で得意武器が出てくる。俺はまだ、どの武器が得意なのかわからないからな。そのためだ」

「まぁ、いいわ。全力で叩くわ」

「望むところだ」


 一合、長杖を軽く合わせることが、始まりの合図だった。


 瞬間、飛び下がったヘルガを追うようにカズヤは前に出ている。

 ヘルガは打ち付けた長杖が受け止められると、引き手と同時に長杖を廻して下からの打ち上げに変えていた。カワされた長杖をそのまま振り落としの打撃にかえる。

 連続して迫るヘルガの長杖を受け止め、かわしてカズヤは距離を取るように離れていた。

 ヘルガの長杖の動きに、カズヤは舌を巻く思いが湧き上がってくる。剣士である自分に打ち負けていない。 そればかりは互角と言えるほど打ち合っている。


 これはヘルガの長杖の練度が、相当なところにあると言う事にほかならなかった。つまり、術士としても上位クラスでありながら剣士と同等に戦えると言う事である。遠距離はもちろんの事、接近戦も出来ると言う事は、剣士が必要ないと言うのも頷けた。


 カズヤとヘルガの鍛錬は、お互いの体力が尽きる寸前まで続けられた。

 控え室のベンチに腰を降ろしたカズヤは無言で呼吸を整えていた。ふと顔を上げると、ヘルガがボトルを差し出している。


「付き合ってくれた礼」

「ああ、ありがとう」


 礼を言ってボトルを受け取ると、カズヤはキャップを開けて喉を潤していた。隣に腰を降ろしたヘルガを不思議に思う。


「どうした?」

「何でもないわ」


 首を振るヘルガは、何か言いたそうにしか見えなかった。


「カズヤは……」


 言いかけて言葉を止める。


「ん?」

「カズヤはなぜ、ここにいるの?」

「前にも、同じ事を聞かれたな……」

「そうだったかな?」

「あの時、それがどうしたと答えたが」

「今も、そう思っている?」

「いや……応えないといけない事がある。そのためにここにいる」


 カズヤはヘルガを見ていない。どこか遠くを、遠くにいる人を見ているようだった。


「そう……自分のためじゃないのね」

「自分のためさ。受け継ぐと決めたからな」


 カズヤとヘルガは、その後もロードの講義に出なかった。二人して鍛錬場に詰めてヘルガの長杖に対して、カズヤは武器を変えて相手をしていたのである。

 これにいい思いを抱かなかったのは、タケシ達上位クラスの面々だった。誰もが憧れるロードの講義を無視するとは何事だ、と言う事である。そんな彼らの視線さえ気にせずに、カズヤとヘルガの二人は黙々と自分達だけの鍛錬を繰り返していた。


 ロードとセージの教練が、講義から実戦形式の模擬戦に変わった日、カズヤとヘルガは模擬戦の見学に姿を現す。

 曰く、講義は得るものが無いが、模擬戦なら見る価値はあるだった。

 ロードたちの模擬戦は、主に三期生を中心として行われる。学院にいる間に実戦的な戦闘、それも圧倒的といえるロード達との戦闘を体験することで、少しでも戦闘に慣れてもらうためでもあった。


 ロード達の教練最後の一週間は、模擬戦に費やされる。初日、手も足も出せなかった三期生達も、日を追うごとに模擬戦の時間が長くなっていた。

 圧倒的であっても、戦いようはあると言う見本でもある。が、しかしそれはロード達の攻撃を凌いでいるだけで、攻勢に出ることはなかった。

 一週間の模擬戦の最終日は、三期生上位七ペアが相手だった。教官達は思いっきり胸を借りて来いと、檄を飛ばして送りで出している。


 一戦目、今まで凌げていたのは嘘かというほど、あっさりとロードとセージの一撃で三期生は打ちのめされた。

 二戦目、一撃目は凌いだが、やはり結果は同じである。

 三戦目、二戦目と同じ結果だった。

 出番待ちの三期生ハヤトは、隣の術士サヤカに呟いていた。


「まいった。一期生と三期生の差どころじゃない。決定的に強さが違う」

「運が良ければ一矢ぐらい……無理そうね」


 同意するサヤカは、ハヤトを見上げて笑う。


「とは、考えてないようね」

「一方的だから、パターンは読みきることは無理。セージの詠唱は、おまえよりも早い。ロードの剣速も俺より早い……」

「まともに行けば、一撃で沈むわね」

「んじゃ、今のうちに加速、防御、抵抗、あとなんだ?」

「剣士はそれでいいわ。あとは、わたしのショートカットを二つか三つかな」

「頼む」


 ハヤトが言った時には、三つの術技がハヤトを包み込んでいた。


「八戦して息切れ一つないとはな……」


 鍛錬場に立つロードとセージの二人は、まったくの自然体である。候補生相手では、はが立たない事かと、ハヤトは思っていた。今までの鍛錬は、いったいなんだったのでと思うほど、圧倒的な差があると理解していた。


「それでもな……」

「うん。それでも……」


 同じようにサヤカも頷いている。

 圧倒的だろうと、絶望的だろうと、そのまま終らせるわけにはいかなかった。どれほど差があろうと、なにも出来ないままでは騎士としての誇りが許せなかった。だからこその、加速や防御でありショートカットでもある。

 二人の名が呼ばれた。三期生最後の対戦である。


 改めてロードとセージの前に立つと、その存在感だけでも圧倒される思いが湧き上がった。それを押し殺すようにハヤトは、大きく息を吐くと肩の力を抜いた。


「バックアップ、たのむ」

「まかせて」


 短い言葉だけでハヤトは、ロードへと迫って行く。先手を掛けてきたハヤトに、ロードは口元に笑みを浮かべた。

 ハヤトの打ち落としをロードは抜き打ちで受け止め、脚を一歩踏み込んで剣を振り落とした。ハヤトが受け止めずに受け流して横に逸らすと、その剣が横に薙いでくる。

 距離を開けると、不利な事を理解していたハヤトは前に踏み込んできた。ロードが少し感心したような顔でハヤトを見たが、後方に飛び下がって距離を開ける。

そこに二人の術士の術技が発動した。一歩は爆炎、もう一方は雷撃だった。双方の剣士が回避する間もなく爆炎と雷撃に飲み込まれる。


 爆炎を切り裂いてハヤトが飛び出せば、雷撃を纏わりつかせたロードが迎え撃っている。二人の剣士の後方では、再び爆炎と雷撃が発動した。術士同士がお互いを狙っての事である。

 爆炎を纏わりつかせたサヤカが、セージに向けて駆けて行くと、セージは術技の詠唱を始めた。サヤカは剣士同士が打ち合ってる傍を通り抜けざま、長杖をロード目掛けて振るっている。

 同時に二方向からの攻撃にロードが一瞬、虚をつかれた。そしてハヤトの剣を無視して横に二歩滑るように移動し、サヤカの長杖を下からすくい上げてがら空きになった胴に、回し蹴りを入れると今度は迫ってくるハヤトの剣を弾き返す。

 身体をくの字に折ったサヤカに、セージの雷撃が襲うとサヤカは声もなく崩れ落ちた。

 弾かれた剣をハヤトは、三撃目を入れるべく踏み込んで行く。それに対してロードは距離を開けるように後方に飛んでいた。追撃に向かうハヤトが爆炎に包まれる。

 爆炎が晴れると、そこには隼人が片膝を着いて動きを止めていた。


「ぐっ……ぐぅ……」


 剣を突き立てて、立ち上がろうとするハヤトの首にロードの剣が押し当てられる。


「勝負あり、だな」


 認めたくなくても、剣に支えられている状態では否とは言えなかった。息を切らすことも無く剣を突きつけるロードに、ハヤトは頷くしかなかった。


 模擬戦の全対戦が終了したところで、ロードとセージの総括が始まる予定であったが、カズミが鍛錬場に入ってきて二人に言う。


「やはり圧倒的か」

「手を抜いても、候補生達には意味はないから」

「まぁ、そうだな。なら、もう一戦してもらおうか?」

「ちょと、カズミ。これで終わりじゃなかったけ?」

「シン?」

「かまいませんよ」


 苦笑らしきものを浮かべたシンは、頷いている。


「本学院で最弱と呼ばれる剣士。二人で相手してくれ」

「本気?」

「もちろん」


 頷いてカズミは、にやりと笑った。


「侮るなよ」


 ロードとセージの首が傾く。


「最終の対戦! 一期生結城カズヤ! ここにこい!」


 闘技場の中央で声をはる上げるカズミに城内がざわめいた。



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