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第4話 連携の相手

 ペア戦でカズヤはアマネと組んでいても、なかなか上手く連携が取れなかった。

 焦っていたのは、カズヤではなくアマネの方である。術技の発動が上手くできない事に、申し訳ない思いでいっぱいだった。

 カズヤは気にするなと言うべきであったが、思い込んでいるアマネには逆効果と思い、何も言わずにどうすれば上手く行くのかを、考えていたのである。


 ある日の午後、鍛錬が始まる前の休憩時間に、カズヤはアマネが歌を口ずさんでいる姿を眼にした。

 口元に僅かな微笑みを浮かべ、楽しそうに歌う姿は鍛錬の時の詠唱とは違い、上手いものである。歌う事が好きなのだと、良くわかる歌声だった。


 それから数日後、カズヤはアマネに詠唱を歌ようにすれば良いのではないか、歌が好きならきっと出来ると、伝える機会が訪れる。

 それは二人にとっても、変われる機会でもあった。


 休息時間の教練室は、いつもの雑談に興じてざわめいていたが、決して不愉快なものではなく、和やかな空気が流れている。

 と言っても話は、ヘルガ・オルディスの事が多かった。

 鍛錬で見せる広域術技は、眼を見張るものである。まだ自分達は知らずに、手にしていない術技だった。

 どうやって組み上げるのか、また自分達にも出来るのかと言う事である。気の早い者が、ヘルガの使った広域術技を読み解こうとしたが、どうしても読み取れなかったと話していた。

 そう言う話をしているのは、ヘルガと同じ術士達であり、剣士達の話のほとんどは、はヘルガの剣士に対する態度の事である。

 剣士を巻き込む術技を、平然と放つ事に怒りを覚えていた。剣士と術士が連携を取る事で、より力を発揮できるのが、騎士なのだと知っているからである。


「どんなに力があっても、剣士を無視するような奴とは組みたくないな」

「あれじゃ、剣士はいらないだろう」

「術士一人で十分だろう」


 不満しか出てこなかった。

 ヘルガの不幸は、自分の術技を活かせる剣士が一期生にいなかった事である。そして、ヘルガ自身も一期生の力量に合わせられなかった事だった。


 そんな話の輪に、カズヤとアマネの二人は、加わっていない。

 アマネは人の事よりも、自分の術技をどうやれば上手くいくのか、考える事で頭が一杯であり、カズヤは術技よりも自身の鍛錬を、どうするかを考えていたのであった。


 教練室の扉が開いた途端、室内はしんと静まり返る。

 入り口に噂の主ヘルガが立っていた。

 ぐるりと室内を見渡したヘルガは、迷うそぶりも見せずにカズヤの元に近づいて行く。


「私とペアを組んで」


 ものを頼むような態度とは、程遠いものであった。


「なぜ?」

「連携の鍛錬は、ペアでなければ出来ないから」

「俺は今、門倉と組んでいる」

「だから?」

「他を当たってくれ」

「いやよ」

「は?」

「カドクラよりも私も方が術士としては上。あなたも劣る者と組むよりも、実力のある者と組んだ方が上達するわ」


 カズヤの顔から表情が消えた。


「ヘルガ・オルディス、だったな」

「ええ」

「おまえ、今までそうやって剣士に、ペアを組めと言ってきたのか?」

「何か問題でも?」


 首を傾げそうなヘルガに、カズヤは立ち上がると言う。


「付いて来い。俺達と勝負しろ」

「は?」

「おまえが勝ったら、ペアを組んでやる」


 ざわりと教練室が騒がしくなった。

 今まで一勝もできなかったカズヤが、ヘルガと勝負する。結果は見えているのに、無謀としか思えない申し出だった。


「門倉も来い」

「わ……わたしも?」

「今、ペアを組んでいるのは、おまえだからな」

「でも、わたし……」


 迷うアマネにヘルガは言う。


「ついていけない人と、ペアを組んでも上達できないわ」

「おまえが気にする事じゃない」

「なっ!」


 絶句するヘルガを無視して、カズヤはアマネを見ている。


「自身のある奴なんかいやしない。行動するかしないか。騎士ならどうする?」

「あ……」

「眼の前に救える命があるのに、自信が無いから見殺しにするのか?」

「…………」


 誰もが黙り込んでしまった。カズヤの言葉は、騎士を目指す者にとっては、無視する事ができない。誰もが最弱であるはずのカズヤが、その言葉を口にするとは思ってもいなかった。


「なら、騎士を目指すのは辞めた方がいい。迷惑しかならない」


 突き放すような冷めた声である。


「行く」


 短く言ったアマネは立ち上がっていた。

 思い出した事は『術士』を目指した思いである。どんなに下手でも上達していけば良い、今逃げてしまうと、二度と前に進めなくなると分かってしまった。


「二対一でも文句はないな」


 ヘルガを見たカズヤは尋ねている。


「ないわ。あなた達二人ぐらい、相手にしても勝てる」

「たいした自信だ」

「事実よ」


 カズヤとヘルガの勝負は、またまたくまに学院中に知れ渡った。

 実力のあるヘルガと、学院一最弱の剣士カズヤと詠唱の下手なアマネのペア。やる前から勝敗は決まっているようなものだった。

 カズヤとアマネが何分もつか、それとも一撃で決着がつくのか。全員に、興味があったと言えたのである。

 だから、闘技場には二期生や三期生の姿も見られた。


「何をバカな事をやっているんだ。おまえは」


 話を聞きつけたタケシが、サツキと一緒に控え場に姿を現した。


「バカな真似か?」

「当たり前だ。おまえは自分の力量が、わかっていないのか!」

「わかっているが、騎士としては退けない。ヘルガ・オルディスは、今のままなら騎士になるべきではない」

「バカヤロウ! 一瞬で決着がつく!」

「だから、止めろとでも?」


 冷めた瞳がタケシを見返していた。その顔にタケシは苛立ちが募る。気がつけば、カズヤの胸倉をつかみ上げていた。


「わかっていないのか、このバカが!」

「結城」


 カズヤとタケシが同時に振り返る。

 三期生のハヤトが、サヤカを連れて立っていた。二人に振り返られたハヤトは一瞬、戸惑ったがそれでもカズヤに言っていた。


「紛らわしいな。カズヤ、ヘルガと勝負するなら勝てよ」


 笑って励ますハヤトに、タケシは絶句してしまう。

 逆にカズヤは笑ってしまった。最弱と言う事を知っているにもかかわらず、勝てと言うハヤトを面白い人だと思ってしまう。


「おまえの言う通りヘルガは、騎士になるべきではない。今のままならな。だが、おまえと勝負する事で、変わるようなら……」

「ハヤトさん?」


 真意が見えずに、カズヤの顔に戸惑いが浮かんでしまった。


「地力は俺達よりも上。体術も並みの剣士以上に使える」

「術技もハイソーサリークラスと言えるわね」


 笑って補足するサヤカだった。


「それで……勝て、と?」

「年下に負けたくなければ、な」

「年下……?」

「ヘルガは十四だ」

「十四……」


 闘技場の端に立つヘルガを、思わず見てしまう。


「それで、あの実力か?」


 半信半疑のタケシと、声も無くヘルガを見るサツキだった。


「そうか……門倉」


 カズヤがアマネを呼ぶ。


「歌えば良い」

「?」


 首を傾げるアマネに、カズヤは続けた。


「歌が好きで、口ずさんでいたな」


 なぜそれを、と言いたそうな顔でアマネはカズヤを見てしまう。


「術式の組立ての詠唱も同じだ。詠唱じゃなく術式を歌い上げればいい。おまえなら、上手くできる」

「結城くん……」

「自信が無いか、歌う事に?」


 問いかけるカズヤに、アマネは首を振って答えていた。


「上等。ハヤトさん、思惑通りになるとはかぎりませんよ」

「ん? 何の事だ?」


 笑っているハヤトに、苦笑を浮かべながらカズヤは、アマネを連れて闘技場で待つヘルガの元に歩いて行く。


「待たせたな。始めようか」


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