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第16話 ヘルガ


 ぼんやりと辺りを見渡すヘルガは、何も無い所に膝をついていた。


「ここは……」


術技を詠唱したという覚えも無く、移送されたのだと理解する。その事に戸惑いが起こっていた。

さらに、この場所には見覚えが有り余るほどある。


「どう……して……?」


身体が震え始めていた。ヘルガにとって、この場所は恐怖でしかない。


「……あぁ……うぁ……ああぁぁ……」


震える口から呻き声とも、吐息ともつかない声が溢れてきた。救いを求めるように、辺りを見渡したヘルガの瞳に男が映る。


「罪深き女め。ここでおまえは、多くの命を奪った」

「……あああぁぁぁ……」

「贖う事もせず、逃げた」


 近づいて来る男に、ヘルガは首を振っていた。


「愛しい恋人を失った者、愛する家族を失った者……」


 男の声は決して責めてはいなかった。事実を淡々と口にしているだけである。それが、より男の冷酷さを増大させていた。


「幼子を失った母親、友を失った男や女達……悲しみ、憎しみ……」

「わ……たし……」

「望まなくとも、おまえがしでかした事だ」

「うぅ……ああ……ああぁぁ……」


 言葉にならない声が、ヘルガの口から溢れ始めている。


「お前が、全てを奪った」

「あああぁぁぁ――――」


 耐えられない重圧に、ヘルガは自分自身を抱きしめる。心が上げる悲鳴が口からあふれ出ていた。自分がこんなにも弱いとは思っていなかった。

 思い出した事実は、ヘルガの心を押し潰そうとしている。


(たす……けて……)


 悲鳴を上げ続ける口と、溢れる涙は止まらない。

 顔が浮かんできた。

強い光を宿す瞳を持った男の顔。

 ヘルガは救いを求めていた。


(……カズヤ……)







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