Story 8;愛しさと、涙
別れてからもう、1ヶ月経った。
あれから…ほとんど口も利かない。
麻依がこんなに愛しいのに、どうしたんだ?
しかもたった1枚のメモ。オレが麻依から言われたこと、何だったんだよ?
『そのうち、F組の蓮見エリカってコが朔斗に告るから…そのコと付き合って、幸せになってね。絶対だよ。もしかしたらあたしは、朔斗のところに還っては来れないかもしれない。でも、心の中でずっと朔斗の幸せを祈ってる。大好きだよ、朔斗。 麻依』
ハッキリいって、蓮見エリカなんてヤツは知らないし。
第一メモに好きだなんて書くなら、なんで別れたんだよ。
還ってくるって言ったくせに…。
「朔斗!」
「…柊!?」
思い出すのには少し時間が要った。小学校時代に同じクラスだった、あの永原柊だった。
「久しぶりじゃん、話すの。どうしたんだよ?」
「あー、達希の事なんだけど…って、達希の事覚えてるよな?アイツさ、卒業する前に仲里麻綾に告ったじゃんか。あのあと、結局森下京香と付き合ってるらしいぜ?」
「え、ちょっと待てよ柊。麻綾が告られたのって…達希だったわけ?」
「ゲッ、知らなかったのかよ!?まぁ確かにな、仲里って昔っから秘密主義っぽいし。今だってオレが聞いた噂じゃあの水野佑稀先輩と付き合ってるらしいけど、誰も正確に情報しらねーんだもん」
「あー、前麻依から佑稀先輩好きっぽいって話は聞いたけど。付き合ってるって噂は初耳だなぁ。で、達希と森下…何あったんだよ?」
「そっれがさー、達希からの写メ見たんだけど、ヤベーよ。森下、超可愛くなってる。仲里と佐倉には劣るけど、今同窓会やったら3番目に可愛いと思うぜ。ユメと沙樹なんか、もうケバいし。あいつら、メッチャ化粧してんじゃん。しかも学年200位台だって話聞いたし。高等部には上がれねーだろうな、きっと。朔斗は、首席狙ってんだろ?」
「ったりめーだろ。つーか森下は小学校の頃から顔立ち整ってただろ?オレ言ったじゃねーか。麻依も背は伸びたけど顔はまだ幼いし、麻綾はもともと可愛かったし」
「ふーん。でも、お前と佐倉付き合ってるんだろ?」
「残念でしたー。付き合ってねーよ」
「…朔斗ってそんな口の利き方したか?」
「元々だよ。今色々あんだっつーの」
「あっそ。ならいーけど」
「じゃあな。オレ早く勉強しねーと、前回のテスト宮入結架にトップ奪われてんだよ」
「ま、せいぜい頑張れー。けど、オレの今の彼女、宮入結架だから。泣かすなよな!じゃーなっ」
「おぅ、じゃーな、柊」
「…っ」
朔斗は、声にならない息の音をさせた。もう日が沈もうとしている。
「…ジかよ…んで…」
…なんで、周りばっかり進むんだろう…。なんで、オレらばっかり後退してるんだ?
「…朔斗?どうかした?…麻依の事?」
「麻綾…」
中学に入って一層可愛くなった麻綾。今はキラキラしすぎて見えないぐらいだ。
――――どうして?
そんなの答えは1つだ。麻綾の隣にいるのは、どう見たって佑稀先輩なんだから――――。
「あ、先輩、先行っててもらえませんか?…ごめんなさい、ホントに。…朔斗?コレ…」
麻綾は小さな星がたくさん散りばめられた麻綾らしいハンカチを差し出した。
「なんでこんなん渡すの?要らねーじゃん」
言いながら理由は解っていた。
7年振りの――――
涙、だった。