Story 25;幸せな贈り物
「ごめんなさい、朔斗くん…」
「ごめんね、朔斗ぉ…」
「申し訳なかったな、朔斗くん」
「やっ、そんなに気にしないでください」
3人から同時に謝られた朔斗は、どうしていいか解らない様子で苦笑いしていた。
「…で、遅くなったんだけどさ」
唐突に佑稀先輩がそう切り出した。
「何がですか…?」
「お前の誕生日プレゼント。麻綾と割り勘してどうにか手配したんだ」
目の前に差し出されたのは――
「コレ…っ」
「スカイワンダーランドの…!?」
「そう。朔斗と麻依ちゃん、まともにデートなんて行ったことないだろうって思って」
「ホントは2人っきりにしてあげたかったんだけど…オープンしたばっかりだから、うちの学校からもいっぱい行ってる人いると思うんだよね。だから…」
「オレと麻綾も一緒に行くから♪」
2人っきりかなんてどうでもよかった。麻綾と佑稀先輩の、気が利きすぎたプレゼント。きっと、朔斗のためと言うよりあたしのためなんだ――。
…なんて、自意識過剰かな?
「ありがとうございます、リクエスト通りのプレゼント…」
朔斗もかなり嬉しそうだ。
…って、あれ?
「朔斗、リクエスト通りって…?」
「内緒ーっ。ハズいもん」
「えぇ〜?」
「ちょっとー、病院なんだから静かにしてよね!!怒られるの私なのよ!?」
「さやかさん、怒るポイントズレてます」
大声を出して笑うところだけれど――本来この場所は、命と戦う人達が居る場所なんだ。
でも、今の幸せを心に秘めたら――次いつ笑えるか解らないんだ。
――2週間後
「行って来まーすっ」
「いってらっしゃい、気をつけるのよ」
「解ってるって」
朝8時、あたしはそう言って家を出た。
今日が――あたしと朔斗の、初デート…。
そう思っただけで赤くなってしまう自分がいる。
これから9時頃まで、あたしは麻綾の家にいて、麻綾に髪をセットしてもらう。佑稀先輩と朔斗が9時すぎに来るから、家を出る時間をズラせる上に朔斗をビックリさせることが出来るという、一石二鳥の作戦なんだ。
服だって、いつも家で会うときは部屋着とかカジュアルな格好だから、ものすごく悩んだ。
髪がショートだから、女のコらしい服って似合うのかな、とか。
でも途中で気付いた。今そうして悩んでいることが、とてつもない幸せなんだってことに…。
あたしは今…とてつもなく幸せだ。
こぼれる笑みを抑えることに必死になっているうちに、麻綾の家に着いた。雅さんは昨日から泊まり込みで病院だから、仲里家には麻綾しかいない。
それでも何となく、チャイムを押してみたりする。…かなりそわそわしてる自分がいるから。
「はぁーいっ」
明るい麻綾の声が聞こえて、玄関の扉が開いた。
「おはよ、麻依」
「お、おはよう、麻綾…」
「もう準備できてるよ。上がって!」
なんだか最近、麻綾の方がお姉ちゃんみたい…。
そんなことを思いながら、2階への階段を上った。
「はい、アイスコーヒー。…7月でもうこんなに暑いなんてね。コンクール参っちゃうよ」
「はぁ…そうだねぇ。あたしたちは今年はA編成に出ないからいいけどさ、来年が怖い」
他愛もない話をしていると、だんだん気持ちが落ち着いてくるのが解った。
「じゃあ始めよっか!この服なら…髪は少しまとめる感じにして、アクセも少し付けてもいいかもね」
「う、うん…」
あたしが少し俯くと、麻綾の両手があたしの頬を包み込んだ。
「麻依、緊張してるでしょ?」
「…」
「解るって。私だってそうだったよ。あたしみたいなヤツがみんなの憧れの佑稀先輩を奪っちゃったんだから、学校中の女子に嫌われたっておかしくなかったもん」
「笑い事じゃないって。あたしから見たら、麻綾は佑稀先輩に負けず劣らずだよ?きっとみんなもそう思ってる。だから麻綾、今生きてるんじゃん」
あたしと麻綾は、顔を見合わせて笑った。
その瞬間、窓から夏の強い陽射しが飛び込んできた。
「眩しいね…」
「今の麻依の笑顔の方が私には眩しいけどな」
「何その男前な感じっ」
出会ってもうすぐ5年。
麻綾はあたしの、キラキラ光るアクセサリーみたいなもの。いや、むしろあたしが麻綾のアクセサリーがいいな。
「ほらっ、出来たよ!かっわい〜!!」
「やっ、やめてよ!恥ずかしいじゃん…」
「だって可愛いんだもん。朔斗になんか譲りたくなぁ〜いっ」
麻綾のテンションも異様なほど高くて、突然あたしに抱きついた。
「ちょっと麻綾ーっ!暑苦しいってば!」
「はいはい、解りましたよ」
「…って言いながら離してないし!」
「えぇ〜…」
「文句言わない!!」
しばらくそうしていると、玄関のチャイムが鳴った。
「はぁーい…」
「残念でした!救いの神が登場ですっ」
「いいもん、きっと佑稀先輩だからっ」
「救いの神が自分の彼氏ってことかぁ」
「そーゆーこと♪」
麻綾が階段を下っていく音を聞いてから、あたしは鏡の前へ行った。
…短い髪の下半分をコテでフワッと巻いて、前髪にはヘアピンを2本付けてある。
そして、水色のクリアビーズでデザインされた爽やかな感じのネックレス。
「あたしでも…こんな風になれるんだ…」
思わず溜め息が出るくらい、自分が自分じゃないみたいだった。
そして何故か無性に、朔斗に会いたくなった。
しばらくボーッとしていると、突然麻綾が階段を駆け上がる音が耳に飛び込んできた。
「麻依、大変…っ!!」
ずっとそばにいたあたしには、その麻綾の表情が何を物語るのか――――
悔しいほど解ってしまう。
2日連続更新を目指したのですが…ちょっと悔しいです(泣 どんどん計画にない方向へ、朔斗&麻依&麻綾&佑稀が引っ張っていくので、自分でもどうなるのか解りません…。今週中に次話更新したいと思います!!頑張ります!!