Story 24;大切なモノ
『ハッピーバースデー朔斗っ♪』
またしても登場と同時にクラッカーが鳴り響く。
「麻綾!佑稀先輩!!」
まだ耳が痛いあたしの代わりに朔斗がそう言った。
そう、訪問者は、麻綾と佑稀先輩だった。
「どうして…?麻綾はともかく、佑稀先輩は…」
「郁未さんのお見舞い、誘いに来たんだよ。三浦さん、オレより朔斗に会いたいみたいだからな」
「さやかさんがそう言ったんスか?嘘ですよね?」
朔斗がニヤッと佑稀先輩に笑いかける。
「まぁいいじゃん、朔斗の誕生日プレゼントも渡したいしさっ」
…外じゃなきゃ渡せないようなプレゼント、なのかな?
「ほら、行こうぜ!!映夕さん、朔斗と麻依ちゃん借りまーっす!!」
そんなこんなで連れ出されたあたしたちは、郁未さんの入院する病院へ向かった。
「さやかさん、お久しぶりです」
郁未さんが急患としてやって来たときから、三浦さやかさんはずっと担当看護士をしてくれている。おかげでもうすっかり顔なじみになっていた。
「あーっ!!朔斗くんに麻依ちゃんじゃない!!ホントに久し振りね。…あっ、16歳おめでとう、朔斗くん」
「覚えててくださったんですね」
「あったり前じゃない!忘れる訳ないでしょ。ってわけで、私からのプレゼントよ」
そう言ってさやかさんは、可愛らしいケーキ屋の小箱を出した。
「さ、食べましょう。…麻綾ちゃん、雅さんも呼びましょう」
一瞬さやかさんがためらったように感じたのは…どうしてなんだろう?
その疑問を汲み取ったのか、朔斗が教えてくれた。
「雅さん…最近凄くやつれてるんだ。治療費のために仕事だって無理してるのに、毎日のように病院に泊まって、郁未さんの手を握りながら眠ってるんだ。しばらく横になって眠ってないんじゃないかな」
「そこまで…っ」
「雅さんは本気なんだ。心から郁未さんを愛してる。じゃなきゃ、そんなこと出来ないよ」
「…」
あたしも朔斗に、そんな風に愛されてるのかな――?
ふとそんなことを思ってしまって、郁未さんと雅さんに申し訳なくなった。
「さやかさん、お父さん連れて来ましたよ」
「ありがとう、麻綾ちゃん。えーっと、麻綾ちゃん、麻依ちゃん、佑稀くん、朔斗くん、雅さんに私で6人ね…」
さやかさんはケーキの箱から可愛いホールのデコレーションケーキを取り出した。
「あっ、包丁忘れちゃったわ。麻綾ちゃんにはもう行ってもらったから佑稀くんの番よ♪」
「えぇーっ!?嫌っスよ!!」
「ちょっと、最年長なんだから行きなさいよ!!」
「先輩、そんなこともしてくれないんですかぁ…?」
さやかさんと麻綾からの責めを受けて、佑稀先輩は包丁を取りに行った。
「ねぇ、麻依ちゃん。麻依ちゃんと朔斗くんって…両想い、なんだよね?」
「…はい。でも…あたしのお母さんと朔斗のお父さんが、あと数年で結婚するんです」
「うん、朔斗くんから聞いてる。でもね…朔斗くん、自分が麻依ちゃんを好きだってことしか話してくれないの。自分達が禁断の恋をしてるってこと、私には言いたくないのかしら」
そう言ってさやかさんは微笑む。
「そんなこと…ない、と思います。朔斗にとってさやかさんって、家族みたいな感覚なんじゃないかなって…前から思ってたんです」
「麻依ちゃん…それはノロけなの?…そっかぁ…義兄妹の恋、だもんね。家族である以前に恋人なんだ、2人は」
「そうだといいんですけどね」
そんな風に笑いあっているうちに、佑稀先輩が戻ってきた。
そしてさやかさんが器用に6等分にする。
「じゃあ、朔斗くんの16歳の誕生日を祝って!!」
『乾ぱーいっ!?』
さやかさんのノリがイマイチ掴めなかったあたしと佑稀先輩は語尾を上げてしまって、顔を見合わせて笑った。
「これ美味しい!!どこのケーキ屋さんですか?」
甘いものが大好きな麻綾は、目をキラキラさせてさやかさんに尋ねた。
「う〜ん、嬉しいのか嬉しくないのかよく解らない質問ね。麻綾ちゃんはどう思う?」
「えっと…春風堂、ですか?」
「残念でした、ハズレよ。麻綾ちゃんが詳しいなら、雅さんは解るかしら?」
「雅さん…?解るんですか!?」
全員が期待の目で見た瞬間のことだった――。
――雅さんが、泣いてる。
誰もがその場に縛り付けられたように動けなくなった。
「雅さん…ごめんなさい!」
突然さやかさんが雅さんに頭を下げた。
「えっ…どうしてさやかさんが謝るんですか…?」
麻綾の言葉を聞いてか聞かずか、さやかさんは言葉を続けた。
「これ…私の手作りなの。歩未さんの担当をしてた頃に、郁未さんがお見舞いに来て…料理が下手なんですって言ったら譲ってくださって…」
さやかさんの目からもボロボロと涙があふれ出す。
麻綾はその頃の郁未さんを知らないから――かえって、ツラそうな顔をしていた。
口に出しては言えないだろう。
でも、麻綾が言いたいことなら解る。
『私もその頃のお母さんを知りたかった』って――。
「あの…っ」
しゃくりあげる声の合間から、さやかさんがそう言った。
「ずっと、伝えていいのか解らなかったんですけど…い、郁未さんの脈をとってるとき、雅さんがそばにいると、脈上がるんです。雅さんが髪をなでてるともっと。雅さんが手を握ってるとそれよりもっと。…郁未さんは生きてるんです。眠りの中で、雅さんを想ってるんです。だから私…郁未さんはいつか、雅さんからの愛で心が満たされたら、目を覚ますって…信じてるんです」
「…!」
雅さんと麻綾はその話を聞きながら、もう言葉を失ってただただ涙を流していた。
「…麻綾」
自分の両手に顔を埋めて泣く麻綾に、佑稀先輩は甘い声で囁いた。
「オレが、いるから――」
その言葉に、麻綾はただ何度も頷いた。