Story 23;大切なコト
初の2話同時更新をしたいという願望から、2日間更新が遅れました((汗
プロローグのちょうど1年前、麻依15歳&朔斗16歳です。
――麻依15歳、朔斗16歳
「朔斗っ!!起きてよー!!今日何の日だと思ってるの!!」
「ん゛〜っ…麻依ぃ〜?」
寝ぼけているはずなのに、朔斗の手は自然にあたしの輪郭に触れる。
また少し低くなって大人びた声と、寝起きの色っぽさにドキドキする――。
「うん…あたしだよ…」
黙ってあたしはそっと朔斗の頬に手を添えて、唇にキスをした。
そしてゆっくりと顔を上げながら囁く。
「…目、覚めた?」
朔斗は身体を起こすと、あたしの首筋にお返しのキスをして、そのまま耳元で『うん』と囁いた。
「今日――誕生日、でしょ?朔斗…」
「…そっか…。じゃあ、モノじゃないプレゼントちょーだい」
「モノじゃない、って…っ」
何故か、こういう甘い雰囲気になるといつもあたしは顔を赤らめてしまって、その様子を朔斗はいつもからかう。
「何だと思う…?」
「…知らないっ」
「嘘だ。知ってるだろ?」
朔斗は手招きをして、『おいで』と言う。
あたしは素直にその言葉に従って朔斗の胸に飛び込んだ。
「…麻依可愛いっ」
そう言うが早いか朔斗はあたしを抱きしめる。
「カッコいいよぉ…朔斗…」
あたしも朔斗を抱きしめて、目を閉じた。
「麻依ーっ、何やってるのよ!!早く朔斗くん連れて来てっ!!」
朔斗の体温に包まれて、心地よくなったあたしは…眠ってしまっていた。
そのお母さんの声を聞いてハッと目を覚ますと、あたしの頭を撫でていたのか朔斗とバッチリ目が合った。
「…下、行くかっ」
「うんっ」
階段を降りてリビングに入ると、突然クラッカーの音が鳴り響く。
「朔斗、誕生日おめでとう」
「朔斗くん、誕生日おめでとう!!」
“くん”の部分を除けば完全に打ち合わせてあったようで、大人らしさのかけらもないテンションだ。
あたしだって呆れたけれど――それにしたって朔斗の反応が冷たすぎる気がする。
と言うより、それより前から浮かない顔してた…?
朔斗はさっさと朝食を食べると、『ごちそうさま』と言ってすぐに2階へ行ってしまった。朔斗のその様子があたしには…何か引っ掛かった。
そこであたしは、半分ほど残っていたトーストを口に詰め込んで噛み砕くと、コーヒーをイッキ飲みした。『ごちそうさま』と言える状態になるまでの時間がじれったくて仕方ない。そして『ごちそうさま』と言うと、階段を駆け上がった。
「…あたし、麻依だけど…今、入ってもいい?」
朔斗の部屋の前で、少し声をひそめてあたしは言う。
静かにカチャっとドアが開き、朔斗は愛想笑いにも似た笑顔で迎え入れてくれた。
甘すぎる日常の中で、気付かなかったのかもしれない。
…いつから朔斗の笑顔は…偽物、だったの?
「どうかした?期末の勉強、教えてほしい?」
あたしがプレゼントを渡したがってることくらい、気付いてるはずなのに…。どうしてそんなに白々しいんだろう?
「誕生日プレゼント…渡しに来たの」
朔斗の態度に、折れそうになる心を必死に奮い立たせてあたしは言った。
「あぁ…ありがと」
何時間も悩んだラッピングを何のためらいもなく朔斗は解く。
「…ネックレスと…ピアス?オレ、ピアスなんて空けてねぇけど」
「…貸して、それ。あとケータイも」
不思議そうな顔をしている朔斗の手から、あたしはピアスとケータイを取ると、朔斗と一緒に買ったストラップのマスコットにピアスの片割れを付けた。
あたしの思っていることが読めたのか、朔斗はあたしのストラップに同じことをしてくれた。
「久し振りにお揃いが欲しかったんだろ?」
「うん…バレないものって少ないからムリかとは思ってたけど」
朔斗は無言であたしを抱きしめてくれる。
「ありがと、麻依…愛してる…」
嬉しい。
愛されてるって感じられるから。
だけど違和感は消えないの、朔斗…。
「ねぇ…もっと…笑わないの?ホントは嬉しくないの…?」
朔斗から身を離してシャツの袖を掴もうとした途端に振り払われた。
あたしから目を逸らしたまま、朔斗は声を出し惜しむように呟いた。
「麻依なら…解ると思ってた…」
鼻の奥がツンと痛む。
泣きそう…。
朔斗をそっと見ると、ハッとしたような表情をしていた。
せめてあの約束を――もう泣かないって約束を、朔斗の目の前で破らないために…
あたしは朔斗の部屋を飛び出した。
「麻っ…!!」
あたしのことを大声で呼んだら、お母さんと誠斗さんにあたしが部屋にいたことがバレる。だから、朔斗はそんなことはしない。
そういうことなら解ってるのに…
10年以上も一緒にいるのに…まだあたしは朔斗のこと解ってないんだ…。
14歳の時に知った“独占欲”。
でも今あたしが欲しいのは…朔斗のあたしに対する感情でも愛情でもない。
朔斗の…苦しみが欲しい。
どんな形であれ、朔斗のそばに一生居る覚悟ならとっくに出来てる。むしろ、いつか朔斗から離れなきゃいけないなんて言われたら…あたしは何リットルでも涙を流すだろう。
突然、小さなノックの音が部屋に響いて、あたしはビクッとした。
「…入るよ?」
愛しい朔斗の囁く声がする。
拒絶出来るならしたかったけれど、朔斗に痛め付けられた傷を癒せるのは、結局は朔斗しかいないことも解っていた。
「いいよ…」
ドアノブの音をさせないように、静かに朔斗が入って来た。 佑稀先輩よりは低い背も、平均はとっくに越えてすらりと高い。同居を始めた頃はドアノブに背伸びして触れていたのに、そろそろ子供部屋のドアに頭がぶつかりそうだ。
…あたしはそれだけ、身体も頭脳も成長したと思ってた。でも心は…まだまだ子供なんだ。
「あのさ…麻依。オレ、イライラしてたんだ。みんな今日はオレの16歳の誕生日だって祝ってくれるけど、オレには――」
「朔斗、には…?」
「…オレには、12年前の今日、母さんが倒れたってことの方が重要なことなんだ…」
…あたし、なんて酷いこと言わせたんだろう。
誰よりあたしが解ってなきゃいけないことなのに。
朔斗にツラい顔させた。共有する前に、倍にしちゃったんだ…。
「でも…どうして今年は気になるの?いつもはそこまで気にしてなかったじゃん…」
椅子に座ったままだと朔斗を見上げるのにいっぱいいっぱいだったので、あたしは朔斗に椅子を譲った。
「見てて…父さんや映夕さんが浮かれてるの、イベントだからって理由じゃない気がするんだ」
何となく、その続きはきっとあたしたちが聞きたくない言葉だろうってことは感づいていた。でも、聞かないまま朔斗を愛していこうなんて、我が儘過ぎる。だからあたしは、その先を聞いた。
あたしの固い表情を見てか、朔斗はあたしに手招きをして、膝の上に座らせてくれた。
「多分…父さんと映夕さん、オレらが卒業するまでに結婚する気だ…」
朔斗に支えられている左腕に、電流が走るような衝撃を感じた。
「…ごめん、ショック受けさせるようなこと言って…」
「いいの、朔斗の苦しみだったら欲しい」
朔斗はあたしの大好きな笑顔で、ニコッと笑った。
「ありがと」
つらいことが続くけど、あたしは朔斗が居れば乗り越えられる。
朔斗もあたしが居れば乗り越えられるって思ってくれてるといいな…。
「朔斗くーんっ!!麻依ーっ!!お客さんよ!!」
あたしと朔斗は返事をして、階段を下っていった。
もうすぐ、郁未さんが倒れてから、1年半が経とうとしている――。