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Sweet×Sweet  作者: 椎名璃月
20/31

Story 19;迫る影

回想からは作者語りです。ややこしくてすみません...

「…朔斗くん、なにか誤解」

「してません」

 私の言葉を遮って朔斗くんは言った。


「…わ、私と誠斗さんに何か関係があったって言いたいの?冗談じゃないわ、誠斗さんは歩未の恋人だったんだから――」

「うちの父さんがどれだけ女たらしか知らないんですか?…いや、あなたが知らないはずはない。あなたが1番、その性格に振り回されたんだから」

 彼に心音が聞こえそうなほど、自分の胸が高鳴るのが解った。

 何でこんなときに、30歳も年下の子にときめいてるの?


 …あの人に、似てるから?

 15年前の、誠斗さんに?


 違う、違うわ。

 麻綾は雅の子だって思うようにしなくちゃって、雅と結婚したときから決めてたのよ。

 麻綾は、雅と私の間に生まれた子だって――!!

「郁未さん」

 パニックになっている私の心に、スッと綺麗な声が染み込んでくるのが解った。

「逃げてたら、麻綾は報われないんです」


 …そう、なのよ…。

 解ってるわ。頭でだけなら、十分。



「ま…あ、や…」


 誰より愛しい我が子の名を、崩れ落ちながら、声にならない声をあげて呼んだ。



「郁未さん!?郁未…!!い…」

 意識が遠のく中、朔斗くんが私を呼ぶ声が遠ざかっていく。


「ま…こ…」



 世界が、真っ暗になった――。




―11年前


「歩未ー?」

「お姉ちゃん!?どうしたのいきなり!!珍しいじゃない」

「珍しいって…ねぇ歩未、具合大丈夫なの?病院行った方がいいんじゃないの?」

「大丈夫よ、きっと。朔斗の誕生日も近いんだもの」

「仕方ないわね。…朔斗くんの誕生日過ぎたら、ちゃんと病院行かなきゃダメよ?」

 肩をすくめて歩未は笑う。


「お姉ちゃん」

「…なぁに、歩未」

「あ…のさ、麻綾ちゃん孤児院に預けたこと…後悔、してないの…?」

 郁未には、おずおずと聞く歩未が姉として可愛いと思ったけれど、今は真剣な話なんだ、と笑いを抑えた。

「…ホントは預けたくなかったわ。でも…一人で育てるなんて無理があるわ。麻綾と離れるのも、当然の報いだと思ってるの、私。だけど、産んだことは絶対後悔しない。あの子にも、歩未にだって誓える」

「…ならよかった」


 歩未が出した紅茶を二人揃って一口飲む。

 お互いクスッと笑い、また静かになった。


「歩未さ…ホントに優しい子よね。私だったらきっと耐えられないわ、自分の姉が夫の子を妊娠して産んだ、なんて聞いたら…」


「あたしだって耐えられなかったよ?でもね…気付いちゃったの。あたしが結婚した高崎誠斗って人は、とんでもない浮気性だってことに」

 深刻な話をしているのに、歩未はいたずらっぽく笑った。

「そういう所も似ちゃったのね、姉妹で」

 二人でクスクス笑いあい、歩未はまた紅茶を飲むと話し出した。

「そうだね。それに、もう誠斗さんには恋人居るし…あたしも…付き合ってる人いるし…」

「別れないの?歩未は」

 郁未の率直な問いに、歩未はどう応えるかためらっているようだった。

「…あたしに朔斗が居るのと一緒で、佐倉家には麻依ちゃんと麻友ちゃんが居るのよ。だから、仲良くさせてもらってるとは言え、今交換結婚はよくないだろうし」

「…それなら、仕方ないわね」


「それより、麻綾ちゃんの出生届…まだ出せてないんでしょう?せっかく、"血の繋がりが深いんだからいつかは姉妹みたいになってほしい"ってことで同じ字使ったのに」

 歩未が呆れたようにため息を吐いた。

「認知してもらえないんだからどうしようもないわ。…いい人見つけて、父親になってもらいたいけど」

 郁未は希望を込めて笑みを浮かべたつもりだったけれど、あまり笑えていなかったようだった。

「誠斗さんには…認知求めてもこれ以上は無理よ。あたしだって、誠斗さんと別れて…湊のとこに行きたい…っ」

 また歩未からため息が漏れる。

 また静寂が訪れる。

 また一口紅茶を飲む。

 歩未が次の言葉を発するのに、それだけの時間がかかった。


「あたしね」

 少し声が震えている。

「お母さんと、同じ病気なの。…だから…もう、長くは生きられないかもしれない…!!」

 歩未の眼から涙が溢れ出す。


 生きたい。

 朔斗のために。

 湊のために。

 自分のために。


 テレパシー能力なんて持ってないのに、痛いほど伝わってくる。

 歩未の、想いが――。


「歩未…」

「あたし…生きたいの、お姉ちゃん。朔斗と、湊と、出来たら麻依ちゃんと、お姉ちゃんと、麻綾ちゃんと、一緒にっ…」


「私もよ、歩未…」


 今まで、自分のことだけ考えて、歩未を妹として大事に想えてなかった。

 その分、愛してあげる。


 何をしても私を信じていてくれた歩未のために。


 もし歩未の命が私よりも先に途切れてしまうのなら。


 私が出来る限りを歩未にしてあげるしかないから――。




「急患です!!」

 病院内で、悲鳴にも似た看護師の声が響き渡る。


「仲里郁未さん、41歳―…あ」

「どうしたの?三浦さん」

 三浦と呼ばれた看護師は、声を震わせて言った。

「この方…婦長は覚えていらっしゃるか存じませんけど、相原みきさんの娘さんで、高崎歩未さんのお姉さんです…!!」

 相原みき。

 高崎歩未。


 この病院では言わずと知れた親娘だ。

 その…歩未さんの…お姉さん?


 その言葉を聞いた瞬間、その場に居た関係者が、全員凍り付いた。

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