Story12;HEART
何でそんな寂しそうな眼をするの?愛しいのは…あたしだって同じなのに…
「麻依?朔斗くん?」
「何やってるんだ、食べるぞ?」
お母さんと誠斗さんが戻ってきた。今も朔斗に触れられた唇の温度が下がらない。
「…っ…」
「麻依?どうかしたの?」
「…ごめん、ちょっと具合悪いから夕飯要らないや」
「ちょっ…麻依!?」
息を止めて、声が出ないように必死に抑えた。そのまま階段を駆け上がって、自分の部屋に飛び込んだ。
「ぅあぁっ…〜!」
声に成り切らない嗚咽が洩れる。涙なんて大分前に枯れ果てたはずなのに、まだこんなにこぼれ落ちてくるなんて…
「…きだょぉ…」
朔斗が好きだよ。
ねぇ、ホントは大好きなんだよ…。
「麻依ちゃん?」
ドアをノックする音が聞こえる。誠斗さんしか、この家にはあたしにちゃん付けする人はいない…けどこの声は違う。
「朔斗。ごまかせると思ってんの?…入って来ないでよっ」
「…バレた?…なぁ、話してくれねぇの?」
「…やだ…」
あたしの手元には、あの写真がある。一緒になんていたら、朔斗が傷つくんだ。
「やだぁあぁぁ…っ!」
止まんない。ホントは朔斗が好きな自分と、それに対して自虐的になる自分が自分じゃないみたいで折り合いが付かないでいるんだ。
「…んじゃあそこにいていいからさ。オレの話は聴いてくれる?」
「…うん」
朔斗のホッとしたような溜め息が聴こえた。
溜め息って、心の中の憂いだとかツラいことが目一杯詰まってるはずなのに、どうして時にこんなに美しく感じるんだろう。
今まで、こんな風に感じたことはいっぱいあった。けど理由は見つけられないでいた。
けど思ったよりずっと答えは簡単だったんだ…
「朔斗だから…」
「え!?」
「朔斗だからじゃなきゃダメなこと…いっぱいあるよ…」
「なぁ、お前がそういうこと言う度。オレがどう想ってるか知ってる?」
少し目線を反らしたまま、顔を紅潮させて朔斗が部屋に入ってきた。
「朔斗ぉ…」
そうしてまた朔斗の唇から溜め息が洩れる。そのあとを思えば深呼吸だったのかもしれない。
朔斗の唇とあたしの唇がまた触れ合って、今までのことを全て消し去るかのように、全身が朔斗への想いと朔斗からの想いで満たされていく。身体が熱い。
「蓮見エリカなんて振ったよ。悪いけど好きな奴いるからって」
「うん…」
「そしたら…麻依だろって言われた。そんなに解りやすいかな、オレ…」
「あたしも解ってたよ」
「えっ…」
「今だってこうやってしてれば、伝わってくるの」
あたしはもう、自分の気持ちに素直になれるような気がする。
そんな意味を込めて、そっと右手を朔斗の左手に乗せて、肩に寄り掛かった。
「好き、だよ」