Story 11;Strawberry or Lemon?
「ただいま!」
いつもならそれほど早くは帰ってこない誠斗さんの姿があった。
「お帰り、麻依。遅かったじゃない。今日は誠斗さんの誕生日でしょう?」
「ごめんね、ずっと麻綾と話してたんだ」
「もう、ダメじゃないの」
「いいんだよ。朔斗だって遅かったじゃないか」
「あ、前買っておいたワインだしてこなくちゃ♪」
朔斗がちょっと驚いたような目で見ていた。そりゃそうだ、麻綾と話してた上に自分より帰ってくるのが遅かったんだから。
「ねぇ誠斗さーん、ワインどこに置いたのー?」
「ないのか?じゃあそっち行くよ」
誠斗さんは席を立ってお母さんのほうへ行った。
「…麻依」
朔斗と喋るのはなんだか久しぶりだ。
「オレ、なんで麻依と別れなきゃいけなかったのかわかんないんだよ。教えて」
「…っと…」
言葉に詰まる…言えない。あたし1人で抱えてればいいのに。
「今は言えない…けどホントはあたし…」
気付いてる。もうずっと前から知ってる。
やっぱり朔斗を好きなのは変わらないって事も。朔斗の気持ちが今もあたしに向いてる事も…。
「…少なくともオレは」
朔斗が一呼吸置く。なんだか張り詰めた一瞬だった。
2回の吹き抜けから、誠斗さんとお母さんの声が響く。
「今でも麻依が好きなんだけど」
あたしだって好きだよ。言いたいのに、声が出ない…出せない。出したくないのかもしれない。
お互い喋らないまま黙っていると、『あ、あった!』と言う誠斗さんの声がした。
「朔斗、誠斗さんとお母さん来るよ」
「…あぁ、そうだな」
そうだなって言ったくせに、朔斗はあたしにキスをして言った。
「味でわかる」
「…なんかキモいよそれ」
「だって麻依の唇、オレと付き合ってた頃はキスしたときいつもストロベリーの香りがしてた」
「それがどうしたのよっ…」
まさか朔斗、気付いてた?付き合う前いつも使ってたレモンライムのリップ、付き合い始めてからストロベリーに変えた事も。そのストロベリーのリップを、別れてからまたレモンライムに戻した事も…?
嘘だ、気付いてるわけない。気付いてたとしたって、その意味までは知らないハズなのに…。あたしは、レモンライムは片想いの成就。ストロベリーは恋人との関係維持のおまじないみたいなものにしてたんだ。いつか、麻綾が教えてくれた…。
「付き合う前も今も、レモンの香りがする」
気…付いてる…?
「麻綾もそうなんだよ。麻綾、今はストロベリーの香りがしてるけど、前はレモンだった。なんでかってオレ今日聞いたんだよ」
「…片想いの相手が朔斗だなんて、そんな事…誰が言ったのよ」
「わかんだよ!」
なんて応えたらいいんだろう。
今でも愛しい…大好きな朔斗のため。
あたしは、どうしたらいいの…