Story 10;1番星
こぼれそうになる涙をまた少し拭いた。
1番星が見える。もう夜になりかけているんだ…
「…ごめん、付き合ってもらっちゃったな…。佑稀先輩に謝っといて」
「いいのに、そんな事。大丈夫だよ。それに、佑稀先輩は私の事だけじゃなくて朔斗の事もよくわかってるしね」
「なんか、明日部活で会ったら気まずいかも」
「だぁから大丈夫だって!じゃあまたね!」
「おぅ!じゃーな、麻綾!今日はサンキュ!」
「どういたしましてっ!」
そんな会話が聞こえた。あたしは足を止めて、麻綾が向かってくるのを待った。
「…誰かいるの?…ま、麻依?」
「…うん、あたし。…麻綾、今いい?」
まだ朔斗もそんなに遠くまでは行ってないだろうから、少し声を潜めた。
「全然いいよ。私も帰ったら麻依にメールしようと思ってたの」
「そっか。…ありがと」
「も〜っ、朔斗も麻依もぉ〜…見てたんでしょ?」
う゛。痛いとこ衝かれた…
「うん…ごめん、ホント」
「何によぉ〜…どこまでどう言ったらいいのか、ホントにわかんないっ」
怒ってるフリなのはわかってるんだけど、なんか…ツラい。
「麻綾が板挟みになってるのはホントに謝りたい…っ」
あぁ…また涙出てきた。あたしってかなりワガママ、だよなぁ…
「…いいよ。麻依だっていっぱい悩んで決めたこと、でしょ?私に、麻依の決断が合ってたかなんて決める権利はないし、麻依が決めたことならきっと正しいんだって、私信じてるから。ね?…朔斗、傷つけたくなかったんでしょ?」
「うん…でも、でも…もし、朔斗があたしと別れた事で苦しんでるなら…間違ってたのかもしれない。今、こんなにお互いツラいじゃん…!」
「…麻依!しっかりしなよ!決めたんでしょ?こんな運命になるんだったら、あたしと朔斗は結ばれないんだって言ったでしょ?だから今ツラいのもいつかはなくなるはずなんだって…麻依が言ったんだよ。麻依がそれを信じなくなったら、私は何を信じればいいの?私だって…朔斗と麻依にはお互いの側にいてほしかったんだよ!」
「麻綾…」
3歳のコドモみたいに、嗚咽を隠さないで泣きたかった。でもこうして夜を迎えるたびに、あたし達は少しずつオトナになっていくんだ。…叫びたい。
…朔斗が、好きだって――――。
さっき見つけた1番星は、もう他のきらめく星の中に紛れてわからなくなっていた。
朔斗もそうやって、他の人の中に紛れてくれればいいのに――――。
「もう…ムリだよ…!」
夜空の1番星は紛れるけれど、あたしの中の1番星は永遠に1番星なんだ…。