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last competition②

 ついに始まったインターハイ予選を兼ねた大会。健吾をはじめ、最上級生はこの大会を最後に引退する予定だった。この予選を突破出来なければ、もう部活に出る事もなく、大学受験に向けて勉強漬けの日々が始まる。

 これまでに無く気合いが入る健吾だが、波乱を呼ぶ沙綾が観客席に現れ……

 約一か月後。五月最初の土日にかけて、インターハイ予選を兼ねた大会が開催された。場所は県立総合グラウンド。各校の代表が集まり、培ってきた力をぶつけ合う。投擲競技や跳躍競技ならまだしも、短距離走や長距離走は一発勝負だ。100m走など、高校生なら11秒程度で全てが決まるシビアな世界なのだ。当然皆ピリピリしており、独特の張りつめた雰囲気が立ち込めていた。

 貴重品やその他の荷物は観客席に置き、出場しない下級生が荷物番をするのが慣例だ。選手達はスパイクや必要品だけを手にグラウンドへと向かい、学校ごとに陣取りアップを始める。グラウンド内をジョグで流し、一周ごとにストレッチで体を伸ばす。体がほぐれるのと反比例して、テンションが上がっていくのが分かる。

 これが緊張に繋がらないよう、キャプテン・木口が皆に声をかけながらアップを続けていった。キャプテンらしい配慮だ。健吾はと言うと、自分の事で頭が一杯になっていて、周りの事が目に入っていなかった。いつもの様な周囲への気配りが出来ない状態なのだ。

 その様子を見た木口が気楽な口調で話しかける。気合いが入るのはいいが、それが空回りするようでは元も子もないのだ。


「今日は黒瀬さんの応援は無いのか? GWなんだから来れるだろ?」

「ああ、来るとは言ってたが……時間なんかは聞いてねぇな。そのうち来るんじゃねぇの?」


 健吾も身体を伸ばしながら答えはするが、まだ緊張がみえる。木口は――こりゃイカン、別の話題でも振るか――と観客席に視線を飛ばしてネタを探すと、丁度階段からくるみが姿を現した。――絶好のタイミングじゃないか! 偉いぞ黒瀬さん!――と内心ガッツポーズをとりながら健吾の肩を叩く。


「おい美作、黒瀬さんが……と?」

「はん?」


 マヌケな答えを返しながら振り向いた健吾の眼に、観客席に入って来たくるみの姿があった。それはいい。問題はくるみに続いて入って来たヌアサ=沙綾だった。二人して健吾を見つけるや声援を送り、手を振っている。

 くるみはオレンジのタンクトップにデニムのミニスカートと白のパーカー、パステルカラーのスニーカー、沙綾は体のラインが分かるタイトな白シャツと、七分袖のデニムジャケットと揃いのデニムのショートパンツ、そしてアンクルカットのブーツという出で立ちだった。

 二人とも活動的な服装なだけのはずが、どうも沙綾に限っては抜群のスタイルのせいか、周囲の目を集めてしまう。

 いや、それだけではない。沙綾は発するオーラの様なものが根本的に違う。少なくとも健吾にはそう思えた。単純に考えれば異星人である上に、桁違いの年齢なのだから当然と言えよう。健吾ならば「さすが600歳オーバー!」で済ませられる筈だが、どうもそれだけでは無いのではないか? ヌアサには他にも何か――何かは分らないが、まだ自分には分らない何かがあるような気がし始めていた。

 だが、そんな気分も木口のヘッドロックで吹き飛んでしまう。


「おい、美作。な・ん・で黒瀬さんだけじゃなく湯浅さんまでお前の応援に来てるんだ?」

「あだだだだ! 痛てぇって! 俺は知らん!」


 嘘である。本当は知っている。応援ではなく、こういった大会の調査なのだ。が、それは言うわけにはいかない。そして、まずい事にくるみと共に自分に声援を送ってくれているのだ。ここは知らぬ存ぜぬで通す以外に方法は無かった。

 しかしこの状況では、健吾が「公認の二股」をかけているようにしか見えないのも事実である。健吾と同様、やや古いタイプである木口も御立腹の様子だった。プロレスファンならではの「細かい技」を使って攻めてくるのである。

 つまりヘッドロックの状態で、手首の関節を健吾のこめかみに当ててグリグリとやりながら締め上げるのである。これは一見地味だが実はかなり効く。


「キャプテン、やっちゃって下さい」

「これは人道に対する罪です。きちんと裁かなければ」


 普段は自分を慕っている後輩達にまで散々な事を言われている。黙々とアップを続ける者も居る事はいるが、圧倒的少数派だ。同学年の連中に至っては、笑いながらけしかける始末だ。


「いやーこれはあれだな、うん。一度ナニした方がいいな」

「いや、お前は何を言ってるのか分らん。言いたい事は分かるが」

「要するにだ。女ったらしはやってしまえって事だろ?」

「そう言う事だ。と言うワケで木口! 部員の総意って事でやっちまえ!」


 こうなると木口も悪乗り炸裂である。ヘッドロックからフェイスロックに移行するやいなや、またしても細かい技が繰り出された。手首の骨(橈骨・とうこつ)を頬骨に引っ掛けて締めるのである。これまた地味だが、強烈に痛い。


「……!!」


 声すら出せない痛みに襲われ、木口の腕を叩いてギブアップのサインを出すのがやっとの状態だ。顧問の寺坂が止めに入って来て、ようやくブレイクである。


「お前ら無駄なところで消耗するなよ……」


 寺坂に呆れ顔で言われても、健吾としては被害者なのだからどうしようもない。皆に「まぁこのぐらいにしておいてやろう」等と言われても、納得がいかないのである。だが今は競技に集中すべきだ。気を取り直してアップを再開し始めた。


 観客席では沙綾とくるみが並んで座っているが、健吾達の騒ぎを見て「うわちゃー」となっていた。


「……くるみちゃん、これって?」

「ちょっと誤解されたみたいね」

「そうみたいね、私としては『観戦』がメインだったんだけど……」


 そうなのだ。ヌアサ=沙綾は既にくるみと打ち解けており、今日の応援に付いて来たという形なのだ。沙綾が健吾に対して恋愛感情を抱いていない事を確認してから、女同士の友情があっさりと成立したのである。

 ケータイ番号の交換は、沙綾が架空の番号を作り、適当に作り上げた端末(海外物と言う事にしている)でキャッチするという方法をとっていた。システム上の細かい方法は沙綾にしか分らない。

 

 そんな女性陣の心情をよそに、時間通りに開会式が始まった。偉そうな肩書きを持った人物達の長いスピーチが続く。せっかく温まった体が冷えてしまう前に式が終わったのはラッキーと言ってよかろう。


 そしてフィールドでは複数の競技が同時に進む。トラック競技と跳躍競技など、同時にやれるものは一気にやっておかないと時間がかかり過ぎるのだ。


 そして健吾がでる100m走は、最初に行われるのだった。


 かなり間が空いてしまいました。肩を痛めたりPCが不調だったりス●パーが受信できなくなったり、HDレコーダーのチャンネルが突然狂ったり……この一か月ほどは「呪いでもかけられたんじゃ……?」という状態でした。

 しかし、なんとか乗り切ったので活動再開です。今後ともよろしくお願いします!

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