カメレオン
「あんた本当に友達なくすよ。」
そんな風に言われたのは初めてだった。それ以前に、まさか卒業式が終わってすぐにそんなことを言われるとは考えもしなかった。
「なんで?」
すこし間を空けて返答すると彼女はこう言った。
「オーラ。」
まさかそんな非現実的なことを真顔で言われるとは思ってもみなかった自分だったがなぜだかその時だけはすんなりと返事が出て行ってしまった。
「ありがと。」
なににだ。自分は何にありがとうなんだ・・・。しかし自分はいやな気持ちにはならなかった。何故なら自分は一人でいることは少なかったものの友達と呼べる奴は誰一人いなかった。だから友達をなくす以前に友達がいないからなくしようがないのだ。そんな自分を慰めてくれる奴は一人もいなかったし、ましてや慰めてもらおうとも思わなかった。強がりだというのにはすぐにきずいていたんだけどな。
中学1年の事だった。自分はスタートに失敗した。簡単に言ってしまえば友達が作れなかった。
「友達は作るものじゃなくて自然に集まってくるもの。」
などと言っているババアみたいなテレビのゲストに、いったいいくら腹が立ったことか。そして周りが見えなくなったのはこのころだったし、死のうと考えたのもこのころだった。
自殺ってすごいよな。何度死のうと思ったことか。でも自分は踏み出すことができなかった。
あと一歩だったのに前に進めなかった。ほぼ毎日この事だけで一年は終わってしまった。
2年の時。周りを信じれなくなった。しかしこれは自分にとっての好機でもあった。
あまり周りを感じなくなることで人に溶け込めないまでも、周りになじむことはできるようになった。
まあ世にゆう迷彩色のようなものだ。でもこのおかげで一人でいることはなくなった。そして本当の友達を作ることもできなくなった。
3年になった。周りはすっかり変わってしまった。確かなのは悪いほうに変わってしまったことだ。
目の色はすさんだ灰色になり、髪の毛は日の光を反射できるくらいに赤々としてしまった。
歯を見ればヤニで真っ黒になっていたり、中には援助交際をしている奴までいるそうだ。
自分はこのことを一度だけ親に言ったことがある。しかし、返ってきた言葉は予想を反して直球だった。
「マセガキ」
このころを境に自分はより哺乳類からハチュウ類へと進化を遂げるのだった。
昼間はあまり行動しなくなり、夜にあたりを徘徊するようになった。そのおかげで世に言うヤンキーなどというやからによく遭遇することとなった。しかし絡まれることは不思議となかった。
あるとき一度だけ不思議な奴と会うこととなった。
「あんた、友達少ないだろ。」
前髪を外に寄せている、身長は自分と同じ170センチくらいだった。髪の色は周りはシルバーで真ん中は赤だった。口にはくわえタバコ。ピアスは方耳だけ。なんというか、不良のお手本のような奴だった。
「ばんわ。・・・ていうかなに?急に。」
「いや、なんか言いたくって。あんたよく来てるよな、この辺。」
「そうかな。毎日来てるからそういう感覚ないわ。」
「なんだそりゃ・・・。」
「まあ気にするな。俺の人生観だ。」
「ふーん。不思議な奴だな。」
「とりあえずほめ言葉として受け取っとくよ。」
「ていうか、まだ答え聞いてないんだけど。」
「ああ、最初のやつか。うん。少ないよ友達。ていうか一人もいない。」
「リアル?」
「残念ながら・・・。」
「いや・・・、なんかワリーな。」
「気にすることじゃないよ。というより気にしてないよ。」
「そっか!!」
イメージが崩れた。こいつ本当にヤンキーなのか?
「ていうかあんた、名前は?」
「カメレオン。」
「馬鹿にしてんの?」
「あいにくこれが本名なんでね。」
「そっか。まあそういうことにしとくわ。」
「まあよろしくな。」
「おう!」
残念な、いや残忍なことにこいつが俺の友達ナンバーの001に登録されてしまった。
「ていうか俺なんでお前に声かけられてんの?」
「いやだって、なんかこう・・・言わずにはいられなかったんだよな。」
「そうか・・・。てか、お前の名前は?」
「ん?俺?俺は相沢、相沢翔。よろしく。」
「おう。」
「んじゃさ、年齢とかも教えてよ。俺14。」
「一個上だ。」
「んじゃ先輩じゃん。」
「いいんだ。年齢なんて早く生まれたか生まれてないかだけだしな。」
「そっか。」
そういうと翔はすこし寂しそうだった。いや、悲しそうだったのかな。そんな風にどこか遠い目をしていた。まるでいつかの自分のように。
それから翔は毎日のように俺の前に現れた。それでいつも笑顔で笑いながら今日あったことを淡々としゃべっていた。しかし翔はある時を境に来なくなった。それは秋の終わり、冬の始まりというところだった。
自分は翔を探した。毎日毎日探した。そしてたどり着いたのは丘にある総合病院だった。
翔の部屋に入ると病院独特の消毒のような臭いがした。
「よう。」
そんな言葉にも答えは返ってこなかった。
ギラギラとした髪の毛はごっそり抜けてしまい、目元には大きなクマができていた。
話を聞くと彼はここ1年ずっと病院に通わず好き勝手やっていたらしい。
親もいないのでどうすることもできないのもあるが、これは彼が決めていたことらしい。
「こんなベットの上で死ぬくらいなら、餓死するほうがまだましだぜ!!」
と言って、病院から逃げ出したらしいのだ。私はあきれた。そして彼に何も言わず、病室からたちさった。彼が死んだのがわかったのは冬休みのことだった。私の友達ナンバーからあっさりと001番は消え去ってしまった。
「またカメレオンか・・・。」
こんな気持ちになるのは初めてで正直自分で驚いた。なにかすっぽりと抜けてしまったような感覚。
たとえるならばすべて液体の抜けたラムネのビンの中でビー玉だけが音を鳴らしているような、そんな寂しい感覚だった。
その日の夜。いつものように翔と会っていた場所に行くとみたことのある少女がいた。
「こんばんわ。」
「こんばんわ。」
「あなた、翔の言ってたカメレオン?」
「あんた、翔のなに?」
「姉。」
正直驚きだった。まるで翔に似ていなかった。
「あんた?翔の言ってたカメレオン。てかこれ聞くの二回目なんだけど。」
「まあそうだけど。」
そういうと彼女はニッコリと笑顔を見せた。
そこは少し翔と似ていた。
カメレオン 第1話 完