【06】鉄拳制裁
その日、鬼泉正輝は授業中も周りの不良達に睨みつけられたり、消しゴムのカスを投げ飛ばされたりしていた。
鬼泉正輝は、消しゴムのカスを頭に喰らうたびに、投げて来た不良に向かって、愛想笑いをしながら、時間をやり過ごしていた。
その鬼泉正輝を心底軽蔑するような目つきで葵馬咲希は眺めていた。
その日の授業が全て終わると、また下山根浩二と三室仁が鬼泉正輝の元にやってきた。
そして、鬼泉正輝の座る机を三室仁が蹴り飛ばした。
「わわっ! な、なに?三室くん」
「鬼泉、てめぇウゼェんだよ! いっつもいっつもヘラヘラヘラヘラしやがって。とっとと来いや!!」
下山根浩二と三室仁は、相手を蹂躙する快感に酔いしれつつ、鬼泉正輝は下山根浩二に髪の毛を引っ張られて教室から出された。
鬼泉正輝は再度下山根浩二と三室仁に体育館の裏に連れ出された。
そして、再び、体育館の裏で、鬼泉正輝は下山根浩二と三室仁により暴行を受けた。
「オラァ!」
鬼泉正輝は腹に蹴りを受けてうつ伏せに突っ伏した。
「いたた」
「ハハハ、案外しぶといじゃねぇか」
その鬼泉正輝の髪を下山根が笑いながら掴んで強引に持ち上げた。
「は、離してよ」
「うるせぇんだよ! 離してくださいお願いします、だろうがボケ!」
下山根浩二が髪を掴んだまま鬼泉正輝を投げ飛ばした。鬼泉正輝は壁に背中をぶつけた。
「いったあ!」
鬼泉正輝は壁を背にしてへたり込んだ。
「お前、前の高校、聖愛学園とかいったっけ? どうせ、そこでもいじめられてうちに転校してきたんだろ? ここでも同じだよ。オメェは一生いじめられて、地べたを這いつくばる人生なんだよ」
下山根浩二が壁に背中をつけてへたり込んでいる鬼泉正輝の胸あたりを蹴った。
ゴホッゴホッと正輝が咳き込んだ。
そして、下山根浩二を見上げて言った。
「うう……あ、あのさ、下山根君、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「あん? お前が質問するなんて一〇年早えんだよ!」
そういって正輝は下山根浩二に平手打ちされた。
「ご、ごめんよ。で、でも、どうしても聞きたくて。か、亀元武史君って、今、学校来ているのかな? 天獄四天王の」
「気安く亀元さんの名前呼ぶんじゃねぇよ!」
下山根浩二が再度鬼泉正輝を平手打ちした。鬼泉正輝のかけているメガネがズレた。
「天獄四天王、亀元武史さんは、今停学中だ。来週から通学するはずだ。お前のこと紹介してやるから、喜べや! みんなでたっぷり遊んでやるよ!」
三室仁の正拳が鬼泉正輝の顎に入った。
鬼泉正輝は正拳をまともに受けて後方によろめき壁に背中をぶつけた。
「ごほっごほっ、そ、そうなんだ」
鬼泉正輝は倒れた上半身を起こし、学ランについた土を払った。
「ね、ねぇ、ほ、他に何か知ってる事ないかな? 天獄会について……」
「あ? 知らねぇよ。そんな事聞いてどうするつもりだ?」
これ以上この二人から今聞き出せることはない。そのように鬼泉正輝が判断した。
すると、メガネを外して胸ポケットに入れた。
(さて、もう十分のようだな…)
ニヤリと不敵に笑った。
「……じゃあ……さ、こうしようよ、お、お前らは……」
突然、鬼泉正輝を取り巻く空気が変わった。
「あん?」
正輝に向けて拳を構えた下山根浩二の肩がピクッと震えた。
鬼泉正輝がゆらりと立ち上がった。
「お前らは、今から地獄を知る……」
鬼泉正輝が呟くように言った。
「は? 何言ってんだ? お前」
正輝が拳を握ってポキッと鳴らした。
「どうでもいい、このバカが! いじめられ抜いて死ねや!」
下山根浩二から正拳が放たれた。鬼泉正輝はそれをいとも簡単に掴んだ。
バキッ!
鬼泉正輝の強烈な蹴りが炸裂した。
「ぎゃあああ!」
右腕を脱臼させられた下山根浩二が叫んだ。
「ちょ、ちょっと待、ごはあっ!」
鬼泉正輝の強烈なボディブローを受けて三室仁が蹲った。まるで鉛が腹の中に埋め込まれたような衝撃だった。三室仁の呼吸が一瞬止まった。
「て、てめぇ、こんなことして、ぐああっ!」
脱臼した右腕を蹴られた下山根浩二が地べたに膝を崩した。
「ひ、ひいい!」
鬼泉正輝は、逃げ出そうとした三室仁の襟首を掴み引き戻すと顔面を頭突きで強打した。
三室仁の鼻の骨が折れて大量に鼻血を出した。
「あ、あがが」
そのまま鬼泉正輝は三室仁を背負い投げで投げ倒した。
「ぐえっ!」
下山根浩二が脱臼した右腕を抱えて逃げようとするが、鬼泉正輝に足を引っ掛けられて転び、顔面から地面に倒れ込んで顔面を強打した。
(力に正義なんか無ぇ。あるのは、ただの不条理。だからこそ、暴力には暴力で返す!)
鬼泉正輝は、這いずりながら逃げようとする下山根浩二の後頭部を掴み、地面にガンっと叩きつけた。
ガンッガンッガンッ!
下山根は何度も地面に頭を叩き付けられた。
「た、助け、、、」
下山根が朦朧としながら言った。
「や、やめて、やめて下さい!死んじまう!」
三室仁が鬼泉正輝に縋りついた。
(このクソッタレた世界の秩序、唯一のルールが力ならば、俺はそれに従うだけだ!)
その三室仁の首を右手で掴み、左から強烈なフックを三室仁に浴びせた。
「ぐげっ!」
三室仁は鼻血を出して一回転しながら地面に叩きつけられた。
鬼泉正輝は手を振って血を払った。
勝負は完全に決した。
倒れた相手が呻き声を上げる。鬼泉正輝は残り血の滲む拳を見つめた。
(そろそろ、か。一通り制裁は終わった。後は、こいつらには俺の手足となって動いてもらう)
鬼泉正輝は地べたにうずくまる下山根浩二と三室仁を見下ろした。
二人の周りには、血痕や、虫歯で黒ずんだ折れた歯が転がっている。
「下山根浩二、三室仁、今から俺に目玉を抉り取られるか、それとも俺の言うことに素直に従うか、どちらか好きな方を選べ」
鬼泉正輝が三室仁の後頭部をガンッと踏みつけて言った。
「こ、殺さないで、殺さないで下さい!言うこと聞きます!」
(天獄会、全てを叩き潰すために、まずは、最初のターゲットを追い詰める)
鬼泉正輝が三室仁の後頭部を足で踏み躙りながら言った。
「いいか、明日、四天王の亀元武史に会わせろ。そうすれば命だけは助けてやる」
「あ、明日って、で、でも亀元さんは停学中で……」
鬼泉正輝が三室仁を起こすと、鼻血だらけの顔を持ち上げ、右人差し指の三室仁の左目まで数ミリの位置まで突き出した。
「わ、わかりましたー! 会わせます! 会わせますとも!」
三室仁が叫ぶ。
「か、亀元武史さんは、渋谷の地下クラブにいつも居ます! 明日も! そこに来ていただければ!!」
下山根浩二が正輝に睨まれて叫んだ。
こいつ、頭がおかしい、まともじゃない、本気で殺される!
下山根浩二がその爬虫類のような感情のこもっていない瞳に震え上がった。
鬼泉正輝は人差し指を戻した。
「地下のクラブ? 名前は?」
「ラ……【ラピス】です! 今は、天獄四天王、亀元武史グループの溜まり場になっています!」
「そうか、じゃあ、明日の放課後、その溜まり場の地下クラブ【ラピス】とやらに案内しろ。逃げたら今度こそ、その目抉るぞ」
そう言うと、正輝は背を向けて何事も無かったかのように去っていった。
「ち、ちくしょう……」
「な、なんだよあいつ、俺たち相手に、こ、こんな……ハンパなく、強ぇぞ……」
顔面鼻血だらけの二人は足が震えしばらくの間立つことすら出来なかった。




