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「男子が2割の世界で普通にしてたら、どうやら大問題らしい」   作者: ゆう
一ミリの境界線、一秒の静寂

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第3話 昼休みの廊下

第3話 昼休みの廊下


昼休みの廊下。

窓から差し込む陽光が、床のワックスに反射して眩しい。

俺は職員室へ向かうため、人通りの多い中央廊下を歩いていた。

俺が歩く数メートル先から、女子たちの流れが自然に左右へと分かれていく。

まるで、見えない斥力が働いているようだ。

(……相変わらずだな)

彼女たちは目を合わせず、談笑をピタリと止め、俺を避けるように大きな弧を描いて通り過ぎる。

すれ違いざま、一人が誤って俺の肩にぶつかりそうになった。

「あ……っ」

短い悲鳴。彼女は顔を青くし、震える手で自分の肩を押さえた。

謝ることもなく、逃げるように走り去っていく。

「負担をかけてはいけない」というこの世界の善意は、時に排斥に近い形をとる。

廊下の壁際で足を止め、人の波が切れるのを待つ。

すると、向かいから歩いてきた一人の女子生徒が、俺の三歩手前でぴたりと足を止めた。

「あの……」

彼女は制服のスカートを両手できつく握り、視線を足元に落としている。

「崎山さん、ですよね」

「はい」

俺が短く応じると、彼女の喉が小さく動いた。

「……担任の佐藤先生が、探していました。進路指導室に来てほしい、と」

「わかりました。ありがとうございます」

俺がごく自然に礼を言うと、彼女は驚いたように肩を揺らした。

一度だけ顔を上げ、信じられないものを見るような目で俺を見つめる。

そして、何かに耐えるような足取りで、足早に去っていった。

用件はただの確認事項だった。

進路希望調査票の、親の印鑑の押し忘れ。

ただ、それだけのことだ。

◇  ◇  ◇

帰り道。

校門を出た先の緩やかな坂道を、俺は田辺と並んで歩いていた。

夕日が長く伸びて、アスファルトをオレンジ色に焼いている。

田辺はリュックの紐を片手で握り、気だるげに前を見据えていた。

コンビニの袋が、彼の歩調に合わせてカサカサと鳴る。

「お前、廊下に立ってるだけで目立つな」

田辺が、感情の起伏がない声で言った。

「立ってただけだけど」

「……それが問題なんだよ」

田辺は立ち止まり、俺の顔をじっと見た。

その瞳には、少しの苛立ちと、それ以上の諦めが混じっている。

「普通の男は、廊下の真ん中で堂々と立ち止まったりしない。女子の視線から、自分を消そうとするもんだ」

田辺は視線を逸らし、道端のガードレールに目を向けた。

「……不自然だろ、それは」

俺がそう返すと、田辺は力なく首を振った。

「その『不自然』が、この世界の『自然』なんだよ。お前は、あいつらに反応させすぎだ」

田辺が、歩道に落ちている小石を軽く蹴った。

乾いた音が、静かな坂道に響く。

「女子に道を譲らせる。先生への言伝を平然と受ける。お前の『普通』は、あいつらにとっちゃ劇薬なんだよ」

田辺は再び歩き出し、背中を丸めた。

「そうか」

「……お前はいつもそうだな」

田辺は大きくため息をつき、空を見上げた。

「そのうち、本当の大問題になるぞ。……いや、もうなってるのか」

俺は何も答えず、田辺の少し後ろを歩いた。

ただ、そこにいた。ただ、会話をした。

それだけで何かが歪んでいく感覚。

背中で感じる夕焼けの熱が、なぜか少しだけ重く感じられた。

この世界の「正解」は、いまだに霧の中にあった。


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