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「男子が2割の世界で普通にしてたら、どうやら大問題らしい」   作者: ゆう
第二章 教室の外側

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第1話「隣の席、翌朝」

朝のホームルームまで、あと十分。


教室に入ると、すでに半分ほど席が埋まっていた。昨日と同じ空気だ——気づいた何人かの視線が来て、すぐ逸れる。


もう驚かない。

おはようと言いながら自分の席に向かった。


左隣の席に、相沢ひなたがいた。ノートを開いて下を向いていた。でも近づいてきたのは絶対に気づいていた。肩が、わずかに固まったから。


「おはよう」


ひなたが顔を上げた。一瞬、目が合った。


「……お、おはようございます」


昨日より、ちゃんと返ってきた。


(昨日は固まるだけだったから、進歩だな)


ゆうは特に何も足さず、鞄を下ろして席に着いた。教科書を出して、今日の時間割を確認する。一時間目は数学だ。


チャイムまでの数分、教室はいつも通りのざわめきが続いた。

ただ——一つだけ、昨日と違うことがあった。


ひなたの後ろの席の子が、友人に何かを囁いていた。視線がこちらに来て、すぐ逸れた。廊下からも、ちらっと覗くような目が見えた気がした。


(昨日のノートの件、まだ話になってるのか)


田辺が後ろから肩を叩いたのは、そのタイミングだった。


「隣のクラスにまで聞こえてきたぞ、昨日の件」


「拾っただけなんだけど」


「わかってる。でも相沢さん、廊下で誰かに何か言われてたから」


それを聞いて、少し眉が寄った。


(ひなたが、か)


ノートを拾ったことが、彼女の一日を変えてしまったかもしれない。悪いことをしたつもりはない。でも——良かれと思っただけで、人の周りの空気が変わる。

それが、この世界のルールらしかった。


チャイムが鳴って、佐伯先生が入ってきた。

ゆうは前を向きながら、頭の隅で一つだけ決めた。


(昼休み、ひなたに確認しよう)


◇  ◇  ◇



昼休み、廊下で偶然すれ違ったタイミングで声をかけた。


「相沢さん。昨日のことで、なんか言われた?」


ひなたが立ち止まった。廊下の端で、少し表情が固まる。それから首を小さく振った。


「……大丈夫です。ちょっと聞かれただけで」


「そっか。もし変なことになってたら、言って。俺のせいで迷惑かけてたら申し訳ないから」


ひなたが、止まった。

廊下の喧噪の中で、ひなただけが静止した。


「……迷惑じゃないです。全然、迷惑じゃないです。むしろ……ありがとうございました」


「うん。よかった」


それだけで終わった。会釈して、廊下を歩き始める。


背後でひなたがまだ立っている気配がした。振り返らなかったが、少し気になった。


(ちゃんと大丈夫だったなら、いい)


◇  ◇  ◇



放課後、教室に一人残ってプリントを整理しながら、ゆうは今日一日を振り返った。


ノートを拾っただけで噂になる。声をかけただけで、相手の周りの空気が変わる。廊下でひなたに一言確認しただけで、また誰かに見られた。


(小さいことが、全部でかく伝わるんだな、ここは)


怖いかというと——正直、まだよくわからない。

ただ一つだけ確かなことがある。


自分の「普通」が、この世界では普通じゃない。それは疑いようがない。


だから——どうするか、は、少し考えないといけないのかもしれない。


窓の外で、グラウンドの砂埃が風に巻き上がっていた。



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