表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祈るほど魔物が強くなる世界で――好きなだけ祈れ。その分だけ俺が、殺してやる  作者: TERU


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/45

第41話 越境と、崩れ落ちるもの

白の中で、呼吸だけが響いていた。


ゴブリンは立っている。


いや――


立って“しまっている”。


「……こいつ」


ロイが息を呑む。


「まだ動くのかよ……」


リィナが矢を番えたまま、低く言う。


「おかしいでしょ……」


分かっている。


あれは、生きている動きじゃない。


「……違う」


俺は言った。


ゴブリンが、こちらを見る。


赤い目。


焦点が合っていない。


「生きてるんじゃねぇ」


一歩、踏み込む。


痛みはある。


だが、さっきより軽い。


それが逆に――気持ち悪い。


「死ぬのが、遅れてるだけだ」


セラが小さく息を呑む。


「……え」


「祈りの影響だ」


俺は剣を構える。


「後回しにされた“結果”が、溜まってる」


ゴブリンが動いた。


速い。


さっきよりも、さらに。


「来る!」


リィナの矢が飛ぶ。


当たる。


だが止まらない。


ロイが前に出る。


「くそっ……!」


弾かれる。


力が違う。


俺は踏み込む。


(足りねぇ)


一撃じゃ足りない。


なら――


「削り切る」


剣を振る。


――ズン。


斬る。


止まらない。


もう一度。


――ズン。


さらに。


――ズン。


肉が裂ける。


骨が砕ける。


だがゴブリンは動く。


全部、“後回し”だ。


「ガルド!」


セラの声。


聞こえてる。


だが止まらない。


止めたら終わる。


「まだだ」


踏み込む。


左脚が軋む。


構わない。


斬る。


斬る。


斬る。


連撃。


間を与えない。


「……異常だろそれ」


ロイが呟く。


「異常でいい」


吐き捨てる。


「処理しきれなくさせる」


ゴブリンの動きが、僅かに乱れる。


積み上がっている。


確実に。


「今だ」


俺は叫ぶ。


「セラ!!」


セラが震える。


「……っ」


分かっている顔。


それでも、迷っている。


「戻せ!!」


「……!」


「全部、戻せ!!」


沈黙。


一瞬。


だが、その一瞬が限界だ。


ゴブリンが踏み込む。


「早くしろ!!」


セラが、目を閉じた。


「――ごめん」


その瞬間。


何かが、切れた。


いや。


“繋がった”。


――ドン。


世界が、戻る。


溜まっていたものが、


一気に、流れ込む。


ゴブリンの身体が膨張する。


歪む。


裂ける。


内側から。


――バキン。


骨が砕ける音。


肉が弾ける。


血が噴き出す。


動きが止まる。


完全に。


今度こそ。


崩れ落ちた。


同時に。


「っぐ……!!」


来た。


全て。


まとめて。


身体が軋む。


折れた骨が叫ぶ。


内臓が焼ける。


呼吸が、できない。


「ガルド!!」


ロイの声。


遠い。


膝が落ちる。


雪に沈む。


立て。


立て。


立て。


「……まだ……」


一歩。


踏み出す。


その瞬間。


――切れた。


視界が、暗くなる。


身体の力が、抜ける。


「あ」


何か言おうとして。


言葉が出ない。


そのまま。


倒れた。


***


「ガルド!!」


声が、震えた。


返事はない。


身体を揺らす。


何も返ってこない。


「……嘘」


呼吸はある。


でも。


浅い。


弱い。


今にも消えそうで――


「私が……」


手が、止まらない。


震えてる。


「私がやったの……?」


分かってる。


分かってるのに。


言葉にした瞬間、

全部が本当になる気がした。


ロイがすぐにしゃがむ。


脈を取る。


「……生きてる」


短い声。


それだけで。


少しだけ、息が戻る。


「まだだ」


リィナが言う。


その目は、強い。


「死なせたら、許さないから」


誰に向けてるのか分からない。


でも。


その言葉が、刺さる。


私は唇を噛んだ。


涙が落ちる。


止まらない。


「……ごめん」


何回言っても足りない。


それでも出る。


ロイがガルドを担ぐ。


「謝ってる場合じゃねぇ」


強い声。


現実に引き戻される。


「ここで止まったら終わりだ」


白い世界。


何もない。


隠れる場所もない。


逃げるしかない。


「動くぞ」


リィナが前を見る。


「方向は?」


「……あっちだ」


ロイが指す。


正しいか分からない。


でも。


止まるよりはいい。


私は立ち上がる。


足が震える。


怖い。


全部、怖い。


それでも。


「……行く」


言った。


自分で。


ロイが頷く。


「いい判断だ」


三人で走る。


一人を背負って。


白の上を。


足跡が残る。


でもすぐに消える。


まるで。


最初から何もなかったみたいに。


時間がない。


体力もない。


それでも。


止まれない。


止まったら――終わる。


***


どれくらい走ったか分からない。


息が苦しい。


足が重い。


頭も、ぼんやりする。


その時。


「……見て」


リィナの声。


顔を上げる。


前。


白が、途切れている。


少しだけ。


色が違う。


雪が薄い。


風も違う。


「……あれ」


ロイが目を細める。


そして。


「――越えたな」


その一言。


「連合領だ」


空気が変わる。


ほんの少し。


でも分かる。


圧が軽い。


見えない線。


でも。


確かにあった。


私はガルドを見る。


「……来たよ」


届かない。


分かってる。


でも言う。


呼吸はある。


でも意識はない。


ロイは止まらない。


「まだ安心すんな」


現実の声。


「ここからだ」


リィナが頷く。


「……でも」


少しだけ、息を吐く。


「一応、生き延びたね」


私は、小さく笑った。


涙を拭きながら。


「……うん」


白の世界を抜ける。


その先へ。


私が壊しかけた人を連れて。


それでも。


それでも。


私は、越えた。


――境界を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ