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祈るほど魔物が強くなる世界で、祈る少女の代償を背負いすぎて最強になった剣士  作者: TERU


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第27話 一撃と、見えるもの

剣がぶつかった。


火花が散る――はずだった。


だが、音がなかった。


「……?」


リューズベルクの刃が、俺の剣に触れた瞬間。

抵抗が、消えた。


鎧の重みも。

足場の砂の滑りも。

息の荒さも。


全部、どうでもよくなった。


(……ああ)


世界に合わせていた力が、

勝手に“戻って”いく感覚。


外れたんじゃない。

最初から、縛っていただけだ。


「三下が――」


リューズベルクが笑ったまま踏み込む。


俺は、剣を振った。


ただ一度。


横に。


振り抜いた感触がない。

木の枝を払ったみたいに、軽い。


次の瞬間――


リューズベルクの身体が、ずれた。


首から肩、胸、腹。

綺麗な一直線。


「……は?」


声が遅れて落ちる。


上半身が、滑り落ちた。


血が噴く。

噴くはずなのに、周囲が固まったまま動かない。


団員たちが、目を見開いている。


「あ……」

「団長、さ――」

「リューズベルク様……?」


誰も状況を理解できていない。


剣が折れたわけでもない。

奇襲でもない。


ただ、斬られた。


俺は剣を下げた。


(……軽すぎる)


腕が、震えていない。


リィナが一歩引いた。


「……なに、今の」


声が掠れている。


「見えなかった」

「剣、振ったのは見えたけど……」

「なんで、そうなる……」


騎士団の一人が、震える指で剣を構え直した。


「お、お前……!」


俺は目を上げる。


「どけ」


空気が凍った。


団員が二歩、三歩、後ずさる。


そして――遅れて、叫びが走った。


「団長がやられた!」

「撤――」

「いや、祈り人を――!」


隊列が崩れる。


「セラ!」


「っ……!」


セラが身を縮める。

団員が彼女へ向かって手を伸ばした瞬間。


リィナの矢が、その腕を貫いた。


「触んな」


リィナの声は低い。


「今のガルド見て、まだ行けると思ってんの?

 頭、ついてんの?」


団員が呻いて倒れる。


「セラ!こっち――」


俺が叫ぶより早く。


「素晴らしいィィィ!!」


後ろで、学長が跳ねた。


頬が紅潮している。

さっきまで切羽詰まってたのに、

妙に元気だ。


「首狩り剣士! そのまま騎士団を殲滅しろ!

 中立は終わりだ。国家の争い! 祈堂は連合へ――!」


「うるせぇ!」


俺が言い捨てた瞬間。


――ドォン。


空が割れたみたいな音がした。


風が逆流する。

砂が舞う。

石が転がる。


空を見上げた。


飛竜の群れが、低い。


その中心。


“でかい”個体が、落ちてくる。


翼で空気を叩いた瞬間、

学舎の端の屋根が吹き飛んだ。


「やっば……」


リィナが歯を食いしばる。


「これ、雑魚じゃない」


俺は前に出る。


――遅れて、ロイが駆け込んできた。


「おい! 旦那!」


「遅い」


「アンタが早すぎるんだよ……って」


ロイの目が、地面の“二つ”を捉えた。


リューズベルクの上半身と下半身。


「……マジかよ」


ロイが呟く。


「番号持ち、だろ? それ」


「前座だ」


「言うと思ったわ」


リィナが吐き捨てる。


「……とにかく、セラは?」


ロイがセラを見て、顔色を変える。


「いた……よかった」


学長が、まだ叫んでいる。


「殲滅だ! 殲滅! 我ら祈堂は――」


その言葉の途中で。


飛竜のボスが、口を開いた。


火は吐かない。


代わりに――


顎が、落ちた。


空気が、噛み砕かれるみたいな音。


次の瞬間。


学長が、消えた。


いや、潰れた。


ぐちゃ。


血の匂いが、遅れて来た。


セラが息を呑む。


「……っ」


リィナの肩が硬直する。


ロイが、怒鳴った。


「おい! 今の見たか!? あれ、ドラゴンじゃねぇのかよ!」


「違う」


リィナが言った。


「飛竜より上で、ドラゴンより下」

「……って言ったら、こんな顔になるの」


「笑えねぇよ!」


ロイが叫ぶ。


騎士団の残りは、完全に腰が引けた。


逃げようとしている。

だが、飛竜の群れが学舎を囲っている。


逃げ道がない。


その時――


セラが、震える声で言った。


「……上」


「……あ?」


「上に、人型の……何かが見える」


飛竜の、群れの主の背。

確かに、揺らぎがある。


だが俺には“見えない”。


「見えるのか?」


俺が聞く。


セラが頷く。

顔が青い。


「……見えないの?」


「見えない」


リィナが即答する。


ロイも眉をひそめた。


「何言ってんだ? 背中に乗ってんのか?

 誰かいるなら矢で――」


「見えてない」


俺は短く言う。


「……俺たちには見えない」


セラが息を詰める。


「でも、そこにいる。……私を見て、笑ってる」


背筋が冷えた。


帳尻だ。


俺が死んで。

セラが祈って。

ねじ曲げた分が、形になって来た。


俺は剣を握り直した。


「構えろ」


三人が、無言で身構える。


「セラ」


「……うん」


「人型が動いたら、教えてくれ」


セラの目が揺れる。


「……私だけが見えてるの?」


「そうみたいだ」


俺は息を吐く。


「奴は、俺たちには見えない」


リィナが唾を飲み込んだ。


「やっぱ最悪」


ロイが小さく笑う。

怖さをごまかす笑いだ。


「……見えない敵に、どう戦う」


「見えないなら」


俺は前を見据えた。


「見える奴に合わせるしかねぇ」


主が、翼を広げる。


街の鐘が、まだ鳴っている。


遅れて、空気が――沈んだ。


セラが、叫ぶ。


「動いた! 右手が――こっちを指してる!」


俺は踏み込んだ。


見えないなら。

見える目で、斬る。


理の外に出れば切れる。

だから外す。ただそれだけだ。


俺はもう、世界に合わせない。

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