第26話 前線と後方、そして前座
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ギルド前。
街の中心は、すでに戦場だった。
空を切り裂く咆哮。
遠距離から放たれる矢と投射槍。
瓦礫の間を縫って走る冒険者たち。
その中で、俺は剣を肩に担ぎ、ミルダを振り返った。
「ミルダ。悪いが、ここは任せるぞ」
「ちょ、ちょっと! ガルドさん、勝手に――」
言葉を遮るように、落ち着いた声が割って入る。
「やあ。お困りですか?」
ミルダがはっと振り返った。
「カルディアス団長……!」
調査団団長、カルディアス。
いつも通りの柔らかい笑み。
だがその目は、すでに戦場を測っていた。
「来てくれたのですね……!」
「当然ですとも」
カルディアスは軽く周囲を見渡し、それから俺に目を向けた。
「ガルド。行きましたか」
「はい」
「それは結構。しっかりやってきてくださいよ。フッフッフ」
ミルダが首を傾げる。
「……何か?」
「いえいえ。こちらの話です」
カルディアスは笑顔のまま、空を見上げた。
「何とかなりますか……?」
ミルダの問いに、彼は即答する。
「ええ。あの“ひときわ厄介そうなの”は、ガルドを追います」
「そうなんですか?……では、残りは?」
「雑魚です」
ミルダが言葉を失う。
「ざ、雑魚……?」
「街の防衛は、我々調査団が引き受けます」
カルディアスは、声を張り上げた。
「調査団各員!
命を賭けて、街を死守しなさい!」
「「「はっ!!!」」」
一糸乱れぬ返答。
「副団長。数人連れて、城門上の遠距離支援を」
「了解!」
「残りは住民の屋内誘導。
それと――」
カルディアスは一瞬だけ、声を落とした。
「一人、ガルドを追ってください。祈堂学舎へ。
手出しは不要。見て、結果だけを」
副団長が一瞬だけ眉を動かしたが、何も言わず頷いた。
「冒険者の皆さん!」
カルディアスが再び声を張る。
「まずは遠距離対応。
降りてきた個体を各個撃破でお願いします!」
「任せとけ!」
「死守してやる!」
ミルダは胸の前で手を組んだ。
「……どうか、お願いします」
カルディアスは微笑んだ。
「ええ。任されました」
***
「遅い」
俺は前を向いたまま言った。
「置いていくぞ」
「待て待て!」
後ろから駆け寄ってくる足音。
「アンタが早すぎるんだよ!」
ロイだ。
息を整えながら、真顔になる。
「一つ忠告だ。
第六騎士団団長。特に番号持ちは――マジでヤバい」
「分かってる」
「一人一人が、チャンピオン以上って話だ」
「……リューズベルクだろ」
ロイが目を見開く。
「もう見てる」
「……そうか」
「先に行く」
俺は速度を上げた。
***
「リィナ! セラ!」
祈堂学舎前。
教員が数人切られてる。
学長の声が響く。
「首狩り剣士。騎士団を殲滅しなさい。これはもはや国家間の争いだ。必ず我々を連合国へ」
このハゲ何言ってんだ?
俺の知ったことではないが、
すでに戦闘は始まっていた。
「遅い! そしてヤバい! 早く助けて!」
リィナの怒鳴り声。
「ガルド! 騎士団が、私を――」
「今行く!」
踏み込んだ瞬間、前に出た騎士が剣を構える。
「行かせるわけないだろ――」
「ごはっ」
腹に一撃。
鎧ごと吹き飛ばす。
「どけ」
低い声で言った。
前に出てきた男が、笑う。
「お前が首狩りだったか。
なかなかいい目をしてるじゃねえか」
「それがどうした」
「面白い。殺してやるよ」
「リューズベルク様!」
団員が一歩前に出る。
「我々で十分です」
「お前らは祈り人を連れてこい」
リューズベルクは俺から目を逸らさない。
「俺は“送り人”の方と遊んでる」
「舐めてんじゃねーよ!」
リィナの矢が、連射で飛ぶ。
「セラ、後ろに隠れて!」
「ガルド!」
「心配すんな」
俺は剣を構えた。
「コイツは前座だ」
リューズベルクが嗤う。
「ほう?」
「本番は――この後だ」
「三下があッ!!」
踏み込み。
剣がぶつかる。
火花が散った。
――いい。
ようやく、全部が繋がった。
帳尻も。
騎士団も。
理も。
全部まとめて、叩き潰す。




