第23話 掴めない感覚と、離れた時間
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私は、謹慎中です。
寮の部屋。
窓から見える空は、今日も変わらない。
(……ガルド、ちゃんと動けてるかな)
祈らないって、決めた。
決めたはずなのに。
胸の奥が、時々ざわつく。
刻印は増えていない。
でも、消えてもいない。
(長いな……)
時間だけが、妙に伸びて感じる。
世界は、広い。
ガルドは、その中を進んでる。
私は、ここにいる。
――それで、いい。
……はずなのに。
ふと窓の下を見る。
複数の人影。
その中で、ひとりだけこちらを見上げている男がいた。
薄い笑い。
目が合った。
瞬間、胃の奥が冷えた。
笑っているのに、
目だけが笑っていなかった。
あれは――第六騎士団団長。
***
祈堂学舎。
「騎士団が何の用ですか?学舎は中立のはずです。騎士団だからって許されませんよ」
「ここは、王国領だ。いいから生徒を全員連れてこい」
「何事ですか?」
「学長。この方々が勝手に」
「我々は王国第六騎士団だ。いいから生徒を連れてこい」
「それはできませんよ。生徒が学舎にいる間は祈堂の管理です。例え、国王が来ても勝手にはさせません」
「貴様ら全員斬り伏せてもいいんだぞ?」
「貴方如き判断で我々中立国を敵に回すつもりなら構いませんよ。ただ、その時祈堂は連合国に着きますよ」
団長は何も言わない。
ただ、視線だけが寮棟をなぞっている。
「っち、また来るからな!」
「いつ来ても変わりませんよ」
「生徒達に外に出ないように伝えなさい」
「わかりました」
団長は去り際、寮棟を見つめる。
「……やっと見つけた」
セラを見て薄く笑った。
目は獲物を見る目だった。
「祈り人は貴重だ。
壊さないように連れてこいと陛下は仰っていたな」
そこに人間を見る視線はなかった。
***
「クソ……やっぱ動き、ずれぇ」
足を踏み込んだ瞬間、わずかに遅れる。
意識と身体が、噛み合っていない。
「おい、ガルド!二匹取りこぼした!」
「今行く!」
返事と同時に、横を風が裂いた。
――ヒュッ。
矢が、あり得ない角度で曲がる。
空中で“折れた”みたいに軌道を変え、
逃げかけていたホワイトファングの喉を正確に貫いた。
「わざと呼ぶな!いちいち面倒せぇ」
「シッシッシ、すごいでしょ!」
リィナが弓を引き絞りながら笑う。
確かに凄い。
だがダルい。
「いい加減、その動きに慣れなさいよ!
あんた、鎧のせいにするの何日目よ!」
「……もう少しで掴めそうなんだ」
「それ、昨日も言ってた!」
「わりぃ」
「ったく……」
舌打ちと同時に、もう一本。
変化弓。
視線で追えない速度と角度。
残った一体が地面に転がった。
今日はホワイトファングの討伐。
小型だが動きが速く、数で押してくる厄介な魔物だ。
――だが、問題はそこじゃない。
(……やっぱり、完全には外れねぇ)
ガルドは無意識に右手を握った。
指が、わずかに震えている。
力を入れすぎたわけでもない。
疲労でもない。
――感覚が、少しだけ遅れる。
拳を開く。
皮膚の下で、脈とは違う“何か”が走る。
(……またか)
最近、時々起きる。
踏み込みが極限まで深くなった後、
身体が“元に戻るのを拒む”感覚。
骨は折れていない。
筋も切れていない。
だが確実に、
“普通の状態”から遠ざかっている。
指先の感覚が、一瞬だけ“自分のものではない”気がした。
リィナは気づいていない。
気づかせるつもりもない。
(強くなるってのは、こういうことか)
ガルドは拳を握り直した。
リミッター。
一瞬だけ、確かに“軽くなる”感覚はある。
死ぬ、と思った瞬間。
踏み込まなきゃ終わる、と悟った瞬間。
その刹那だけ、世界が緩む。
(これを……常に出せたら)
「ねえ」
リィナが矢筒を叩きながら言う。
「あんたさ。毎日それ試してるでしょ」
「……ああ」
「引けない状況、作って。
自分追い込んで。
無茶して」
「近道がそれしか見えねぇ」
「馬鹿」
即答だった。
「でも……まあ」
少しだけ、間が空く。
「付き合うって言ったのは、うちだからね」
「……悪い」
「ホントにね」
***
夜。
ギルドで討伐証明を出し、報酬を受け取る。
「また討伐系でいいの?」
リィナが、半分呆れた声で聞いた。
「構わない」
「懲りないやつ」
「今は、それしかない」
ミルダが依頼書をめくる。
「討伐ですと……グリフォンですね。
ナイト以上推奨ですが……」
「グリフォンね」
「どうする?」
「強いなら構わない」
リィナが肩をすくめる。
「うちの剣士が“行ける”って言ってる」
今は強い奴がいい。
「ってかいつまでブレイドやらせる気」
「打診はしていますよ」
「ほんっとギルドは鈍いわね」
「……では、受領します」
ミルダが印を押す。
紙の音が、やけに大きく響いた。
***
夜更け。
ギルドを出た帰り道、
不意に、胸の奥が軋んだ。
セラの顔が、理由もなく浮かんだ。
俺は足を止めた。
リィナが振り返る。
「何?」
「……いや」
気のせいだ。
今は、集中するだけだ。
次は、グリフォン。
空を飛ぶ魔物。
逃げ場はない。
引けない。
引けない状況なら――
「……掴んでみせる」
リミッターも。
世界の拒絶も。
全部。
拒むなら、黙らせる。




