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祈るほど魔物が強くなる世界で、祈る少女の代償を背負いすぎて最強になった剣士  作者: TERU


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第17話 祈らない選択と、背中を射る距離

***


学舎から外出許可が下りたのは数日後の昼過ぎだった。


遅い。

遅すぎる。


私は許可証を握りしめたまま、ほとんど走るように校舎を出た。

制服の裾が揺れる。

腕が、じくじくと痛む。


(……まだ、何もしてないのに)


刻印は、理由もなく疼いていた。

祈っていない。

心を傾けてもいない。


それなのに。


嫌な予感だけが、消えない。


とりあえず――ギルド。


街の中心。

人の集まる場所。

ガルドが戻っているなら、ここにいるはずだ。


扉を押し開ける。


「ミルダさん!」


少し声が上ずった。


受付にいたミルダが、こちらを見る。


「あ、セラさん。

 ええと……ガルドさんなら、ついさっき」


「……どこですか」


「討伐依頼を受けて、出ました」


一瞬、頭が真っ白になった。


「……もう?」


「はい。パーティで」


パーティ。


その言葉が、胸に引っかかる。


「誰と……」


「弓使いの方ですね。

 ブレイド階級の、リィナさん」


弓。

女。


胸の奥が、ひり、と痛んだ。


「……そうですか」


返事は、思ったより平静だった。

でも、足元が少しふらつく。


一足遅かった。


厄災のこと。

祈りのこと。

集落のこと。


全部、言わなきゃいけなかったのに。


ギルドを出たところで、聞き覚えのある声がした。


「おっ、セラの嬢ちゃん」


ロイだった。


「休みか?

 なんだその顔。幽霊でも見たみたいだぞ」


「……ガルド、どこに行ったか分かりますか」


ロイは気軽に言った。


「アリゲーター討伐だよ。

 俺が紹介した弓使いと組んでな」


「……パーティ?」


「おうよ!

 美人で腕もいいって評判でな。

 前の仲間が死んじまってさ、

 強い戦士探してたんだ」


美人。


その言葉が、妙に刺さる。


「私が心配してる間に……」


喉の奥が、きゅっと詰まる。


「二人で、依頼?」


「仲良くはしてなかったがな。

 まあ、似た者同士だ」


私は、笑った。


多分。

ちゃんと、笑えてはいなかった。


「……もういいです」


「え?」


「どうでもいいです。

 厄災でも、祈りでも、刻印でも」


腕が、ずきりと痛む。


「全部、あいつに行けばいい」


ロイが慌てた。


「お、おいおい。

 何怒ってんだよ」


「怒ってません」


嘘だった。


「学舎に戻ります。

 さようなら」


背を向ける。


歩き出した瞬間、

刻印が、強く脈打った。


(……来る)


理由は分からない。

でも、はっきり分かる。


また――

何かが、生まれる。


***


「動き、硬いな」


俺の声が、湿った空気を裂いた。


「うるさい!」


返事は即。

後ろで弦が鳴る気配。

リィナだ。


連携確認――

相手は小型の魔物。森に棲む獣型。

数は三。


大した相手じゃない。

……はずだった。


俺は前に出る。

迷う理由がない。


背中に視線が刺さるのが分かった。

射線を探してる。


(……背中が広いって言いたい顔だな)


魔物が横に跳ぶ。

俺が追う。


その瞬間――


「おい!」


俺は叫んだ。


「俺の背中に射るなよ!」


返事はなかった。


次の瞬間、

矢が風を切った。


肩のすぐ横を抜ける。

――かすった。いや、かすめた。


その先で、魔物の頭が弾けた。


鈍い音。

即死。


俺の足が止まる。


「……」


背中から、短い鼻息。


「ふん」


勝ち誇ってるのが分かる。

腹立つくらい、腕は確かだ。


「次は合図出せ」


「出さなくても当てる」


俺は舌打ちした。


「……やりづれぇ」


残り二体。


今度は少しだけ噛み合う。

俺が踏み込み、リィナが読む。

前と後ろ。言葉は少ない。


だが――


「左!」


俺が叫ぶ。


矢が飛ぶ。

魔物が倒れる。


最後の一体。

俺が斬る。


静寂。


リィナが弓を下ろす気配。


「……まあまあね!」


「死ぬなよ」


「それ、こっちの台詞」


俺は剣を拭いながら言った。


一瞬、迷って――吐き出す。


「背中は、任せた」


後ろの気配が止まる。

驚いた。


「……今の、信用?」


「勘だ」


それで十分だった。


その時。


理由もなく、

胸の奥がざわついた。


説明できない違和感。

空気が重い。

森が、呼吸をやめたみたいに。


(……嫌な感じだ)


遠くで、何かが“鳴った”気がした。


音じゃない。

もっと根っこ。

世界の骨が、軋む感じ。


――世界が、どこかで歪んだ。


「行くぞ」


俺は言った。


「遊びは終わりだ」


終わったのは、

ただの息だった。


そのことを、

この時はまだ――誰も知らない。

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