第16話 弓と階級と、初めての仲間
カルディアスに余計なことを言われてから、数日が経った。
肩の傷は塞がった。
矢傷も、動かせば痛む程度だ。
装備も整え直した。
「……そろそろ、仕事に戻るか」
宿を出て、ギルドへ向かう。
街の空気は落ち着いたようで、そうでもない。
相変わらず、視線はある。
だがもう、慣れた。
その途中だった。
「よう、旦那」
聞き慣れた声。
振り向くと、ロイが路地の影から出てくる。
相変わらず軽い顔だ。
「久しぶりだな。ずいぶん派手に暴れてるじゃねぇか」
「……まだいたのか」
「相変わらず釣れねぇな」
ロイは肩をすくめる。
「そういや、厄介なのに目ぇ付けられたみたいだな」
「カルディアスか?」
「ああ。何考えてるか分かんねぇタイプだ」
「お前もだろ」
「はは。あんたには言われたくねぇな」
一瞬、沈黙。
ロイが思い出したように手を叩いた。
「そうだ。これからギルド行くんだろ?」
「ああ」
「紹介したい弓使いがいる」
俺は足を止めた。
「……弓?」
「腕は確かだ。階級はブレイド」
「死にたくなきゃ、近づくなって言っとけ」
「相変わらず物騒だな」
ロイは笑う。
「ゴブリン討伐で、旦那もノービスからブレイドに上がるだろ?」
「階級も、よく分からん」
ロイが目を見開いた。
「マジか? 階級も知らねぇで冒険者やってんのか!」
「興味ない」
「はぁ……」
ロイは指を折る。
「下からだ。
ノービス。
ブレイド。
ナイト。
ロード。
チャンピオン。
レジェンド」
「旦那の腕なら、チャンピオン位なのかもしれねぇ。
だがな、
常識がねぇと、そこには行けねぇ」
「興味ない」
「バカ言うな」
ロイはため息をついた。
「階級が上がりゃ、同じ依頼でも報酬が違う。
信頼の値段ってやつだ」
「ふざけた国だな」
「それで、パーティをちゃんと組んで、
仲間も死なせずやれりゃ、自然と上がる」
「ひとりじゃ、必ず限界が来るってもんよ」
俺は一瞬、黙った。
「……死なせず?」
「そうだ」
ロイは言った。
「ゴブリンなんて卒業だ。
マンティスだの、虫系。
飛竜にグリフォン。腐るほどいる。
稼げるぞ」
「マンティス?」
「知らねぇのか?」
「前に、ドルガの村で殺した」
ロイが固まった。
「……あれ、一体で十万ルクだぞ」
「……クソが」
思わず吐き捨てた。
「とりあえず、その弓使いに会わせろ」
「話が早ぇな」
ロイは笑った。
「ついて来い」
***
ギルドの奥。
人の少ない卓に、一人の女が座っていた。
長い黒髪。
無駄のない装備。
隙がない。
ロイが声をかける。
「話聞くってよ」
女が顔を上げる。
目が合った瞬間、分かった。
――この女、矢じゃなく“死体”を見てきた目だ。若いクセに修羅場をくぐってる。
「紹介する」
ロイが言う。
「こっちがガルド。
首狩りの剣士だ」
女の視線が、俺の剣に落ちる。
「……噂は聞いてるわ」
短く、はっきりした声。
「弓使いのリィナ。
階級はブレイド」
「で?」
俺は聞いた。
「俺と組めって?」
リィナは少しだけ、黙った。
「……前に組んでいた戦士、死なせた」
そう言った瞬間、指先がほんの少し震えた。
視線を逸らさない。
「うちの判断ミス」
言い訳もしない。
「それで?」
「次は、死なないやつと組みたい」
はっきり言う。
「あんたは、死ななそうじゃん?」
俺は鼻で笑った。
「勘違いするな」
リィナが眉をひそめる。
「俺は、仲間を守るために剣を振らない」
「別にいいし」
「報酬は七三」
「うちが七ね」
「帰る」
即答。
「あんた躊躇なさすぎじゃない!」
一瞬、空気が張る。
ロイが口を挟む。
「な?似た者同士だろ」
「首狩りなんかと一緒にしないでよ」
「わかったわ。
あんたが六うちが四。それでいいでしょ?」
俺はリィナを見る。
綺麗な顔だ。
目は濁っていない。
「一つだけ言っておく」
「なに」
「俺は、後ろを振り返らない」
「舐めないで」
リィナは答えた。
「あの時だって弦が切れなければ……」
沈黙。
ロイが笑った。
「決まりだな」
「……まだだ」
俺は立ち上がる。
「死んでも文句言うな」
リィナも立った。
「死んだら喋れないじゃん」
「置いていくぞ」
「うちの方が速いし」
やりづれえ。
背後で、弓の音がした。
張り詰めた弦の音。
――まあ悪くない。
仲間かどうかは、まだ分からない。
だが。
「……また、面倒なもの背負いそうだな」
ロイが怪しい笑みを浮かべる。
「リィナ、仲介手数料」
「ほんっとウザいわね」
「タダより怖いもんねぇだろ」
「この依頼をこなせたら払うし」
「見て」
「報酬が、高すぎる」
リィナが依頼書を見せてきた。
「これから連携確認したらこれ行ける?」
アリゲーター討伐依頼。数不明。
最低100万ルク。推奨ナイト以上。
受領者全滅。
また一人、知り合いが増えた。
こいつが死のうが生きようが、どうでもいい。
この世界は、通す気がない。
多分――まともな奴から死ぬ。




