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祈るほど魔物が強くなる世界で、祈る少女の代償を背負いすぎて最強になった剣士  作者: TERU


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第15話 秩序の刃と、折れない剣士

朝の騒ぎは、昼になっても収まらなかった。


石畳に残った黒ずんだ血痕。

乾ききらない匂い。

そして、街のあちこちで交わされる視線。


――首狩りの剣士。


そんな呼び名が、いつの間にか定着していた。


ギルド前の広場。


縄を解かれた首の山は、すでに運び出されている。

それでも空気は重いままだった。


目を合わせれば、逸らされる。

背を向ければ、追われる。


街は俺を通した。

だが、俺を“受け入れた”わけじゃない。


ただ――怖いだけだ。


(勝手にしろ)


そこへ、揃った足音が近づいてきた。


鎧に身を包んだ一団。

その中央に立つ男は、背筋が異様にまっすぐだった。


調査団団長、カルディアス。


相変わらず嫌な雰囲気をまとってる。

そして、目が笑っていない。


冷たい目でもない。

怒りでもない。


“測っている”目だ。


「……やってくれましたね、ガルド」


静かな声だった。

だが、妙に通る。

ざわついていた広場が、そこで一度黙った。


「よりにもよって、私がこの街に赴任している間に」


俺は肩をすくめた。


「関係ないだろ」


「本来は、ないと言いたいところですがね」


カルディアスは、首の痕跡が残る地面を一瞥する。

血の跡ではない。

街の“面子”の跡だ。


「ここは王国の管理下です。

 見過ごすわけにはいかない」


「証拠が必要だと言われた」


俺は言った。


「だから持ってきた。それだけだ」


カルディアスはほんの一瞬だけ、口元を緩めた。

笑っているようで、笑っていない。


「閉鎖された土地の出身だからといって、

 全てが許されるわけではありません」


声が、少しだけ低くなる。


「この街には秩序がある。

 それを踏み越える力を、王国は好まない」


俺は一歩前に出た。


「何が言いたい」


一瞬、沈黙。


周囲の団員が、わずかに腰を落とす。

剣の位置が数センチ変わる。


だがカルディアスは、穏やかに告げた。


「選んでください」


「私とここでやり合うか」


「あなたが引きずってきた“汚れ”を、

 自分の手で全て拭き取るか」


空気が張りつめた。


俺の中で、何かが笑った。


(秩序ってのは、こうやって牙を立てるのか)


……剣に手が伸びる。

伸びかけて、止めた。


剣を抜けば、楽だ。

勝つ自信もある。


だが――


勝っても、終わらない。


俺は、息を吐いた。


「……そうか」


少し考えてから、言った。


「なら、拭く」


空気が揺れた。


周囲の団員の目が一斉に動く。

“意外だ”と顔に書いてある。


カルディアスが目を細める。


「意外ですね」


「飛びかかってくると思いましたが?」


「俺が汚した」


それだけ言った。


カルディアスは、ふっと息を吐いた。


「では本日中に、血痕を全て消してください」


「ああ」


「……話が早くて助かります」


一歩、近づく。

圧が増す。


「あなたは危うい」


「ですが……個人的には、嫌いではありませんよ」


「勝手にしろ」


俺は踵を返した。


背中に、視線が刺さる。


「ガルド」


呼ばれた気がして止まる。


だがカルディアスは言わなかった。


代わりに――

背後で団員が呟いた。


「……化け物かよ」


聞こえた。

聞こえないふりをした。


***


ギルドの扉が開く。


ミルダが、少し気まずそうに出てきた。

現場を見て、言葉を失っている。


「ガルドさん……すみません。

 私の説明不足でした」


「まるで檻だな」


思わず零れた。


「……何か言いました?」


「いや。何の用だ」


「私にも手伝わせてください」


「仕事は?」


「応援を頼みました」


「好きにしろ」


ミルダは苦笑した。


その日一日、俺たちは石畳を洗った。


血を落とし、

臭いを消し、

何事もなかったように。


通行人が横を通る。

誰も声をかけない。


視線だけを落としていく。


まるで、

俺たちが“汚れ”そのものみたいに。


夕方。

ようやく終わった。


石畳の上に、血の色は消えた。

だが――街の空気は変わらない。


ミルダが言う。


「正直……」


「手伝わなければ良かったです」


「だろうな」


「……でも」


ミルダは小さく息を吐いた。


「あなたが剣で全部解決しなかったの、

 少し……安心しました」


「は?」


「怖いんです」


ミルダは笑った。


「あなたが、正しい顔で剣を抜く瞬間が」


俺は何も言えなかった。


(正しい顔?)


そんなもん――

俺に残ってるわけがない。


***


祈堂学舎。


「聞いたか?」

「首狩りの剣士だろ?」

「今度はゴブリンの巣を単独で壊滅させたらしいぞ」


「百匹以上、首を刈って引きずってきたって……」


「それは、さすがに――」


教室の後ろ。


セラは、静かに息を吐いた。


(……良かった)


無事に帰ってきた。

それだけで胸が軽くなる。


でも――

腕が、痛い。


制服の袖の下。

刻印が、じわじわ熱い。


(話さなきゃ……祈りのこと)


(……でも、話した瞬間。

 もう戻れない気がした)


セラは、手を挙げた。


「先生」


「最短で、外出許可をもらえませんか」


担任は一瞬考え、頷いた。


「分かりました。追って日時を伝えます」


授業は続く。

だが、セラの心はもう街に向いていた。


***


ギルドの奥。


「……確認したいことがあります」


ミルダが言った。


「一つ、明らかに違う個体の頭がありました」


「群れの主だ」


俺は即答した。


「俺の倍はあった。強かった。

 片言だが、喋った」


ミルダの顔色が変わる。


「……ありえません」


「多少の個体差はあります。

 ですが、そんな巨大な個体。

 まして言語を解するなど……」


俺は首を鳴らした。


「例のユニークかと思ったが」


「事実なら、ユニークです」


ミルダは息を呑む。


「……ただし」


「?」


「ユニークとして記録される前に、

 ガルドさんが倒してしまった、ということになります」


俺は肩をすくめた。


「構わない」


「……報酬ですが」


書類を確認する。


「ゴブリン一体五千。

 百四十体。

 調査依頼料十万。

 合計――八十万ルクです」


「悪くない」


数日休める。

鍛冶屋にも行ける。


それで十分だ。


***


ギルドを出る。


街は静かだった。

だが視線は消えない。


(通す気はない、って顔だな)


「……また、通さねぇつもりだな」


世界に向かって吐き捨てる。


いい。

拒むなら、斬る。


俺は歩く。


救ったかどうかなんて、どうでもいい。


俺は、戻ってきただけだ。


ただ――


それだけで、終わるはずがない。


背後で、足音。


振り返ると、

カルディアスが立っていた。


さっきまでとは違う目。


穏やかな官僚の目じゃない。

獣を見つけた狩人の目だ。


「……一つ、忠告です」


低い声。


「あなたが倒した“それ”は、

 ただの魔物ではない」


俺は、目を細める。


「理の帳簿に、空白が生まれました」


「何が言いたい」


カルディアスは、はっきり言った。


「世界は――帳尻を合わせに来ますよ」


その言葉が、妙に重く残った。


魔物じゃない。

秩序でもない。


もっと、厄介な何かが。


俺は剣を背負い直す。


「……望むところだ」


世界が通さないなら、

通すまでだ。


剣で。

それしか、俺にはない。

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