第14話 首と帰還と、救われた側の話
俺が街に戻ったのは、朝だった。
正確には、朝になっていた。
時間の感覚は、森と洞窟に置いてきた。
ズル……ズル……。
縄が石畳を擦る音が、やけに響く。
後ろを振り返らなくても分かる。
繋いだ頭が、まだ続いている。
数は数えなかった。
途中で意味がなくなった。
途中でいくつか逃げてった。
「……案外、早く戻れたな」
独り言が、空に落ちる。
一番時間を食ったのは、
首を刈って、証拠として揃える作業だった。
殲滅より、そっちの方が骨が折れた。
街の門が見える。
門番が、俺を見て固まった。
視線が、俺じゃなく、その後ろを追っている。
通さない理由は、なかったらしい。
いや、慌てて街の中に消えていった。
街は、俺を通した。
***
――私が、助けられた時。
正直に言えば、
最初は、分からなかった。
音がして。
風が鳴って。
何かが、壊れた。
それだけだった。
吊るされていた縄が切れて、
地面に落ちた時、
痛みより先に、匂いがきた。
血の匂い。
獣の匂い。
人のものじゃない匂い。
「……あ」
声が出なかった。
目の前にいたのは、
人だった。
でも、人じゃないみたいだった。
大きな剣。
血まみれ。
息が荒いのに、目だけが冷えている。
「……生きてるな」
そう言った。
確認するみたいに。
物を見るみたいに。
その時、私は思った。
――この人、私たちを助けに来たんじゃない。
ただ、そこにいた“敵”を殺しに来ただけなんだって。
でも。
それで、よかった。
その後は大変だった。
幸い年上のサチも、気丈なカナエも生きていた。
三人で喜んだのもつかの間。
地獄が始まった。
「悪いがコイツらの首刈るの手伝ってくれ」
「剣は貸してやる。残りの二人でロープを通せ」
どっちを選んでも地獄だから、代わる代わるやることにした。
拒否権は……なかった。
***
俺は街に入場する。
やたら街人の視線を感じたが、どうでもいい。
ギルドに首を放り投げた。
「……ゴブリン調査と殲滅だ」
俺は言う。
「証拠」
ミルダが、しばらく動かなかった。
「……正気ですか」
「何がだ」
「……いえ」
「数は?」
「百から先は数えてない」
嘘じゃない。
途中から、頭は頭じゃなくなった。
ただの“作業”だった。
周りが、ざわつく。
俺は気にしない。
報酬と書類。
それだけでいい。
***
私たちは、
強くなったと思う。
正直あの作業は良かったと思ってる。
助けられて終わりだったら、
立ち直れなかったかもしれない。
村までの道を、
その人の後ろを歩いた。
「あの、頭が……」
「行きたいやつは、行かせろ」
途中で、頭が転がっていったけど、
その人は気にもしてなかった。
それ以上話しかける勇気は、なかった。
夜、
焚き火の前で、
私は思い切って聞いた。
「……あなたは、冒険者ですか」
その人は、少しだけ考えてから言った。
「今は、そうなってる」
「私たち強くなります。あなたみたいに」
「そうか」
否定も肯定もしなかった。それがうれしかった。
***
ギルドを出て、
縄を解く。
頭が一つ、転がる。
「……終わったか?」
自分に聞く。
答えは、出ない。
終わった気がしない。
何かが、確実に増えた。
それは、
頭の数でも、
金でもない。
もっと、面倒なものだ。
***
別れ際、
あの人は、私たちを見なかった。
ただ、言った。
「ドルガによろしく」
それだけだった。
ありがとうも、
気をつけろも、
いらないみたいだった。
でも――
私は知っている。
あの人が、
振り返らなかったのは、
見たら、
また何かを背負うからだ。
私たちは強くなる。
***
俺は、剣を背負い直す。
街は静かだ。
だが、視線は消えない。
「……また、通さねぇつもりだな」
世界に向かって、吐き捨てる。
いい。
拒むなら、
斬る。
それだけだ。
俺は歩く。
救ったかどうかなんて、
どうでもいい。
俺は、戻ってきただけだ。
ただ――
それだけじゃ終わらないみたいだ。
調査団団長が、こちらへ来た。
目が笑ってない。
一歩、
また一歩近づいてくる。
門番が消えた理由が、今わかった。
この街で一番怖いのは、魔物じゃない。




