表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祈るほど魔物が強くなる世界で、祈る少女の代償を背負いすぎて最強になった剣士  作者: TERU


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/24

第10話 鎌の魔物と、寄り道の理由

街を出て、三日。


舗装された道はいつの間にか途切れ、足元は石と土に変わっていた。

振り返れば、城壁はもう見えない。

前方には、灰皮の主がいた山脈が、黒い影となって横たわっている。


「……この距離を、調査団は三日で往復か」


思わず鼻で笑った。


歩くだけじゃない。

地形を見て、痕跡を拾って、地図に落とし込んで。

それを往復だ。


「食えねえ連中だな」


嫌いじゃない。

だが、真似はしたくない。


俺は、剣の重さを背中で確かめながら歩いた。


その時だった。


風に混じって、悲鳴が聞こえた。


――人の声だ。


足を止める。

助けを呼ぶ声。

だが、切迫しすぎていない。


「……集落か」


興味はない。

本来なら、通り過ぎる。


だが――


「ゴブリン」


声の中に、その単語が混じった。


「……対象内だな」


俺は、進路を変えた。


***


集落は小さかった。

山脈の裾にへばりつくように、十数軒の家が並んでいる。


その中央で、一人の男が、魔物と向かい合っていた。


巨大な――鎌。


いや、違う。

鎌の形をした前脚を持つ、巨大なカマキリだ。


人の背丈の倍近くある。

外殻はくすんだ緑色で、苔のようなものが張り付いている。


前脚が振るわれるたび、空気が裂ける音がした。


男は剣を構えているが、腰が引けている。

足が、わずかに震えている。


「……おい」


俺は、距離を保ったまま声をかけた。


「大丈夫か?」


男は振り向き、叫んだ。


「大丈夫に見えるか!?

 冒険者なら助けてくれ!!」


やっぱりな。


「しょうがねぇ」


俺は剣を抜いた。


***


カマキリが、俺に気づく。


複眼がこちらを捉え、前脚が大きく振り上がる。


速い。


「くっ……!」


ガンッ、と音が鳴る。

大剣で受けた衝撃が、腕を痺れさせた。


重い。

だが、それ以上に――


「手数が多い……」


一撃が重い魔物は慣れている。

だがこいつは、間合いに入る隙を与えない。


薙ぐ。

弾く。

下がる。


完全に、防戦一方だ。


「このままじゃ、攻め手に欠くな……」


一度、間合いを切る。

呼吸を整える。


その時、視界の端に、あの男が映った。


「おい」


俺は言った。


「その剣、くれ」


男は目を見開いた。


「な、何だと?」


「今すぐだ」


一瞬の迷いの後、男は叫ぶ。


「わ、分かった!投げるぞ!」


剣が、宙を舞う。


俺はそれを掴んだ。


右手には、ゼットの大剣。

左手に、男の剣。


「……悪くない」


構える。


カマキリが、再び踏み込んできた。


左で受ける。

鎌をいなす。

右で――


「いくぞ」


薙。


鈍い手応え。


さらに一歩、踏み込む。


薙。


大剣が、鎌を弾く。


一歩、踏み込む。

身体を捻り――


左剣。


首が、宙を舞った。


「……」


だが、魔物は止まらない。


頭を失った胴体が、なおも前脚を振るう。


「反射か……」


十合ほど。

動きが、急に鈍くなる。


最後は、糸が切れたように崩れ落ちた。


静寂。


***


「……助かった……」


男が、へたり込んだ。


「マンティス・グラウを……一人で、

信じられん」


「礼を言う」


俺は剣を下ろし、言った。


「いい剣だな」


男は顔を上げる。



「これ、売ってくれないか?」


「……は?」


男は苦笑した。


「わしはこの村の村長、ドルガだ。

 おぬしは?」


「ガルドだ。王国で冒険者やってる」


「そうか……」


ドルガは頷き、


「今はっきりしたわい」


「わしにはもう振れん」


「剣はくれてやる」


「ただし、一つだけ頼みがある」


「なんだ?」


ドルガの表情が、曇る。


「実はな……

 ゴブリン共に、村娘を三人連れて行かれた」


「男共で助けに行ったが……

 誰一人、戻ってきておらん」


俺は、少し考えた。


「……ちょうどいい」


ドルガが目を見開く。


「俺も、この辺りのゴブリンに用がある」


「場所は?」


「この先じゃ。

 山脈沿いに一日ほど進むと、森がある」


「その中のどこかに……」


「十分だ」


俺は踵を返した。


「行ってくる」


「剣、ありがとな」

「形見は……大事にする」


「縁起でもない!」


「細かいことは気にするな」


ドルガは、深く頭を下げた。


「どうか……よろしく頼む」


***


森へ向かう道すがら、俺は剣を握り直す。


左手の剣。

村長の剣。


「……使えるな」


ゼットの大剣と、並べてみる。


悪くない。

むしろ――


「次は、数だな」


ゴブリンは群れる。

話によれば、主はいない。


時間はかかる。

だが、問題はない。


俺は、森へ足を踏み入れた。


ここから先は――

寄り道じゃない。


セラが“普通に生きる”ための金だ。

──あいつが、あいつのままで生きるために。

俺は、借りを残したまま生きたくない。

助けられた。だから返す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ