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9.スクリーン

「何事にも順序があるでしょ?」


 開かない本を目の前にしている私にアヤカはそう問いかけた。まあ確かに順序はある。そう言うということは、まだこの本を開く段階に私は居ないのだろうか。


「まずは表紙からだね」


「でもこれ私には何なのかさっぱりわかんないよ。ただの模様に見える」


 アヤカ的には多分表紙に書いてあるタイトルのようなものを読んでからということだと思うのだけれど、文字で書かれていない以上、私には読むことが出来ない。このままでは何かおしゃれなデザインが施された表紙程度にしか分からない。


「じゃあ、重さの話をしようか」


「重さ?」


 急に何のことか分からないのだけれど、アヤカはそんなことを言ってきた。


「その本、重さはある?」


「うん、少しだけだけど」


「じゃあ、僕を持ちあげてみて」


 そう改めて言われると少しだけ気持ちが揺れ動いたのだけれど、手に持っていた本を机の上に置き、アヤカの方に近寄ると腕と思われる部分の下に手を入れて持ち上げた。


「どう?」


「ないよ、やっぱりアヤカには重さは無い。っていうかそもそも持ってる感じとかが無いよ」


「でしょう?」


 そう得意げに言われても・・・。とは思ったもののアヤカ的には私に何かを伝えたいらしい。持ち上げていたアヤカを元の位置に戻すとまた言葉が続いていく。


「美香の輝きは重さを持ったことで実体化した。つまり言い方を変えると輝きは重さを付けなければ実体化されない。いつまでも空の産物。それか誰かの頭の中にあるだけ」


「だから美香、キミの輝きはある力で重みを付けた」


「ある力?」


「そう、それがこの世界でいう所の植物の力。美香の輝きの投影先、スクリーンみたいな感じ」


「スクリーン・・・」


 プランター、土を使うことで植物の力を借りたとアヤカは言う。確かに植物は光合成をするとかそんなのを小学生の時に習った。だから輝きを実体化するのに適しているとそう考えればその通りになると思うのだけれど。


 けれど、スクリーンは映写機が動き続ける限り映像を映し出す。映写機を停止させればその先に映し出されるものは何もなくなる。


「そう、だからほんの少し、僕は美香の力を借りることにした。美香の持ち物である輝きに〝重み〟を付けられるのは本人だけ。そうすると投影された輝きは重みを付けて実体化する」


「・・・私の力?」


「うん、ほら、思い出して、水をかけて欲しいってお願いしたじゃん」


 アヤカはプランターに手を向けた。


「水をあげて欲しいって言ったのは単に生長に必要だからっていうのもあったんだけど、それ以上に美香に重みを付けて欲しかったんだ」


 水をあげる事、つまり何かしら関わること、輝きを固定化する為にこの世界に有るモノを動かす必要があったという。


「そうするとこの本が出来上がる」


「重み・・・」


「そう、そしてその重みは美香の場合、銀という名の金属、そして銀は月の輝きから映し出される。だからほら、表紙に描かれている模様は銀色をしているでしょ?」


 本の表紙。それが銀色をしているのは私の輝きに重みが付いた証ということらしい。そこまでは理解は出来なくとも納得することは出来た。けれどそれでも模様が一体なんなのかは分からない。


「ここまで言えば、あとは美香、何となく気が付けるはずだよ」


「本当に?」


「うん」


 私はテーブルの上に置いてあった煙草を手に取って箱から出して口に咥えると腕を組んだ。


 アヤカの言う〝輝き〟というのは何なのだろうか。ということについて考えることにした。重みを付けなければ実体化しない、ということは多分きっと・・・うーん、そうだなぁ、形になっていないけれど存在するもの、実体感はないけれど、あるもの。


 そして私の輝きはアヤカの助力を得て銀を纏った。アヤカと過ごしているから何となくわかる、こういうのは頭で考えてはたどり着けない。だから目を閉じて本のタイトルを少し触る。指先に意識を向けず、指先から伝わる感覚に神経を澄ますことにした。


 しばらくするとどこか懐かしい感覚に包まれ始めた。指先から風を感じる・・・これは今の風じゃない、私が〝経験したことのある風〟のように感じた。


「なんだろうこの感じは」


目を開くとアヤカは少しうれしそうに笑っていた。


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