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11.名の有る物語 前編

〝東の王子はやがて西の王女を迎えに行くだろう〟


 東に住む小さな国の王子様。彼の名前はルミカ。新しく日が昇れば彼は21歳を迎えることになる。そんな彼自身に託された国の決まり事、それは自身の伴侶を西の国へ迎えに行くことだった。


 古いしきたりになぞらえて、彼は王子である身分を明かさず、王冠もつけず、質素で簡素な洋服。ただ1つのリュックサックと水筒。そして腰に付けることを許されているのは国の鍛冶屋で売っているナイフ1本。


 彼は迎えに行かなければいけない。


 出発は誰にも見送られることない時刻。まだ月が空高く存在し、月の明かりに照らされた道が彼の出発を見守るだけだった。


「いってきます」


 踏み出す足には勇気と力。そして、必ずや伴侶となる王女を迎えに行くという決意で満ち溢れていた。


 国を出て1つ目の村を発見するとルミカはそこの年長者と話をする。


「しばらく働かせてくれないか」


 年長者はルミカに仕事を与えることにした。旅人が出来る仕事は力仕事。家を作るためのレンガを運ぶのが作業内容だった。


 しばらく働き、お金が手に入ると村を出て、また歩き出す。


「みんなはこうして働いているんだ」


 王子は聡明であり、また懸命であった。歩きながら見る風景、訪れる村、そして辿り着いたのは大きい街だった。


 ルミカは大通りに置いてある古い木のベンチに座るとそこで人の生活をじっと見つめていた。様々な人たちがいる。あっちには市場が有るのだろうか、あの人たちはきっと夫婦だ。子供たちが走っている。


 その光景を見つつ、王子はまた仕事を見つける。街で選んだ仕事は他国から輸入してた品物を台車に乗せて市場へ運ぶ仕事だった。


 また、しばらく働くとお金が出来た。もうすぐ西の国の近くだ。西の国。その国は東の国と少し違っていて、城下町のような風景だった。中心にお城があり、その周りを煌びやかな街が取り囲んでいる。


王子は王女を迎えに来たという目的を果たすため、城を訪ね、門番に出会った。


「私は東の国の王子、ルミカです。西の王女を迎えに参りました」


 というと門番はルミカを上から下までじっと見る。


「・・・王子であるという証拠は?」


「証拠は・・・ありません」


「では、会わせるわけにはいかない。帰ってもらおう」


 ルミカには王冠はもちろん、豪華な服も着てなければ、国で使っていた紋章付きの剣もなく、自分の事を証明するものを何一つとして持ち合わせていなかった。


「さて、どうするか」


 いくら説得しようにも言葉では信頼を得ることが出来ない。そう感じたルミカはとりあえず近くの宿場へ向かうと宿を決めた。


 夜になり、夕食をとるため食堂に向かう。そこには様々な人たちが食事をとっていて、店の中にあるステージでは何か大道芸のようなものが行われていた。


食事が運ばれてくると、代金を支払うために財布を取り出す。その時、彼は思い出した。


「そうだ、リュックサック。長旅の中でほつれてしまっていたんだった」


 彼は食事を運んできてくれた店員に尋ねた。


「ここらあたりでカバンを直してくれそうな職人はいないですか?」


 店員は食事を置きながら答える。


「ああ、それならこの店の向かい側にあるよ。ツグハのカバン屋だ」


「どうもありがとう」


 ルミカは食事を終えると自分の部屋に戻り、ほつれてしまったカバンを手に取ると言われた通り、店の向かい側に行く。すると看板はでていないものの、ミシンの音と布の置いてある棚が窓から見える建物を見つけた。


「きっとここだろう」


 店の前に掃き掃除をしてる女性を見つける。彼はカバンを手に持って話しかけた。


「すみませんが、修理は受け付けていますでしょうか?カバンがほつれてしまいまして」


 というと箒を持っていた女性は手をとめ、ルミカの方を見た。


「もちろん受け付けています・・・。けれど、この店の店長ツグハさんに入っている注文は今現在とても多くて、かなり時間が掛かってしまうかもしれません」


「どのくらいかかりそうですか?」


「・・・少し待っててくださいね。それをお借りしても?」


「もちろんです」


 というと彼女はルミカのカバンを手にして店に消え、しばらくすると戻ってきた。


「やはり、かなり時間が掛かってしまうみたいです。そこであなた様にご提案があるのですが」


「・・・なんでしょうか?」


「私はこの店の見習いカバン職人です。なので新しいカバンを作ることは任されていないのですが、直すことであれば出来ます。どうしましょうか・・・。もちろん金額は半額で大丈夫です」


 ルミカは少し考える。


「もちろん大丈夫です。それと半額ではなく全額お支払いいたしますよ。それがきっとお互いにとって大事なことですから」


 そうしてルミカはカバンが直るまで少し待つことにした。

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