4.訪問者
私は立ち上がると窓を開けに行った。どうやら雨はまだ降っているらしい。気が付くと夜になっていて、窓から見える道路には街灯に照らされていて反射しているのが見える。
「私の未来・・・」
そうやってアヤカは私に伝えてくれた。それも私の気が付いていない内側の話のこと。
さっきまで対話をしていた内容を全て理解することも、納得することも中々出来ないのかもしれないけど、でも1つ分かっていることがあるとするのであれば、未来の自分は今の自分がやっていることではないということだけ。
それとまだ分からないことが有る。
どうして私は今になってアヤカの存在に気が付いたのだろうか。さっきも言っていたけど、アヤカは植物でもある。植物はそこら中に生えているし、何ならプランターで野菜を育てたことだってある。
でも、その時にアヤカに出会うことはなかった。彼の口ぶりから察するに、ずいぶんと前から私に語り掛けていたようだったけど。
分からないことは聞いてみないと、分からないままか。
そうつぶやくと私は煙草の火を消し、本を読んでいるアヤカに向って質問をしてみた。
「ねえ、アヤカ。あなたの言っていることは・・・その何となくわかったのだけれど」
「うん」
「でも、じゃあどうして今気が付くことが出来たの?私は」
彼は持っている本を閉じると私の方を向いた。
「・・・美香自身が実は気にしていたんじゃない?」
「何に?」
そう答えるとアヤカは私に手を向けて来た。
「過去の自分がやってきたことに」
やってきたこと・・・。過去の自分が?でも何となくそれは別の世界に行ったことで分かる気がするのもあった。
「それと、少しだけ、植物の種の話をするとね」
「うん」
「種というのは条件が揃うことで芽が出る。そうじゃないと秋に落ちた種がそのまま発芽しても冬を越せないだろう?春まで待てないといけないわけで」
「まあ・・・そりゃそうだね」
「種類にもよるけどね・・・。でも、条件が有るのはどの種も同じことになるんだけど・・・」
アヤカは私のおでこを指さした。
「でも、プランターに自分が望むもの、美香は前に野菜を育てたといっていた。つまりそこに自分が望む何かを育てて収穫するためには、種が芽を出す条件にもう1つ足さないといけない」
「もう1つ・・・?」
「そう、それが〝自分で選んで植える〟っていうこと」
「でも・・・私の場合はアヤカが植えてくれた」
「うん。それもそう。だけど、美香自身が僕に気が付かなければ種は植えられることはなかった。そしたら紫の本も出てこないでしょ?」
確かにアヤカの言っていることはわかる。野菜の種は飼って来なければいけないのだけれど、何を植えるかというのを決めるのは私自身。そしてつまりアヤカが言いたいことは結局、紫の本の種も〝私が選んで植えた〟ということになる。
「でも・・・それが」
と言いかけるとアヤカは言葉を繋いだ。
「他人が選んで決めたモノと自分で選んで決めたモノには大きな差がある」
「・・・それは前にも言った通り、何か物語を見てそれでどう感じるかに差が有るのと同じくらいにある。ということはそれで得られる物にも差が有る」
「つまりどういうことか、というとね」
アヤカは自分のツバサに手を向けた。
「美香自身が選んだモノをきっかけに、僕はこの世界でキミにツバサをもたらすことが出来るということだよ」
その言葉が部屋に明かりを灯したように感じた瞬間、インターホンが鳴り響いた。
私は時計を見た。すると時刻は深夜1時。こんな時間に、一体誰が来たのだろうか。
普通なら出ないのが定石である。けれど、アヤカのその言葉の後に誰かが来た。ということはきっと〝何か〟があるはずだ。
ゆっくりと私は玄関に近づくとドアスコープを覗き込む。するとそこには見たことの有る人物が立っていた。
私はドアのカギを外すと玄関を開けた。




