3.対話
気が付かなかった。というよりも気が付かなかったのだろうか?まあそれはどっちでもいいのだけれど。とにかくアヤカは植物を通してこの世界にやってきた。
それは私も見ていたし、何なら送り出すところも、どうやってこの私のベランダに辿り着いたのかも想像できる。だから本当ならアヤカだけで完結しているはず。植物だから。
だけど、ドラゴンの姿をしたアヤカは紫の本を作る時、私の成分を入れ込んだ。つまりそれはどういうことかというと、あの世界でアヤカの成分と本の成分を入れた種だけで、本来は完結していて、それこそ鶏が先か卵が先かが始まるわけなのだけれど。
「・・・私の成分を入れるっていうのが、分岐点だったってこと?」
そう、私の成分を入れ込む必要は本来であればない。でもアヤカはあの時、プランターの近くで確かに私の成分を入れ込んだ。それはあの世界から持ってきた紫の本にまるで私のことを書き込むかのように。
「まあ、おおむねそこら辺の話になるのかもね。でも、まあ」
と言うと本棚から飛び立ち、机の上に降り立った。
「でも、もう少し前が分岐点になってる」
「前・・・?」
「そう、前。美香は気が付いているかいないのか分からないけれど、実のところ、僕という存在が特別だったわけじゃないよ」
「どういうこと?」
「ずっと語り掛けていた。けれど、その語りに参加しなかったのは美香の方」
何の事だろうか。全く分からない。
「まあ、簡単言えばようやく気が付いたって言う話。だから美香、本当の分岐点はキミがプランターに居た僕の存在に気が付いた時。その地点が分岐点」
「・・・じゃあ」
「そう、ずっと今まで長い時間、気がつかなかっただけ。それはもちろん、プランターだけじゃない。公園とか山とか。そういう所にだって〝僕〟の存在に気が付くことが出来た」
「それじゃあ、紫の本にあった、模様の分岐点って言うのは」
「まさに、あの分岐は僕とアヤカが出会った瞬間のもの。だって本は出会ってから・・・まあ言い方だけど、種を作って植えて、それで生えて来たでしょ?じゃあそれは過去のことだ」
そうか・・・気が付かなければアヤカとこうやって対話することもままならない。それに私の成分をもって、種に入れてそして本を作るなんていうこともできやしない。
私は長い時間、きっと通り過ぎていたんだ。アヤカ達が〝ずっと続けていた〟ことに。
「まあ、気が付いてよかったよ。僕もベランダに生えていたかいがある」
「でも・・・ちょっと待って」
アヤカは私の方を向いた。
「あの世界は・・・何だったの?ただの過去の世界じゃないってことはわかるけど・・・それにアヤカにツバサがあるってことは、その、アヤカに気が付いた時にはもう、その何て言うか、過去に何かしたらからとかじゃなくて・・・」
私自身も少し言葉を整理できていないことに気が付いていた。気が付いていたのだけれど、私は何かを言わなければならないと何か思っていて、それで言葉を出していく。
私として気になっていたのは、あの世界の事。分岐点が〝アヤカの存在に気が付いた時点〟なのであれば、あの世界は一体何だったのか。そしてなにより、アヤカの求めたツバサについてもそうだった。
「・・・この世界にやってくるとき、種が適しているのはこの世界の成分を取り込んで生長することで、美香達に認識してもらいやすくするっていうのがあるんだけど」
「・・・うん」
「もう1つ、何かあるとしたら、種って言うのは〝過去からの繋がりで、そして未来を内包している〟っていうもの。つまり、過去と未来、両方が存在している状態になる」
「まあ、そりゃそうだとは思うけど」
「そう、そして種から芽が出るということは、それはつまり未来に向かっていくってこと」
「じゃあ・・」
アヤカは私の方を見た。
「そう、僕にとっては過去かもしれない。けれど、美香にとってあの世界はキミ自身の未来なのかもしれない」
「そしてなによりも、あの紫の本には美香の成分が入っている。ということは、つまりそれは」
「・・・私自身の内側の世界?」
「うん。美香自身、気が付いていない、自身の中に存在する、美香だけの未来の形。それが内包されていたってことになる」
「そうでなければあの世界は存在しないから」
パソコンの前に置かれた椅子を引きだし、私は座ることにした。背もたれに寄りかかると天井を見つめる。
「私のみらいのカタチ・・・」
「まあ、だから僕にツバサが有るということは、美香の内側の世界で美香自身がやるべきことをやったからってことになる」
アヤカの方を見ながら煙草に火を付けると煙が宙を舞った。




