3.会話
ツグミを見送った後、窓を開けて夜風を感じながら机の上に置かれた白い紙を眺めていた。すると部屋のドアが開き、アヤカが部屋の中に入ってきた。
「・・・起きちゃった?」
「はい・・・寝るつもりはなかったんですけど」
アヤカは机の上に置かれているコップに気が付いた。
「誰か来ていたのですか?」
「うん。知っているかどうかわからないけど、ツグミって人が」
「・・・そうですか、あの人が」
知り合いだろうか。確かに見た目はアヤカと同じくらいだった。・・・私とリンリンみたいな学校の同級生とか?
「あの人は師匠です。先生でもありますけど」
「師匠?なんの?」
「私の見える世界を何というか指南してくれる人です」
どういうことなのだろうか。見える世界の指南?そんなのは聞いたことも無いけど。
「見ている感覚が同じ、もしくは同じように見ようとしている似た者同士ということですね」
ますます分からなくなってきた。見ている感覚が同じ?それって本人にしかわからないんじゃないのか。同じように見ようとしているというのは何となくわかる気がするのだけれど。
「少し、お話を聞いてくれますか?」
「うん」
そう言うとアヤカは椅子の上に座った。私はお茶を持ってきて差し出すと彼は「ありがとうございます」と言って一口つける。
「私達、つまり美香さんが言う所の〝アヤカ達、アヤカ側〟にはモノや人、それと・・。大きく括れば生き物。それがどうしたら次の段階へ行けるのか、そのためにはどうしたら良いかということが何となく見えるのです」
「それは実態を持たないモノ、例えばフィクションなんかもそうです」
「なるほど、つまり同じものを見ていてもってこと?」
「ええ、そういうことです」
アヤカは机の上に置かれた私の描いている仕事の本を手に取った。
「これは本にしか見えないのですが、私からは本以外の要素のことも見えます」
「どんな風に?」
「それは・・・上手く説明できないのですが・・・」
アヤカはしきりに言葉を選びながら話していく。
「そうですね・・・植物ってやがて花が咲いて実を付ける。ってことは知っていると思うのですが、それと同じです。ああ、この植物はやがて花を咲かせるだろうって。そんな感覚で本とか、人とかが見えるって感じですかね」
「となると未来が見えるというわけではないってことね」
「はい。未来は分かりません。ですが、これはどうなるのか。ということは何となく見えるということ。そしてその伝達する手段。つまり会話。その会話をどうするかの為に師匠に学ぶことになるわけです」
会話をする相手は私達ということになる。
見えないモノ、これからどうすればよいのかということは実体化されているもので語ることが出来ない以上、それは言葉にする必要がある。言葉を含めた文章は過去も、未来も語るのだけれど、そう言うことが出来る・・・なんというか媒体みたいなものの役割。
それが彼らの言う所の言葉の重要性。
「もちろん、全てのモノが言葉になっているわけでありません。だからリンさんのように何かを通して見たものを色として絵として形にするということもあるわけで」
私はアヤカの語ることを聞いているのだけど、その中であることに気が付いた。
そもそも、アヤカは何を伝えることが出来るのだろうか。
ということである。
私の持っているペン、そして銀輝師と言われている力というか能力は確かにアヤカ達から教えてもらったものであるが、アヤカから教えて貰ったわけではない。
するとアヤカ自身にも何か誰かに伝えることのできる力が有るということになる。
そうでなければここに居る理由、私に会いに来た理由がなくなる。
それをアヤカに伝えると彼は
「そうです、もちろんあるのですが、やるためにはツバサが必要なのです。今いる場所から舞い上がり、そして師匠とおなじ領域に行く必要があるのです」
なるほど、そういうことか。
何か見えない物を掴むようなそんな感覚でいた私に、目標というかやるべきことの理由が何となくわかり始めて来た。と同時にじゃあ私は彼に何をしてあげられるのかということを考えないといけないわけで。
私は彼のツバサ、それを求めることに対して少し考えなければならなかった。




