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12.花実

「さてと、美香。あなたは知っていると思うけど、私の描く絵には・・・描くのが人物だった場合、その人に描いてもらう部分が有る。・・・この場合はアヤカに描いてもらうのだけれど」


 リンリンは持っていた筆を置くと、私の方を見た。


「でも、今回はアヤカじゃなくてあなた。美香が描く」


 そして私の持ってきたカバンを指さした。


「おまけにこの筆じゃない。持ってきたペンで」


 なるほど。リンリンがそういうのであれば、そうしなければいけないのだろう。そう思ったのは彼女の目。その目はもう私の知っている〝リンリンスタイル〟そのものだったから。


 私は彼女の座っていた椅子に座るとアヤカの描かれている画用紙を見つめた。


 描かれているのは椅子に座っているアヤカ。そして、その絵にはアヤカが持っていないはずの有るモノを私が描くことになる。


「描いてもらうのは」


 リンリンはアヤカに目を向け、そしてそこから私に向ける。


「本。アヤカが持っていない本を描いてもらう」


 私はその言葉を聞いた時、アヤカの方を見た。すると彼も何かあったのだろうか、私の方を見つめてくる。


「・・・それって、その、色はどうする?」


「なるほど、いいことを聞くね」


 彼女は腕組みをするとお茶が置いてあるテーブルに向かい、そして一口。その後に煙草に火を付けて天井を見上げた。


「美香の持っているペン。インクは紫じゃない。だから色を付けられない」


 ということはリンリンは紫で本を描こうとしていたことになる。


「でもね美香、そのインクの色だけが本当の色じゃないってことに気が付く日がいつか来る」


「なにそれ」


「まあ、いいや。ともかく、そのペンで描いて欲しいのは紫色の高そうな本。おおよそ古い本屋の戸棚の奥にありそうなそんな雰囲気のやつ」


 そんなこと言われても描けるはずがない。そもそも私には絵心というモノが無いのもあるのと、リンリンは雰囲気だけで伝えてくる。だからいつもなら描けないのだけれど、この時はなぜかその本の形や風体、そして重さまで何となくわかっている気がした。


 私はペンを手に取るとそのままアヤカが描いてある場所に伸びていき、そのまま本を描き込んでいく。


 その様子をリンリンは後ろから煙草を吸いながら見つめてきているのが何となく、その視線でわかった。


 しばらくして私なりに描いた本。アヤカが両手で抱えるようにして持っている本。それが出来上がるとリンリンは一言、


「いいじゃない。よく描けてる」


 と言ってくれた。


 けれど彼女の言う本の色、紫色にはなっていない。そりゃそうだペンの色はそもそも紫ではない。本は画用紙の白、そしてペンのインクの色の黒で描かれることになった。私はこの本にリンリンかそれか私か、アヤカが紫色の絵の具で色を付けるのかなとおもっていたのだけれど、リンリンは本はそのままにしてアヤカや背景の仕上げをし始めた。


 気になった私は聞いてみることにした。


「ねえ、リンリン。本の色はどうするの?」


「このまま。というよりも私から見たらこれはキチンと〝紫色の高そうな本〟に見えるから大丈夫」


 そう答える彼女の顔はどこか満たされているように感じた。


 またしばらくすると絵が出来上がったようで、それを彼女はアヤカに見せに行った。


「すごいですね、ちゃんと僕がそこに居るみたいです」


 そう、リンリンの絵はすごい。なんというかもちろん絵の具を使って描いているのにも関わらず、そこにその本人が居るのかもと見てしまうくらい本人を感じることが出来る。

上手く言葉にすることが出来ないけれど、あえて言うならば〝写真よりも実体感がある〟という感じだろうか。


「ちょっと待っててね」


 というとリンリンは奥のほうにきえていき、しばらくすると白くて薄い本のようなものを持ってきた。


「これ、プレゼント。良い物を描かせてもらった」


 それは絵を納める本。リンリンが言うには「本来は多分フォトブックってやつ。だけれど私はそこに絵を何枚か入れられるようにして作った特注品」そう自慢げに言うとさっき描いたアヤカの絵を納め、そして彼に渡した。


 帰り際、私はアヤカに聞こえないようにリンリンに一言「本当にいらないの?お金」と聞くと彼女は笑いながら


「うん。・・・どうせ後でもらうことになるから」


 とそれだけ私に伝えると見送ってくれた。


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