6.感覚
お茶を入れてリビングへ。アヤカと話をするときにはもうすでに日は落ちて、月と星が空に見えていた。
「ありがとうございます」
アヤカはお茶を受け取ると息を吹いて冷まし、そして一口。私はその様子をじっと眺めていた。
「それで?僕たちの話って言うのは?」
「はい、実はですね、僕がここまでに来る途中にも色々とあったのですが・・・。その前に」
アヤカは自分の左腕を指さした。
「こういう話を聞いたことが有りませんか?この国に伝わる話。〝東の王子はやがて西の王女を迎えに行くだろう〟っていうタイトルのやつです」
「ああ、それならみんなが知っている有名なお話でしょ?もちろん知ってるよ」
アヤカの持ち出した会話の最初はこの世界に住む人なら子供の時、読み聞かせとかそういうので知っているほどに有名な話だった。私も初めて知ったのは学校の先生からの読み聞かせだったのを覚えている。
「それで、あまり知られてはいない事なのですがあの話、実は対になっていまして」
「対?」
「はい、なので本来のタイトルは〝東の王子はやがて西の王女を迎えに行くだろう、そして月の女王が世界を照らすと、輝きはきっと自分の世界を語るだろう〟というものになります」
私は持っているお茶を一口含んだ。
「それで、僕たちの世界ではこのお話、作ったのはずいぶん昔だと習っています」
「そうだね・・・かなり昔だっていうのを私も聞いたことが有る」
「はい、それでなのですが・・・この話が作られたのは美香さんの世界と僕の世界、その2つの世界の境界線がまだはっきりとしていない時と言いますか・・・」
この話は初耳ではない。世界の歴史を少し調べればなんとなく見えてくる。世界を2つに分けたのは私も知らない時代に起きたある出来事というか発見というか・・・発明というか。それをきっかけに私とアヤカの世界は分かれた。分かれたというよりも・・・・。
と考えているとアヤカは言葉を続けてきた。
「本来、僕と美香さんの関係は〝求め合う〟という感じでした。なのでこのコンパスも〝求め合う指針〟という名前が付いています」
「けれど、今はそうではありません。いうなれば〝必要な時に会いに行く〟という関係性になっています」
同じような意味合いの言葉で表現される関係性ではあるものの、その中身は全く同じではない。その世界を2つに分けたきっかけ以前と以降ではそれぞれの住む世界が以前よりもより鮮明に分けられるようになった。とのことだった。
現に今、アヤカは私の隣に居る。これは今の世界の感覚だとかなり珍しい事であるのはわかりきっているのだけれど、さっき見たようにアヤカには、彼にしか見れない景色がそこにある。それが私にとってどれだけ何というか、私のやりたいこと、していることを手助けしてくれるというか、手を添えてくれるかもしれない、というのは何となくわかる。
つまり、私の隣にアヤカが居るという関係性の方が私達にとってしたいことがスムーズに運ぶことになる。ということ。
それがわかりきっている遥か昔になぜか私たちの関係性というモノが同じ世界を見つめなくなっていった。
「なので、美香さんの世界だとあのお話の前半だけが伝承されていて、後半含めた全文は僕の世界に伝承されているという感じになります」
私はアヤカが話していることに耳を傾けつつも、ある思いが頭の中に浮かんできた。
彼は私達との関係性を本来なら〝求め合う〟という表現をしていたこと。というのであれば私達が求めるモノが有るならば、彼らにも求めるモノが有るはずである。
今、彼らとの関係性は彼らに見えている世界を私達が教えてもらい、その対価としてお金とか食料とかそういうのを支払っている。
彼らに見えている世界というのは私たちにとって生活を豊かにしたり、便利にしたりするものが多く含まれていて、というよりも彼らの目線があるからこそ今の私たちの世界がここまでになったというのもある。
ならばきっと彼らが本来私たちに求めているモノというのはきっと別のモノになるのだろうか。じゃあそれは一体・・・?
私は再び腕組みをして天井を見上げるとアヤカに質問をした。
「じゃあ・・・アヤカは何かを求めて私に会いに来たってこと?」
「もちろんです」
「それで・・・それは一体?」
私がアヤカにそう聞くと彼は私の目をまっすぐに見つめてこう答えた。
「僕にツバサをくれるのは美香さんなんです」
そう言い切った彼の目には何か決意のようなものと、強い意志を感じた。




