5.見せてくれますか。
他人が見ている景色は一体どのように見えているのだろうか?例えば、私がある人を説得したくて言葉を並べる。そうすると分かってくれる時とそうじゃない時がある。私が伝えたいことを伝えるということは出来なくて、向こうが「ああ、美香はこういうことを言いたいんだろうな」って思ってくれるかどうかにかかっていることもある。
つまり、相手の事を信用している?この場合は信頼になるのだろうか。
頼りない杖で歩く道を探っているようなそんな感じに近い。
でもアヤカは多分きっと私達とは住んでいる世界が異なる。ということはきっと私たち以上に言葉の背景を眺めることが出来るのだと思う。
だから本来なら本人しか感じることのできないこの本を見ることが出来るのだろう。
私は本に目をやるアヤカを見ながらそう思った。
しばらくアヤカは本を見ていた。その様子を見ながら私も頼まれていた仕事をやろうと引き出しから写真や絵を取り出すことに。するとアヤカがその気配を察知したのかこちら側にやってきた。
すると彼は本を置き、自分の胸元へ手をやるとそのまま首の後ろに持っていき、私も気が付かなかったのだけれどペンダントを外して机の上に置いた。
綺麗で素敵なペンダント。という感じもするのだけれど、なんというか考古学的な香りもしそうなそんな雰囲気があるそんな風体をしている。
「これは?」
私はアヤカに質問をする。
「求め合う指針、自分の行くべき場所を指し示してくれるものです」
なるほど。つまりアヤカは何らかの理由があってこれを持って、この指針が指し示す地点を目指していた。という話だろう。でも、どう見ても準備万端で目指しましたという感じではない。やっぱりどこか誰かに追われてここまで来たのだろうと思わせる。私は彼の足を見てそう思った。
「それで・・・その指針を・・・その、なんだ、えーっと、頼りにしてきたと?」
「そうです」
アヤカはペンダントを指さした。
「これは、美香さんの世界でいう所のコンパスに似ています。あれはどこに居ても一定の位置を指し示すものですが、これは少し違っています」
「なるほど」
私はアヤカの指先を見た。するとそこには確かにコンパスのように指針がある。けれど、少しというか大分違うのが、指針は動かない。いうなれば絵に描いたような感じがして到底動きそうにないように見える。
「・・・これ、動くの?」
「はい、動きます」
アヤカが言うならばきっとそうなのだろうと思ったのだけれど、それ以上に気になったのがこの指針が指し示す場所である。
どうみてもこちら側に指針が来ているように見えた。
「じゃあ、アヤカはこの先に行く必要があるってこと?」
私は私の後ろ側を指さした。指針の方向的にはこっちに行けと言っている。
「いえ、そうではないです。・・・美香さん、立ち上がって移動してもらえますか?」
アヤカの言う通り、私は立ち上がるととりあえず本棚の方へ向かった。
「ここでいい?」
「はい」
アヤカはペンダントを右手の手のひらに乗せるとそのまま私の目の前にやってきた。
「これ、見てください」
アヤカの持っていたペンダント。その指針は私の方を向いていた。・・・これは一体どいうことだろうか、としばらく考えたのだけれど私は今度、右側に行ってみた。すると指針は私についてくるように指示した。
「これはどういうこと?・・・そういうこと?」
「指針はそう言ってますね」
つまりアヤカが求める場所というのは私になる。彼は私に会いにここに来た、ということにもなるのだろうか。
でも、一体なぜここに?私は腕を組んで天井を見上げた。
アヤカの求める何かを私が持っているとしたら・・・なんなのだろうか。としばらく考えを巡らせていると彼は私に言葉を投げかけて来た。
「美香さん、僕たちの話を少ししてもいいですか?」
その言葉に私は少し反応するとアヤカの方を見た。
「うん、もちろん。じゃあお茶を入れよう」
と言って私はキッチンに向かって行き、お茶の準備を始めた。




