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12.果実

「過去に戻ることはできない。けれどそれって過去を知らなくてもいいって言う話でもない。知ることは出来る」


「だけど」


 アヤカはベランダから部屋の本棚に目を向けた。


「僕たちは実物化が出来ない。美香たちの世界の住人じゃないから」


「つまり日記とかそういうのにまとめられないってことでしょ?」


 アヤカは輝きに重みを付けることは知っていてもそれが出来るわけではない。実際に過去の物を見ることが出来る私にとっては想像できない事なのだけれど。


「うん。だから美香に僕の過去を知ってもらうためには別の方法をとるしかない」


「別の方法」


 そう言うとアヤカは座っている私の膝の上に乗ってきた。すると頭を差し出す。


「手を置いて欲しい。どっちの手でもいいよ」


 言われるがままに私は左手をアヤカの頭の上に乗せた。というよりも添えたに近い感覚。何せ彼は実体感がそこまでない。


「それでもう片方の手を本のところに置いて欲しい」


「こう?」


 言われた通り私は左手をアヤカの頭に、そして右手を本の表紙の上に置いた。


「銀の力、月の力を少し借りよう」


 アヤカはそう言った。私の輝きは銀、月の力を借りて本に実体化している。だからこそ少しだけ力を引き出すことが出来るらしい。私にはその理屈はわからなかったけど、彼が言うには例えば人が水を飲むとき、その水だけをとりこんでいるのではなく、水が通ってきた旅路そのものを取り込んでいくのと同じとのことだった。


「目の前に有るモノ、起きるコトはその目の前じゃなくて、もっと前から有るモノ」


「だから美香、イメージして欲しい」


「イメージ?」


 目の前の事ではなくその向こう側を見に行く感じ。手間ではない。植物はいきなり葉っぱを付けて存在しているわけではなく、その前の段階である種から始まっている。けれどその種にも前があり、さらにその前がある。


 そんなことは分かり切っているのだけれど、どうしてなのか目の前の事ばかり気になって前の事をなかったことのようにしてしまう。


「過去は未来」


「美香、本の力を感じて僕に集中して欲しい」


「そう言われましてもですねぇ・・・」


 とりあえず言われた通りイメージはしてみる。なんかよくわからないけど本の力をイメージ。想像とかそういうのを考えてみる。そしてアヤカに集中。この時私は添えた手に意識を集中させることにした。


 最初は何も感じなかったのだけれど、しばらくすると〝懐かしい感じが両手にある〟という感覚を手の平に感じるようになってきた。


「なんだろうこれ」


 その懐かしい感覚がしてきたとき、アヤカは私に「そしたら左手で本にある分岐点に触れて欲しい」とお願いしてきた。


「うん」


 私は言われた通りにアヤカの頭から手を放し、本の分岐点のところへ指先を添えた。すると指先から風が吹いて来た。風は段々強くなり、左手の指先からまるで全身を包み込むまでになっていく。


 私はその様子をただ見守ることしかできなかった。気が付くと足元に居たアヤカはいつの間にか私の肩に乗っかっていた。


「美香、僕の過去、輝きそのものを感じてもらう方法」


「これが?」


「うん」


 すると強い風が吹き、私は思わず目を瞑ってしまった。


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