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10.過去から

 その日の夜、いつもならスーパーの総菜とかそういうので済ます夕食ではなく、自分で何か作ろうと買い出しに出かけた。料理するなんて言うのはいつぶりだろうか。と思い出せないくらいにやっていないわけではあるが、別に料理は出来ないわけではない。多分人並みには出来ると自分では思っている。


 料理を作りながら私は銀に触れた指先の感触を思い出していた。


「あの感じはなんなのだろうか」


 模様に触れた時、消えてしまっていた経験というか何かを思い出しそうな・・・でもアルバムを開く感じではない。思い出ではない、自分がやってきたことの塊みたいなそんな感じがした。


 完成した夕食を食べながらアヤカを見ながら色々考えているとアヤカがこちらに近寄ってきた。


「もうあれが何なのか、美香の中で出てるみたいだね」


「え?」


 あれからじっと考える私をアヤカは黙って見つめてくれていた。それで私の独り言を聞いていたのだろう、彼の中で言葉のピースが合わさったのかもしれない。


「そう、この本にある模様は美香自身が歩いて来た足跡、人生の足跡、だから模様は途切れていない。まるで川の流れ、葉脈のように繋がってる」


 やっぱりそうなんだ、そんな感じはした。


「でも何の模様かはわらかないでしょ?そう、分からない。どうして分からないのか、それは美香、キミ自身がまだ自分の人生を見返していないから」


「キミの輝きを取り出し、実体化しても読み取ることは出来ない状態にある」


 アヤカが言うには私自身に〝過去の整理整頓〟のようなものが出来ていないから、あの感じ、あの模様が本の表紙に映し出されたという。けれど、これは特別私に限った話ではないらしい。


「他の人では歩いて来た道を見返すことは出来ない、出来るのは唯一自分だけ」


 アヤカは私に手を向けた。


「歩いて来た跡が銀色になった。輝きを持って人は道を歩くとしたとき、それに重みを付けなければ跡にならない。だから輝きは重みを付けると跡になる。前も言ったけど、美香の場合は銀で重みを付けたからその跡がこんな感じ」


「・・・重みを付けるってことは、その、アヤカにとって大切な事なの?」


「ううん、僕にとって、じゃないかな」


 すると彼は今まで私の部屋で読んでいた本を何冊か持ってくると目の前に置いた。


「そう、理想を言えば美香、この部屋に有る本には作者が居る。それは誰かが書いたモノが置かれている。だから彼らが生きていれば、ずっと生き続けていれば、例えば話を聞きに行けばいい。重みを付けことなくそのままでいい。けど、いなくなるでしょ?いずれかは」


「だから重みを付けて跡を残さないと誰も知ることが出来ない。美香自身のことすらも」


 そしてアヤカが言うには重みを付けた輝きは実際の輝き、その本人が放っていた輝きと少し差が出るという。まあこれも考えれば至極単純な話で、スクリーンとかの力が入っているから実際の物との差は当然でてしまうわけで。そして何よりも、それによって起きる重要なことは


「本を読んだ人、手にした人、そもそもその人だって同じじゃない。それぞれにスクリーンを持っている。それに時代、性別だってスクリーンになりえる」


「だから同じものを見たとしても、違う感想、解釈が出てくる」


 堰を切ったようにアヤカの言葉が流れていく。けれど、このアヤカの言葉、最初に出会った時に聞いていたら多分きっと理解できなかっただろうけど、今なら何となくわかるし、私から少し彼に聞くこともできる。


「模様が全く読めないってことはわかったんだけど・・・じゃあ、開けないって言うのも同じこと?」


「そうだね」


 まとまっていないから、形にすらなっていないから、実体化はしているけれども読めない本。


「けど、大切なことがあってさ、それが何の形で実体化するかって言うのはこの〝世界〟つまり〝美香の世界〟に任せるしかない。だから、本になることすら僕には予測できなかった」


 もしかしたらスマホとか車とか。そういう別の形になっていたかもしれない、とアヤカは続けた。そして何より、私自身と何か関係の有る形になるように、必要だとわかるように世界は私に対して呼応した。その実体化が本になった。とのことだった。


 ということは考えると自分の過去を見返すこととか、まとめることが出来たなら、この本の模様も理解することが出来るし、開くこともできるのではないのか。そう思った。


「もちろん、それでそれのまあ、ヒントというべきかなんというか。それが本という形になっていること、つまりきっと美香にとって必要なのは、物語、ファンタジー・・・過去のお話。そういうものなんじゃないかな」


「私の過去の物語ってこと?」


「そう、それで最初に言った通り、美香と僕は同じ。キミの過去は僕の過去でもある」


私は煙草を咥えると火を付けた。


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