王婿コンペはお人よし教皇しか勝たん!
突然だけど、女王になっちゃった!
男性が権力を握る事が多いこの国では、なかなかに珍しい事態ね。
そうなった理由?お兄様が思った以上にぽんこつだったからよ。
二つ年上のお兄様。
公爵家の長女ベアトリクス様と婚約していて、その後ろ盾込みで時期国王になることが決まっていたのに、真実の愛を見つけて婚約破棄するとか画策し始めちゃったの。
いや別に宜しいのよ?真実の愛を貫く男女がいても。でも、王族たるもの、生半可な気持ちで周囲を巻き込むのはよろしくないわ。
もしも貫くのであれば必死のパッチで用意周到に……なんて言葉では生温いくらいの、覚悟とか、根回しとか、才覚とかが必要なのよね。
だって国って民を未来へ運ぶ船みたいなものよ?
皆、泥舟には乗りたくないわ。もちろん私も。
だから、私はベアトリクス様側について、さっさとお兄様にはご退場頂くことにしたの。しかもお兄様ったら、早めに非を認めて降参すれば廃嫡と辺境領への追放で済んだのに、引き際も弁えなかったものだから『王家秘伝の真実の愛を試す試練』を受けて頂くことになって……
そしたら、公爵家は私の後ろ盾につく事になって、心労もあったのかお父様は体調を崩して……
あれよあれよと私が王になってしまったわ。
「優秀だって評判の隣国王子に嫁いでのんびりする予定だったのに……はあ、とりあえず早く王婿を選ばないといけないわね。」
だって、そうしないと国が荒れるし、そうなったらきっと隣国から攻め込まれるもの。お家騒動があって若い女王が未婚で荒れた国なんて、いいカモだわ。
面倒だけど王族だから仕方ないわよね。
できる範囲で頑張りましょう。
◇ ◇ ◇
「ええ!?本当に自分でよろしいのですか?」
「ええ、よろしくお願いします」
コンペの末、王婿には若い教皇のランシスさんという方を選ばせてもらったわ。どんな人か一言表すなら『お人よし』って感じ。
王婿になったらやりたいことがあるかきいたら、『各地に教会を置いて神の教えを広めて、あと懺悔室なんかも沢山作って、皆の悩みを軽くしてあげたいんです』って。
ちなみに、なんでそんな人が教皇の座につけたかというと、前教皇の孫であり、ギラギラした野心が無い所がお爺さん世代のお偉方にウケたからなんですって。
ちなみに私にもウケた。
他の候補者の『富国強兵』とか『鉄と血』とかも悪くないんだけど、イケイケなビジョンは、私とはちょっと音楽性が違ったのよね。ほら、私って優しいからさ。
あと、『優先思想』とか一部ちょっとやりすぎじゃないって話も聞いて頭が痛くなってたから、優しいランシスさんの話がスーッと沁みたのもある。
王族としてはちょっと甘いと言われるかもしれないけど、教会の後ろ盾ができるのは悪くないし、とりあえず優秀な次世代に繋げるまでの期間を無難に過ごせたら私としてはそれでいい。
まあ、この選択が結果的に成功だったと言われる様に、私は私ができる範囲で頑張るまでだ。
人事尽くして、後は神頼み……なんてね。
◇ ◇ ◇
「侵略遠征を中止!?なぜですか」
「若い女王に、王配は愚鈍な聖職者ですよ」
「臆しましたか?それか彼女に未練でも?」
ここは隣国。
第一王子のエクセレは、侵略計画を中止する様に国王に上奏し、好戦派から説明を求められていた。
「ソフィア王女……おっと、もう女王だったね。彼女に未練があるのは当たりかなぁ。」
でも、それはロマンチックな理由からじゃないよ、彼女以上に僕に楽をさせてくれそうな女性は未だ見つかっていないからさ。
そう言ってため息をつくエクセレ。
内心では、この好戦派達に彼女の半分くらいの察しの良さがあってくれたらいいのになぁ、なんて思っている。
「侵略戦争は、王の交代に伴いあちらが混乱している隙をついて短期終結させるのが前提だったよね。でも、あちらの国は今、凄く安定している。政教が上手く融合して国民の支持率も高いからね。」
それどころか、あちらの国の反王家勢力や、こちらへの秘密のパイプのある貴族が徐々に力を失っているのが現状だ。そしてそれは偶然ではない。
「おそらく彼女、国中に懺悔室を作ると同時に、そこに寄せられた悩みの中から国政に必要な情報を集める高度な情報網を作ったんだよ。きっとお人よしな夫には、『民の悩みを解決するために必要なんだ』なんて上手いこと言ってさ」
人の口に戸は立てられない。
しかも懺悔室は本来秘密が厳守される神への告白なので、それが一層顕著だ。そこには勿論、ストレスを抱える貴族やその使用人だって訪れる。
一つ一つは軽い懺悔でも、それを集めて優秀な頭脳を持つものがピースを繋ぎ合わせることで、今、国のどこで何が起きているのか、大きな絵が見えてくるのだ。
「しかも国境に隣接するこちらの貴族が向こうの宣教師を受け入れちゃっただろう?無償で街にお金を落としてくれるならこちらに何も損はないってさ」
つまり本国もすでに、その射程範囲に一部含まれていると言うことだ。大掛かりな戦の準備などすれば間違いなくバレるだろう。
「若い女性ってことで騙されがちだけど、ソフィア女王はきっと、君たちが思っている以上に恐ろしい人だよ。彼女の兄が最終的にどうなったかは皆知っているだろう。」
好戦派達は黙り込む。
現王は深く頷き、結論は出た。
エクセレは笑顔を作り、ぽんと柏手を打った。
「と、言うわけで侵略計画は中止でーす。でも、悪い事ばかりじゃないよ。彼女は穏健派で話のわかる女王だからね、誠意を持って接すれば我が国の素敵なビジネスパートナーになってくれるはずさ。」
(まあ、僕が彼女に恋していたのは事実なんだけどね。夫の名前はランシスだっけ?くそう、むかつくなあ……)
内心でそんな事を思い、ながら、しかし表には一切出すことはない。彼もまた、ソフィアと同様に優秀な王族であり、国のために私情を切り離せる人物だった。
(しかし、僕も早く妻を娶らないとなぁ……そうだ、彼女の真似をしてみようか。確か愚鈍な教皇に孫娘がいたはず……)
次の瞬間には頭を切り替え冷徹に計略を巡らせ始めるエクセレ。
そんな彼が王妃溺愛マンに変貌を遂げるのは、もう少し先のことである。