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マガタツケン  作者: 華蘭藤
序章 始まりは終わりの味を知っている。
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原衛土(ハラエド)12

 だだっ広い空間に、ヒトが6人。それぞれ一定の距離を取って、ともいえないくらいの間隔で、思い思いに過ごしている。

 腹が減ることもなければ、眠くなることもない。寝ようと思えば寝られはするだろうが、こんなところで寝て何が起こるかはわかったものではない。

 ぼんやりと天井の見えない空を見上げて、一生は呟いた。

「これが世にいう5億年ボタンの世界ってやつかな……」

「いつの時代の話をしてるのさ」

 一生の上から声が降ってきた。航が腕を組んで、寝転がる一生を見下ろしている。

 その横で、アルバドゥが何か思いついた様子で起き上がり、辺りを見回した。

「アルちん、なんかひらめいたん?」

「ひらめいたわけではありませんが」

 アルバドゥは鉱石でできた床を指でなぞる。一生も上体を起こしてそちらを見た。

「なんだかここだけ、線のようなものがありませんか」

 見た目には変わらない一部分に触れながら、アルバドゥが言った。航と一生は顔を見合わせてから、アルバドゥの示したところに触れる。

 触るとわかる程度の凹凸の上を光の筋がキラリと瞬くように通っていく。

「ほんとだ」

 見た目には凹凸のわかりにくい素材ながらも、触れれば確かにそこに線がある。さらに言えば、その線は導線のように、光の粒子の通り道にもなっているらしい。

 指先で線をなぞる。真っすぐに進んで、十字の分岐、それから先にも繋がっている。触れたところから光が広がって、いくらか先のところで燃え尽きるように消える。

 その光を目で追って、近くに手のひらをつけて線を探していた一生は口をとがらせた。

「オレ、ぜんッぜんわかんないんだけど」

 アルバドゥは床の線の上をつんつんとつついて遊んでいる。触れれば光が広がり、離せば消える。

 その様子に、航はもしかして、と口の中で呟いた。それから立ち上がり、あたりを見回す。広間の端、入口の方にはすっかり鍛錬に戻っているナオ。それから、扉の方で話し合っている麗と正親。四方の壁から1メートルほどのところまで、時折キラリと光るところがある。

「アルちん、コウちんがなんかわかったっぽい」

「そうなんですか、こうちん」

 一生につつかれて、アルバドゥも顔をあげる。無表情のまま航を呼ぶアルバドゥに、航は一瞬渋い顔をする。

「お嬢様までその呼び方するのね。まあいいや。とりあえず2人とも立ってよ」

「えぇ……」

「なんでそういう顔になるの。お嬢様も面倒くさそうにしない。何をしようとしてるのかわかってるでしょ」

 航は2人にどくよう促す。仕方なさそうに、のそのそと2人は立ち上がった。

 それから航に押される形で、壁際まで移動する。こうして見るとより広く感じられる。

「んで、どうすんの?」

 一生が頭の後ろで手を組みながら航に視線を向けた。アルバドゥもそれに倣う。

 航はその場にしゃがむと、床に手を当てる。光が走る。直進と分岐を繰り返し、広間の向こう側まで。麗と正親もそちらを見やる。ナオも一瞥したが、すぐにまた暇つぶしとばかりの素振りに戻った。

「おお〜」

 広間いっぱいの輝く床に、一生は心の籠もっていない歓声と拍手を航に向ける。アルバドゥもそれに倣い、ぺちぺちと手を叩いている。

 航は床につけていた手を離して、2人を見上げた。

「見えた?」

「何が?」

「何がって」

 これはそもそも見ようともしてなかったんだな、と航は察した。親指で床を指して、続ける。

「多分これがヒント。俺のとこからじゃ一面光って、何が書いてあるのか見えなかったけど、そこからなら多少なんか見えたでしょ?」

 航の言葉に、一生は一瞬視線を上に向けてから、壁に背をもたれさせた。

「確かになんか文字っぽいのあるなーとは思ったけどさ〜。一瞬で見るとかムリ〜〜」

「そう言われても俺だってそんなに祝に余力はないんだって」

 諸手をあげる一生に、航も立ち上がりながら応じる。そしてそのままアルバドゥに視線を移した。

「お嬢様は?」

 灰色の瞳が航から一生、床、天井へと移る。

「そんな超人じゃありません」

 キメ顔だった。キラリと効果音のつきそうなほどの様子だった。本人としてはこれが正解だと思ったのだろう。ということは航にも一生にも容易に理解できた。

 その様子を見守った上で、航が口を開く。

「お嬢様は比較的超人寄りなはずなんだけど」

「そんなことありません」

 アルバドゥは淡々とした声音で、無表情のままそう言う。

 一生が航の肩をたたいた。

「コウちん、アルちんにだって反抗したいときってのがあるんだよ」

「これ反抗期とかそういうものなの? お嬢様、本当に何も考えてなかったか、わかっててやってるよね?」

 航のジロリとした視線をアルバドゥは流す。怒られている犬みたいだと、一生は思った。多少バツの悪さは感じているらしい。

 てかさ、と口を開いたのは一生だった。

「ここに書いてあるもの見るんなら、オレたちだけじゃなくて、レイちんたちも呼べばよくない? あとコウちんが見たほうがなんかわかりそーな気ぃしない?」

「そうですよ」

 アルバドゥはそれに賛同し、小さく何度も首を振る。航もそれに頷いた。

「じゃ、お嬢様よろしく」

「え」

 ぽんとアルバドゥの肩を叩いて、航は扉の方にいる麗たちを呼びに行こうとする。その腕をアルバドゥが取りすがる。

「待ってください、よろしくとは」

「だってお嬢様なら祝も無尽蔵でしょ?」

「そうなん? すごいねアルちん」

「まあ、そんなこともありますが」

 鼻を高くするアルバドゥが力を緩めた隙に、航は抜け出した。

 あっと言う間にアルバドゥから距離を取る。オオアリクイが威嚇し合うような姿勢で、数秒見合ってから、先に動いたのは航だった。

「……何やってんの2人とも」

 一生の冷ややかな視線などものともせず、アルバドゥは少しだけ頬を膨らませた。

絶対こんなに詳細に話を進める必要ないと思うんですがそう思うのは私だけですか。

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